一流の仕事につき、高い年収を稼ぐ東京の男たち。

世の中の大半の女性が結婚を夢見る、いわゆる“アッパー層”と呼ばれる人種である。

しかしその中でも、ハイスペであるが故に決定的に“残念な欠点”を持つ男、というのが存在するのだ。

元彼を35歳の美女・恭子にとられて傷心中の瑠璃子は、ハイスペ男との出会いを積極的に繰り返すが、なぜか残念男たちを次々引き寄せてしまう。

瑠璃子が出会う、“残念極まる男”たち。あなたも、出会ったことはないだろうか?

前回は、結婚したいがあまり見境をなくしている専門商社3代目・ケンジに出会ってしまった瑠璃子。さて、今週は…?




「瑠璃子、最近食事会にも積極的に行ってるらしいけど、いい出会いはあった?」

同僚の女性陣と『ウマミバーガー』でランチをしているとき、理奈が瑠璃子に向かって問いかけた。

「それが…出会いはあるんですけど、皆、ハイスペなのにどこか決定的な欠点があって」

瑠璃子は、これまで出会ってきた自撮りドクターや商社マンの話を振り返り、苦笑いをしながら報告をする。

すると、それまで理奈の隣で黙って話を聞いていた恭子が、口を開いた。

「ハイスペック男ってことは、社会的に成功している男性ってことよね。人間がそこまで登りつめる原動力になるのは、過去の経験への悔しい思いだったりするから…。

いいじゃない、男のコンプレックス。初めから順風満帆な人生なんてありえないってことよ」

落ち着いた雰囲気で、余裕たっぷりの笑みを浮かべる恭子の言葉には、なんだか妙な説得力がある。そこで理奈が口を挟んだ。

「で、今デートしてる人はいるの?」

「はい。ニューヨーク留学帰りの、34歳の弁護士と先日食事に行きました」

「弁護士、いいじゃない!しかもニューヨーク帰りだし、帰国子女の瑠璃子とも価値観合いそう!」

理奈の黄色い歓声を遠くに聞きながら、瑠璃子は弁護士・龍太郎のことを思い返していた-。



龍太郎と知り合ったのは、つい2週間前。大手日系弁護士事務所で秘書を務める女友達が、食事会を企画してくれたのだ。

龍太郎は、愛知県出身、東大卒。事務所の留学制度でアメリカにロースクール留学をし、ニューヨーク州の司法試験合格後、現地の提携事務所での研修を終えた。最近日本に帰国したばかりだという。


完璧すぎる!国際的なハイスペ弁護士との出会い


海外経験に英語力。国際的な男との出会い


食事の最中も、最近話題の芸能人のネタで盛り上がっている他のメンバーをよそに、龍太郎だけはひとり落ち着いた雰囲気を放っていた。瑠璃子は彼に近づいて、そっと話しかけた。

「龍太郎さんは、ゴシップニュースなんて興味ない、って感じですか?」

「うーん、俺、ニュース番組はCNNとBBCを見ることが多いんだよね」

-へえ…ニューヨーク帰りの弁護士は、さすがレベルが高いのね…。

その後二人で話す機会はほとんどなかったが、後日龍太郎から誘われて、食事に行くことになったのだった。



丸ビルの『暗闇坂 宮下』で、瑠璃子は彼の話を夢中になって聞いていた。龍太郎は、ニューヨーク時代の話を生き生きと語っている。

瑠璃子は感心してつぶやいた。

「龍太郎さん、向こうの司法試験をパスしたり、現地の事務所で業務をこなしていたなんて本当にすごいですね。頭がいい上に、国際的に活躍されてるんですね!」

龍太郎も嬉しそうに答える。

「まあね。帰国してからも、海外の企業との国際的案件を任されることが多いんだ。英語力も海外経験もかなり役立っているよ」

そしてビールを一口飲んだ後、グラスを置いて目を細めた。

「いやー、でもそろそろニューヨークが恋しいよ。向こうに帰りたいなあ。東京にいると、時々息が詰まるんだよなあ。

「わかります、わかります!」

瑠璃子は嬉しくなって何度もうなずく。正直、帰国子女の瑠璃子は敬遠されることも多かった。“帰国子女”にあまりよくないイメージを抱く人も多いし、先日の商社マン・マサルのように勝手に引け目を感じる男だっている。

でも、龍太郎は違う。十分な海外経験を身につけ、確固たる自信を持つ男は頼もしい、と瑠璃子は目の前の男を見つめながら思うのだった。



後日、龍太郎のことが気になって、Facebookのアカウントを覗いてみた。

そこで、おやっと思った。アカウントネームが、“Ryutaro Russell Kawata”となっているのだ。

-ラッセル?外国籍かな?それとも、もしかしたらアメリカで生まれたのかな。英語が得意そうだったのも、そういうわけか。

ちょうどそのとき、先日の食事会を企画してくれた友達からLINEが送られてきた。

-瑠璃子、あれから、食事会にいた誰かと連絡とってる〜?

