まずは上司と、「なぜ自分が選ばれているのか」「何を学ぶべきなのか」を会話してみてはどうでしょう?(写真:Xavier Arnau/iStock)

結婚・出産で大きく変化する女子の人生は、右にも左にも選択肢だらけ。20代はもちろん、30代になっても迷いは増すばかり。いったいどの道を選べば幸せに近づけるのか? 元リクルート“最強の母”堂薗稚子さんがお答えします。
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【ご相談】
30代女性会社員です。業務上で月に数回、国内出張があり、苦痛に感じています。自分の仕事に必要で、自分が判断したのであれば仕方ないのですが、上司が主担当の案件に、お供のように連れていかれる出張なのです。独身で子どものいない私ばかりが指名される気がし、納得がいきません。

実際に出張にいくと、現地の方たちとの会食にももちろん同席、同僚へのお土産の手配をし、規定で上司よりずっと安いホテルの部屋に泊まり、往復を上司とずっと一緒に過ごして、仕事と言えばメモをとるなど簡単な業務ばかり。なのに、「おいしいものを食べられていいなー」「○○、行ってみたいわ」などと同僚に言われます。体力的にも精神的にも、また経済的にだって、決して得していないのに……。上司のお供出張を上手に断るすべはないものでしょうか。

苦痛に感じる要因は主に3つ?


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実は、先日も20代、30代の独身女性たちとの会食の席で、同じような話を聞いたばかりです。彼女たちは、大企業の東京本社に勤めているのですが、地方の支社や支店に出張に行く上司に同行させられた経験があり、その目的が「親睦」としか思えないと言って憤慨していました。

社内にもかかわらず、接待のような会食や手土産、内容の薄い会議や表敬訪問など、「これ、意味あるの?」とただでさえ疑問なのに、そこで上司の秘書のように振る舞いをさせられることへも「なぜ私が?」と感じているようでした。

また、あなたと同じく、「独身だからって……」という不満も口にしていました。それを聞きながら、この時代でも生産性を考慮しない、このような業務があるのかと驚きつつ、一方で、出張に行くことそのものが苦痛な人が思った以上にたくさんいることにも驚きました。

仕事ですから旅行気分はないでしょうが、もっと自分なりの楽しみを見つけている人が多いのかと思っていたのです。私自身も会社員時代、出張に行く人に、「何がおいしいところでしたっけ?」「お土産に○○をお願いしまーす」などと軽口をたたいていたことを思い出し、反省してしまいました。きっと、上司の方も、あなたが苦痛に感じているだなんて思いもしていないに違いありません。

あなたのご相談文を拝読すると、あなたが「出張が苦痛だ」と感じる要素はいくつかあるようです。1つ目は、「独身だから、拘束時間の長い仕事を任されていると感じる」ということ。2つ目は、「上司のお供、サポート業務なのに、長時間拘束される」ということ。3つ目は、「精神的にもしんどい業務なのに、周囲から楽しんでいるように思われている」ということ。お土産代などが割に合わない、ストレスの割に出張手当などが安すぎる、といったこともあるかもしれないですが、主には上記3つに集約されると感じました。いかがでしょうか。

そもそもの部分でいうと、これらの要素3つとも、上司のマネジメントが今の時流に即していないことと関係しているように思います。自分の経験を基にして「こういうものだ」と思い込んで判断したり、「背中を見て学べ」といった全員一律のマネジメントスタイルは、時代に逆行しています。理解や共感ができるかどうかは別にしても、部下がそれぞれに多様な価値観を持っていること、それを認めながら個々の力を伸ばし、チームとして成果を出すことが求められています。

頭ではわかっていても、「こういうものだ」という思い込みから逃れられない管理職が多い、ということかもしれませんね。あなたの上司は、たとえお供であっても上司との出張は意味がある、独身のあなたなら任せても大丈夫だ、きっと今は仕事に全力で向かいたい時期のはず、とでも考えているのかもしれません。

「独身者は、24時間仕事を優先させられる」とつい考えてしまう上司はけっこういると思いますが、かなり危険な思い込みです。誰にだって仕事以外の生活や事情があり、自宅で過ごすリフレッシュの時間を何よりも大切にしている人も多い時代です。出張などで自宅以外の場所で長時間を過ごすことが、強いストレスになる人もたくさんいます。

