小泉小委員会の議論をまとめた高木新平氏に、その心意気を聞いた(撮影:尾形文繁)

2020年以降を見据えた新たな社会モデルを打ち出すべく、小泉進次郎議員を中心に自民党若手議員で作られた「小泉小委員会」。議論紛糾しながら模索する様子は、『人生100年時代の国家戦略――小泉小委員会の500日』に克明に描かれた。
この小委員会で発信アドバイザーとして議論をとりまとめ、「レールからの解放」という全体コンセプトを生み出したのは、1987年生まれの若者。コンテクストデザイナーでNEWPEACE代表の高木新平氏だ。
「本当にカオスでした。これ、どうまとめればええんや!と」
政治の世界とは無縁にも見える高木氏は、議論にどのようにかかわり、ビジョンを打ち出したのかを聞いた。

それは「若い世代の仕事」であるべきだ

――どのような経緯で政治とかかわるようになったのですか?


もともと政治には興味があったんですよ。博報堂を辞めたあと、2012年に「One voice Campaign」というネット選挙運動の解禁を目指す活動を手掛けたんです。田原総一朗さんほかいろんな人々の声を集めて、SNSで署名を募ったりして。

当時は、若者がネットで政治的な活動をするのが珍しかったので、メディアでも取り上げられました。実際、このキャンペーンがきっかけで、ネットを利用した選挙運動が解禁されて、「おもしろいな」と思うようになって。

世の中にビジョンを仕掛けるのが僕の仕事ですが、政治もそのジャンルのひとつと考えているんです。印象的だったのは、オバマ前大統領の選挙運動でした。オバマ政権でスピーチを書いていたのは、ジョン・ファヴローという当時二十代半ばの若者です。IT戦略を仕切っていたFacebookの創業メンバーの1人、クリス・ヒューズも当時二十代半ば。そして、ここで集まった人たちが「Teach For America」など新しい社会づくりを仕掛けていったんです。

ひとつのビジョンを仕掛けて、チームを作っていけば、社会的な面白い流れが作れる。考えていることを、世の中に対して新しい価値観としてちゃんと伝えていくこと、それは若い世代の仕事であるべきなんじゃないかと思うんです。そういうことを僕もやりたい。そこから、「近い将来、総理大臣のスピーチを書く」と周りに言うようになりました。

やがて、地方選挙や東京都知事選なんかで声がかかるようになり、キャンペーンを手掛ける中で、「夢に近い仕事があるけどやらない?」と声がかかって。小泉進次郎さんら若手議員が、新しいビジョンを示そうとしているんだけど、それをメッセージとして落とし込む必要がある、やってほしいんだよね、と。共鳴するものがあり、即引き受けました。

議論はカオスだった

最初に委員会に参加したときは「誰なんだろう」という目で見られていたでしょうね。


高木 新平(たかぎ しんぺい)/コンテクストデザイナー、NEWPEACE代表。1987年富山生まれ。新卒で博報堂に入社するも1年で独立。「よるヒルズ」や「リバ邸」などコンセプト型シェアハウスを各地に立ち上げ、ムーヴメントを牽引。またネット選挙運動解禁を実現した「ONE VOICE CAMPAIGN」などを主導。2015年、NEWPEACEを創業。“20世紀をぶち壊す”をビジョンに掲げ、社会課題からストーリーを組み立てる新しい形のブランディングを実践している。自民党「2020年以降の経済財政構想小委員会(小泉小委員会)」のオブザーバーを務めた。(撮影:尾形文繁)

僕は2015年4月に厚生労働省の「保険医療2035」というビジョンを書いているんです。だから、政界の人の中へも違和感なく入っていけました。だけど、議論になると、もう、カオスでしたね。

進次郎さんの課題設定はとてもクリアでした。「人口減少に悲観的になるな。減少は当たり前と認めて、それを攻めにする新しいビジョンを出したい」と。「なにが問題なのか」が明確だと、ビジョンも明確になる。ところが、実際に議論が始まったら、みんながいろんな意見や正義を持っていて、ああだこうだとしゃべり出します。これ、どうまとめればええんや!と。

