松崎みさ(まつざき・みさ)●1970年生まれ。幼少期を南アフリカ共和国で過ごす。1993年獨協大学外国語学部を卒業、ベンチャー・リンク子会社のモベラに入社。1997年に中古車輸出のアガスタを設立。アガスタの経営を2009年に退く。2014年に外国人労働者を受け入れるPeople Worldwideを設立。WORK JAPANは2017年に設立した新会社で、国内に住む外国人と企業のマッチングを手がけている。(撮影:今井康一)

日本に住む外国人は、統計上の直近の2017年6月時点で247万人と過去最高だ。正社員やアルバイトなどの形で働いている外国人就労者も108万人に上っている(厚生労働省の外国人雇用状況調査、2016年10月時点)。正しく言えば、産業界が外国人労働者を求め、その実需に応じる形で外国人労働者が増え、その結果、在日外国人も増えている。
だが日本は、飲食店の店員や建設作業員のような単純労働をする外国人には、就労ビザを給付していない。人手不足が日本経済の最大のボトルネックになった現在も、日本の外国人政策の基本方針は「単なる労働者不足への対応として、外国人の受け入れを考えることは適当ではない」という1990年代の方針を踏襲したままだ。
深刻化する人手不足と、「外国人の単純労働はNG」という公式見解の間で、どんな問題が起こっているのか。国内在住の外国人向けの求人情報サービスを展開するベンチャー企業、WORK JAPAN(東京・港区)の松崎みさ社長に話を聞いた。

外国人労働者なくして、日本企業は立ち行かない


――単純労働をする外国人向けの就労ビザを作るべき、というのが松崎さんの持論です。

単純労働ビザができれば、就労目的で来るいわゆる偽装留学生や、技術を学ぶという名目の下で職場を選ぶ自由すらない技能実習生といった問題が改善できると思います。日本の企業は、働き手を求めています。海外には、日本で稼ぎたいという人がいます。単純労働ビザがあれば、留学生や実習生といった「ねじれた制度」をあえて選ばなくてもよいのです。

私はシンガポール人の起業家であるデビッド・レオン氏と共同で、海外の人材を日本の企業に紹介する企業を立ち上げました。デビッドは自国で、海外の労働者を受け入れる人材サービスを手がけてきました。シンガポールは多くの外国人労働者を受け入れていることで知られていますが、それはリー・クアンユー元首相が「外国人も戦力として評価し、彼らの力も借りながら国を興す」と明確に決断したことによります。

それに比べると、日本はドラスティックな決断がまだ下されていない。それは外国人労働者だけでなく、いろんな問題で重要な決断が先送りされているようにも思います。

――このまま行くと、どうなりますか。

産業のサプライチェーンの下から崩れてきます。たとえば製造業でいえば、部品を作る中小企業でモノが作れなくなって、その結果、完成車メーカーで車が生産できなくなるということが起きるのではないでしょうか。

――自動車産業の系列企業のように、大手企業を黒子役の下請け企業が陰ながら支えるという構図は、日本では少なくありません。

私たちのマッチングサービスに求人情報を出して下さる企業にも、そういう黒子的存在があります。たとえばウェディング産業。最近はハウスウェディング(ゲストハウスを貸し切って行う結婚式のスタイル)が人気で、ウェディングそのものは専門の企画会社が手がけています。

でもひとつのウェディング会場で1日3回も素敵なパーティーが開ける現実の裏側には、ウェディング会場に特化した皿洗いの専門業者といった企業があるのです。そういう企業ではすでに外国人労働者が働いています。日本語がそんなにできなくても問題がないし、一生懸命頑張ってやってくれるということで。パーティーに来た人の目に触れることはないけれど、ウェディングも外国人の働き手によって支えられているのです。

ウェディングにとどまらず、ロングテールというのか、すごく幅広いビジネスから外国人が求められています。このことに、私たち自身も驚いています。たとえば温泉掘削業界。掘削そのものは資格が必要なのですが、補助作業をしてくれる人が足りないそうで、そこに外国人が求められています。ほかにはチラシのポスティング。確かに今でも、チラシっていっぱいポストに入っていますよね。本当にニーズがいろいろあるなと、身にしみて感じ始めています。

ただ残念ながら、外国人「が」いいと思って求人を出している企業というのは少ないのではないでしょうか。日本人の若者はどうしても応募してくれない。高齢者も主婦もいまひとつ採用に結びつかない。そういう中で、消極的に外国人を選択している企業が多いのでは。

この点、シンガポールは違っています。建設現場は体の強いバングラデシュ人が向いている。造船や看護だったらフィリピン人、というふうに、各国の人材の強みを重視しています。

外国人「でも・しか」の発想。

――造船はフィリピン人なんですか。

国策として、溶接工を育成しているといった理由があって、溶接工の有名な学校もあるんです。

そしてシンガポールではこういった仕事をする人を、スキルド・ワーカーと呼んでます。会計士や弁護士のような頭脳労働ではなくても、スキルが必要なのは変わらない。その考え方に立って、「外国人は嫌だけど仕方がないなあ」ではなく、より強いスキルを持った人を選んでいます。

――現状では、産業の裾野を支える中小企業が外国人採用に目を向けざるを得なくなっていると。では、大手企業は現状をどう受け止めているのか。松崎さんは2017年10月に、経済同友会の人口・労働問題委員会で講演したそうですが、反応はどうでしたか。

