『写真:AFLO』

 大手仮想通貨取引所「コインチェック」の社員が異変に気づいたのは、1月26日の午前11時半ごろだった。この日の午前3時ごろから、同社が顧客から預かっていた仮想通貨「NEM」の流出が始まっていた。

 わずか8時間半で、すでに同社が預かっていた大半、580億円分が流出していた。外部から不正なアクセスを受けた可能性があるという。出川哲朗が一人二役で兄弟を演じ、「兄さん、教えてよ!」と叫ぶCMを年末から大量にオンエア。「ビットコイン取引高日本一」として話題になっていた同社で、過去最大の流出トラブルが起きた。

「30万円を預けていました。年明けからビットコインも暴落し、泣きっ面に蜂です」(50代の男性)

 同社に会員登録している人は100万人以上。仮想通貨バブルに、CMの影響もあり、2017年12月は前月の10倍の口座申し込みがあったという。

「(安全対策は)技術的な難しさと、おこなうことのできる人材が不足していた」

 和田晃一良社長は記者会見で、流出の原因をそう語り頭を下げた。27歳の若社長は、どこで誤ったのか。

 和田氏は埼玉県の出身。県内の私立高校では、バドミントン部に所属していた。パソコンオタクで、高校生からプログラミングを独学し、大学は東京工業大学へ。2年生のとき学科選びの参考にしたのは2ちゃんねるだったというから、あまり学業に本気ではなかったようだ。

 その代わり在学中からアプリの制作会社でアルバイトを始め、 就職試験の攻略アプリを作って賞をとった。そして大学3年の夏休み、知人と会社を立ち上げる。その後、大学は退学した。

「最初は、仮想通貨とはまったく畑違いの分野に進出しました。和田氏が手がけたのは、一般の人が体験談をネット上で共有するサービス。あの『ビリギャル』も、そこから生まれたんです」(経済誌記者)

「ビリギャルの仕掛人」だった和田氏のことを、この記者は「仕事が趣味のような人」と話す。

「おとなしくて、自分からはあまりしゃべらない。謝罪会見では、隣に座った右腕の大塚雄介取締役にばかり話させていましたが、ふだんから表に出る仕事は、ひと世代年上の彼にまかせていました。社長というよりゴリゴリのエンジニア。

 いわゆる『ITベンチャーのトップ』にありがちな、アクの強いタイプとは正反対の人です。飲み会に出てきたという話も、聞いたことがありません。親しい女性はいるかもしれませんが、独身です」

 真面目人間の和田氏が、仮想通貨に目をつけ「コインチェック」を始めたのは2014年2月。当時世界最大の仮想通貨取引所だったマウントゴックスが破綻し、「市場に穴が開いた状態で、ニーズがあるとみた」と、以前日本経済新聞のインタビューで語っている。

「他社があまり扱わない、マニアックな仮想通貨も扱うことで人気を得ていました。ただそうした仮想通貨は匿名性が高く、そのため『仮想通貨交換業者』の登録は金融庁に見送られ続けていました」(同前)

“真面目なエンジニア”は、生き馬の目を抜く仮想通貨の世界で、落とし穴に落ちた。

(週刊FLASH 2018年2月13日号)