「独身だから」「子持ちだから」の決めつけは苦痛

さまざまな思い込みが独身者に向けられる一方で、既婚者にも同様のことはあります。たとえば「時間の制約がある」と思い込まれること。私が前職時代に事業責任者だった頃、全国に拠点があって、月に1、2回は出張がありました。子どもがいたので、周囲から、「育児があるのに出張があって大変だね」「ダンナさんも大変なんじゃない?」などと言われては、もやもやした気持ちになったものでした。

当時は、「必要だから行くだけのこと」と心の中で思っても、表面上は笑って「気分転換になりますから」などと答えていました。実際のところ、どちらも本心ではあったのですが。移動の時間を含めて、仕事に集中でき、行かなければわからなかったと思える収穫も多くありました。ひとりだけのベッドで手足を伸ばして眠れる開放感や、時間を気にせずに現地の方たちと食事をしたり語り合ったりできるうれしさなど、仕事とは別の楽しみもありました。だから、私は周囲が想像するようには、出張が苦ではありませんでした。

このように、独身でも、子持ちでも、感じ方はさまざまです。あなたの上司が私の上長だったとして、私のこういった感じ方を知らずに、私に必要な出張をさせなかったとしたら、私は不満に思ったかもしれません。あなたが、「独身だからといって、時間が無尽蔵に使えると思うなよ」と思うのとある意味同じ。

上司の思い込みが一番の罪ではあるけれど、他人同士ですから、言わないとわからないこともあります。あなたも、「察してもらえない」と憤り、上手に断ろうとするより先に、まずは自分の感じ方を伝えて、理解してもらうことを考えてみてはどうでしょう。もしかして、「そんなふうに感じていたなんて」と驚きとともに理解し、素直に反省してくれるかもしれませんよ(もちろん、上司のタイプにもよるので、見極める必要はありますが)。

それから、サポート業務の出張がつらいと感じることについてですが、それについても、同じようなことが言える気がします。同行の指示が来たら、出張の狙いや自分の役割、その必要性などをきちんと確認してみるのです。「お供」だけが主目的なら、現状で抱えている業務などを理由に、やんわり断ることもできるでしょう。単なる「お供出張」には行きたくないと思っていることもわかってもらえるかもしれません。

私も、私が主業務の出張に、メンバーを同行させることがありましたが、サポート業務が目的ではありませんでした。現地のキーマンと面識を持つことだったり、コミュニケーションの仕方を学んでもらうことだったり、その後の仕事への接続が想定されればこそ、同行させたのです。

ただ、事前に、同行目的と得てもらいたいことをしっかり話すように心掛けてはいました。それは、私自身が、「どうして私がやるのか」をきちんと理解したほうが、「まぁやってみればわかるよ」などと言われるより、ずっとモチベーション高く仕事に向かえるタイプで、部下も同じタイプが多かったからです。

同様に、上司は、「なぜ、あなたを同行者に選んだか」を、きちんと伝える義務がある、と私は思います。そして、あなたも改めて上司にそれを問うてみても良いのではないかと思うのです。私は、きっとあなただからこそ同行させたいという理由がちゃんとあるような気がしますよ。「なぜ私がやるべきのか」「その業務の意味・意義は何か」が確認できれば、出張に付随する、もろもろの不満も我慢できたりあるいは楽しみに変えられたりするかもしれないし、「それでも、私は長時間拘束の出張はなるだけ避ける働き方をしたい」となるかもしれません。

「苦痛です」と言うだけでは、損をする

出張も業務ですから、「苦痛です」という理由だけで断るのは難しいでしょう。上司との相互理解、目的や意義確認の努力をしても、やっぱり納得できなければ、何か理由をひねり出してみるのは? 思い込みが激しいだけの上司なら、「体調がいま一つ」とか「家庭の事情で」とかの理由でも、勝手に深読みして「それは悪かったな」となるかもしれないですよ?

そして、今後のあなたのために。もし、できるなら、たとえば、「いいなぁ」と発言する同僚の真意、家族がいて出張の依頼がない同僚の気持ち、あなたばかりを同行させようとする上司の思いなど、想像力を働かせて、あなた自身も自分と異なる価値観への理解を心掛けるようにしてみてください。今のあなたの口ぶりで、「苦痛なので行きたくない。全部自分が損してる!」と主張すると、本当に損してしまう気がしますから。

上司と部下に限らず、「相互理解」がさらに重要な時代になってきたなと感じます。あなた自身を理解してもらう努力、自分以外の誰かを理解する努力、双方必要なのだと思います。あなたの苦痛も、その努力で、少しは和らぎますように。