厚労省のときは、トップダウンだったからやりやすかった。でも小泉小委員会では、本当にフラットな議論がなされたんですよ。民主的だったとも言えます。毎回長時間になりますし、もうみんな本気で議論しているから、どう聞いていいかわからないときもありました。

進次郎さんは、ファシリテーターのような存在でした。あまり自分の意見を言うことはない。でも、アジェンダを設定しているのは小泉さんなんです。厚労省分割案もそう。「分割すべきじゃないか。だって今の厚労省はおかしい、仕事の領域が広すぎると思う」と小泉さんが言う。参加者は、それに沿って議論する。

賛否こそあれ、みんな意見を言うから、気持ち良かったりもする。つまり、論点そのものが重要なんですよね。小泉さんは、場の作り方、議論の進行の仕方が圧倒的にうまい。帝王学を学んでいるなという感じがしました。

僕は、どの人の意見をどのぐらい入れようかずっと考えていました。本当にカオスでしたよ。これは自民党のすごいところだと思いますけれど、保守もリベラルもいるんです。

「社会保障とはなにか」、これひとつとっても、そもそもの認識が人によって違う。議論し尽くしたし、そろそろ一度まとめようか、という感じで持ち帰りましたが、「いやマジ、これどうまとめようか」と。そこから2日徹夜して書いたものが、「レールからの解放」です。

提言は「抽象度」を上げつつ「絵が見える」ように

提言は、なるべく抽象度を上げました。各論になると、結果が見えやすい分、なにをどれだけ減らすとか、目先のことばかりになってしまいます。メディアも突っ込みますし、反発も起きやすい。でも国家の運営は、こういう方向で行くというビジョンのほうが大切ですからね。

どう抽象度を上げるかというところは、僕がやってきた仕事でもありますし、一任されていました。絵は浮かんだと思います。「社会保障」「社会のあり方」って抽象的で絵が浮かびづらいけど、レールという表現を使ったことで、形にはなったなと。

ただ、哲学者のカール・シュミットが言うように、政治の本質は「味方と敵の区別」だったりするわけで、もっと明確に、敵を明示したフレーズのほうが浸透しやすいんですよね。「政権交代」とか「郵政民営化」のような。その点、メディア的な煽りが弱かったかもしれません。

でも、今回やりたかったのは「転換」です。『ライフ・シフト』のように、考え方をシフトさせたかった。新しい考え方って、得てして受け入れられないものです。だから、「解放」という言葉で表現しました。

――クリエイターの方が国家ビジョンを作るというのは、あまりないことですね。

スピーチライターは、いろんな人が出始めていますけどね。鳩山由紀夫元首相の原稿は、劇作家の平田オリザさんが書いていましたし、今も安倍晋三首相のスピーチライターは元『日経ビジネス』の記者の方です。広告出身者では珍しいんじゃないですかね。しかも、僕のような権威とは程遠い人間が。自民党本部の建物に入るとき、毎回、警備に止められましたから(笑)。

提言を出してから、何人かから「おまえ書いただろ?」と言われました。「高木新平ぽい」と思われたんでしょうね。うれしいですし、それだけメッセージとして強かったということです。主観があって、非常に感情のこもったものになりました。

僕は、自分が信じていないことは発信しないんです。「レールからの解放」も自分ごととして書いたし、同世代に読んでほしい、同世代なら「それ普通じゃない?」と思うようなことを書いたつもりです。できた時は、「これしかないな」と思いました。これがだめなら降りようと。

――議論のなかでもご自身の意見をぶつけていらっしゃいますね。

かなりフラットに意見を言わせてもらいました。『人生100年時代の国家戦略』にも書かれていますが、勤労者皆社会保険制度にフリーランスを含めるかどうかについては、ある議員とぶつかりました。

「これからフリーランスが増えるに決まってるのに、それを含めないなんてありえないですよ。なに言ってるの?」と。

普通の政治家というのは、企業を見ていますからね。終身雇用もそうですが、企業に支えられた社会保障になっている。それをベースに考えるから、フリーランスを軽んじるんです。でも、あんたら政治家だって全員フリーランスやん、みたいな。