瑠璃子が、龍太郎と食事に行ったことを告げると、彼女から思わぬ返信がやってきた。

-え。川田先生?そこ行ったかw

瑠璃子はLINE画面を見て首を傾げる。


ラッセル龍太郎の正体とは?


「そこ行ったかw」とは一体どういう意味だろう。怪訝に思って尋ねると、友人はこんなことを言ってきた。

-彼、もちろんすごく優秀な先生なんだけど、ちょっと痛いところがあって。たった2年向こうにいただけなのに、生粋のニューヨーカー気取りだし、英語も大して上手くないのに、自分のことネイティヴレベルだって吹聴してるの。

2年…?弁護士の留学事情に全く詳しくない瑠璃子は、てっきり龍太郎の口ぶりから、最低でも5、6年は海外にいたのかと思い込んでいた。瑠璃子は尋ねた。

-FBで名前見たら、ラッセル龍太郎って。どういうこと?

すると友人の返答は、驚くべきものだった。

-ラッセル?いや、ただの龍太郎よ。外国人気取りが行き過ぎて、ついに自分で名前までつけちゃったみたい。いや、あなた日本人ですから!って感じで痛いよね!

しかし、例え滞在期間が短いとしても、アメリカでロースクールの授業を受け司法試験を通過し、現地の事務所で働くことは容易ではないだろう。語学力だって、ネイティヴでないなら尚更、その吸収力には脱帽だ。

瑠璃子がそう主張すると、友達はこう説明した。

“お勉強”は出来るから、法律関係のボキャブラリーには長けてるものの、イコール流暢な英語が話せるわけではない。謙虚にしていればそれで良いのだが、本人がネイティヴ気取りで偉そうにするせいで、皆から失笑されているそうだ。

-この間も、海外の事務所への英語メールで“wannna”や“gonna”を多用するものだから、外国人弁護士の先生に注意されてたわよ。ビジネスメールでそれは絶対やめたほうがいいって。

-そうなんだ…。仕事のメールでワナゴナ遣いは確かにいただけないわね…。

再び彼のFacebookに目を落とす。『アールツー サパークラブ』や六本木ヒルズの『リゴレット』で外国人と肩を組む写真とともに、確かにネイティヴレベルとは程遠い英語のコメントが載せられている。




瑠璃子は元々、男に海外経験や語学力を求めてはいなかったのだが、先日のデートで彼が見せた自信たっぷりの態度とのあまりのギャップに、がっかりと肩を落とした。



龍太郎の件を、恭子たちに話し終えると、理奈が笑いを堪えながら言った。

「昔デートしてた人で、そういう人いた!語学留学しただけなのに、アメリカ人気取りだったの。地方出身の人だったけど、東京の一流大学に入ったから地元に帰ると英雄扱いなんだって。そんな彼が海外に出たから、“東京の俺”から“世界の俺”になったような感覚なんじゃない?」

そういえば、龍太郎も愛知県の小さな町出身だと言っていた。彼の話で印象的なことがある。アメリカ滞在を通して、自分が世界でも通用する弁護士だと確信できた、と得意げに話していたのだ。

-虚勢を張らなくても、十分素晴らしい才能の持ち主だろうに…。ああ…残念だなあ。

だけどふと、恭子の言葉を思い出した。”成功を目指す原動力となるのは、過去の経験の悔しい思いやコンプレックスだ”という一言を。

それが本当なら、ハイスペ男なんて皆、欠点だらけということになる。

-今回は、目をつぶるべきかしら…?

瑠璃子は、LINE画面をぼんやりと見つめる。最近では英語混じりで話しかけてくるようになった龍太郎のLINEにため息をつきながら、悶々と悩むのだった。

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タイミングを逃してばかり…。押しが弱すぎる男。




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