これまでの考えじゃだめだという危機意識からはじまった委員会ですから、僕のような人間がいたのは良かったのかもしれません。もっと意見を言いたかったですよ。

「昭和の成功体験」はもういらない

だいたいが古すぎるんですよ。社会の仕組みもですが、考え方、思考そのものを変えたいですね。「20年学んで40年働いて20年休む」なんていうのは、もう生き方として古い。これからは100年生きるんだから、そんな昭和の直線的なわかりやすさではダメなんです。いつ学んでもいいし、いつ働いてもいい。結婚して主婦になるとキャリアに穴があくなんて言いますけど、そんな価値観こそ「幸せの敵」なんですよ。

僕は子どもが2人いますが、これからは「男が家庭のことをしないなんてダサい」になると思います。昔はそれが男らしさだ、という感覚があったかもしれませんけど、それはチョンマゲで街を歩くようなもんですよ。僕は、「女性の社会進出」より「男性の家庭進出」のほうがキーワードになると思います。女性は十分社会進出をしているけど、結局、家庭を守らないといけないから、それ以上できないだけ。男が家庭進出しないと。

でも、高度経済成長期が前提になっている政治家には、できないんですよ。昭和の時代の成功体験があるから。僕も、上の世代を見て、気をつけなきゃなとつくづく思うんですけど、人って自分の体験でしかモノを考えられないところがあるものです。

僕が運営していたシェアハウスが、全国紙に大きく特集されたことがあるんですよ。でも、その見出しが「希望は貧乏」。貧乏でも気にせず前向きに生きているとかなんとか書かれていて。憤慨して、その新聞社へめちゃくちゃ文句言いに行きましたよ。「おまえ俺の年収知ってんのかよ、シェアハウスの価値を古いモノサシで決めつけんな!」って。ただ若者を取り上げれば若者目線になると思ってる。それは、ただの上から目線です。

今回の提言もそうですけど、日本人の価値観を考え直すきっかけをつくりたかったんです。今の時代は、かっこいいものを作ればブランドになるのではなく、世の中にいい問いを示した人達がブランドをつくると思っています。例えば、昨年12月、米国のTIME誌が「Person of the Year」として「#MeToo」を選びました。セクハラ被害を告発した、普通の一般の人たちにフォーカスが当たる時代なんですよね。

こういう社会問題がある、それを変えようぜという問いがあって、そこにどう立ち向かうかに興味を持ち、応援したくなる。細かい機能やデザインではないわけです。

企業も、これからの時代は、本来の意味の「カンパニー」に近づかないと、支持されなくなると思います。仮想通貨なんかもそうだけど、モノを買うより、その会社のビジョンを買う、というのが普通になる。「ここがおかしい。こう変えるぞ!」という意志に寄せられた期待がおカネに変わるわけです。だからこそビジョンを示した小泉小委員会は、本質的にフィットする仕事だったなと感じます。

30代の総理大臣と「日本をアップデート」したい

さらに言えば、人口減少社会になって、割りを食っているのは、若い人です。僕は世代に価値観があると思っていて、それに基づいて社会や文化をアップデートしていきたいと思っていますが、今の日本だとなかなか難しい。やっぱり上の世代が、ボリューム的にも資産的にも「マス」ですから。国内で考えていくと、やることがどんどんシルバーに染まっちゃいます。選挙とか見てると、そう思いませんか。

僕らの世代の成長戦略って、海外に出るしかないんですよ。新しい価値観のことをやるためには。例えば、NEWPEACEでは、サラダ感覚のカレー「6curry」を販売していますが、これはニューヨークのストリートで食べられるように、カレーを再構築したものです。既存のカレーに慣れ親しんだ上の世代からは、受け入れられないかもしれない。でも世界規模で見れば同世代は多いし、みんなインスタで繋がっているから、イケてると思えばバッと広がる。その連帯を意識しています。

だけど、やっぱり日本社会をアップデートしたい気持ちもあります。だから、フランスの大統領のように30代の総理大臣が早く出て欲しいですよ。その点でも、進次郎さんには期待しています。「レールからの解放」を実現してくれることを。いや、もっと攻めた日本改造論を描きたいですね。近い将来、進次郎さんのスピーチ原稿を書けるように、僕も勉強していこうと思います。