いろんな質問が出ました。大きな企業の経営者ばかりですから、外国人の就労をめぐるビザ制度の詳細については、全員が詳しいというわけではありませんでした。たとえば留学ビザを持っていても実際は出稼ぎ目的という「偽装留学生」の存在や、そういう留学生がアルバイトをすることで日本の産業がなんとか回っているという実態は、意外と知らないのかしら、という感じでした。

でも結論としては、「外国人は国民から嫌がられるテーマだけれど、これはきちんと議論しなければならないね」となりました。同友会の経営者にとっては、主婦や高齢者、障がい者の活用を進めようとずっと議論してきたけれど、どれにも手詰まり感があるからです。

たとえば、主婦が働けば労働人口が増えるという考え方ですが、実際には主婦が8時間も9時間も働くことはそんなにありません。103万円の壁の問題かというと、実は半分以上の人がその壁に全然ぶち当たらない程度の収入で終わっています。つまり、「たくさん稼ぐより、子どもとの時間を大切にしたい」といった判断を実際の主婦はしているのです。同じように、高齢者や障がい者にもいろんな実情がある。

同友会だけでなく社会的にも、外国人の受け入れをめぐる議論が増えている実感があります。ただ、「日本は単一民族で、移民は受け入れがたい」という国民感情が根強いのも現実です。ですから私は現実的な対処としては、外国人の労働者と移民を分けて考えるのがよいのではないかと思います。

今の日本には移民解禁は変化が大きい

――定住しない、短期間の労働力として受け入れる?

それが今の日本にはよいと思います。

私個人は米国やオーストラリアのような、移民を受け入れ、いろんな考え方をミックスさせ、新しいものを生み出せる国が面白いと思います。でも移民解禁に舵を切るのは、今の日本には変化として大きすぎる。

まずソフトランディングの方法として、短期の外国人労働者を受け入れる。その上での課題は、言葉の問題です。短期的な働き手であっても、日本語を完璧に話せるようになってから日本に来てほしい。そういう考え方もあるようです。でも働き手からみると、そうじゃなければ働けない国っておそらく日本だけです。

シンガポールでも米国でも外国人が多い国では、全員が完璧な英語を話すかと言ったらそんなことはありません。そしてそれを織り込んで、社会が回っています。たとえばレストランの店員が拙い英語でも、それにクレームを付ける人はいません。地下鉄や公共の空間の表示では、難しい言葉を使わず、シンプルにわかりやすく説明しています。こんな中、日本だけが高い語学能力を外国人の働き手に求めると、おそらく日本は働く国として選ばれなくなると思います。

世界の常識は日本で通用しない

――言葉以外にも、日本はまだまだ外国人にとって働きにくい、住みにくい国のようです。

たとえば銀行口座の開設は断られるがちです。本来は必要な書類を出せば作れるはずなのに、メガバンクでも地方銀行でも、書類があるのに開設を断られることが少なくありません。住宅もまだまだ大変。部屋の借り主がその外国人を雇用する日本企業であっても、「外国人には住んでほしくない」といって大家さんから断られることがあります。職場では、社長と人事部が外国人採用を決断しても、現場のパートさんが嫌がっていじめるようなこともあるようです。

――こういった心理的な抵抗感は、制度の問題よりも改革が難しそうです。

これはもう、少しずつ外国人を受け入れてもらって、少しずつ変わるのを待つしかありません。

有名なジョークで、「沈みそうな船に乗っている外国人を、海に飛び込ませる言葉」ってありますよね。米国人には「一番に飛び込んだらヒーローになれる」、イタリア人には「女性にモテモテになる」とかいう(笑)。あのジョークでは、日本人には「みんな飛び込んでますよ」って言うんですけれど、あれはあながち冗談ではありません。今のビジネスの中で実感しています。そして、このときの「みんな」は日本人でなくちゃいけないみたいです。


松崎さんの会社もそうとうインターナショナル。外国人を積極的に採用しているほか、IT周りはインドに住むエンジニアに開発を委託している。開発会議はスカイプで行う。(撮影:今井康一)

――世界の常識、は通用しない?

シンガポールでも米国でも、それは別の世界の話。日本の中で、外国人を受け入れている例があるかどうかが重要なんです。

ただここまでの実感で、外国人を受け入れた企業の多くが「こんなに頑張ってくれるんだったら、もっと早くに採用すればよかった」という反応です。外国人を受け入れてみようかなという企業が1社増える、外国人に部屋を貸してもいいんじゃない?という大家さんが1人増える……という小さなグッドウィル(善意)が積もり積もって、「ほら、あの会社もこの人も外国人でもいいと言っていますよ」という状況になるのを待つのが最短ではないでしょうか。

人と違わなければ勝てない

――そういう同質性を求める日本社会にありながら、松崎さん自身はすごくユニークなキャリアを歩んできました。新卒で経営コンサルティングのベンチャー企業に入り、26歳で中古車輸出ベンチャーを創業しました。


みんな同じじゃなくちゃいけないというのは、日本の社会には確かにある考え方ですが、私自身は人と違う選択をしてきました。

最初の就職活動ではいろんな会社を受けたのですが、商社マンだった父にこうアドバイスされました。「大きな会社に入っても、女の子はちゃんと使ってもらえないぞ。本当に仕事をしたいなら、猫でも杓子でも働き手であれば使うような小さい会社にしろ」。確かに大きな会社の面接を受けると、「あなた働きたいって言うけれど、結婚したらちゃんと会社を辞めなさいよ」と面接官に言われましたから、これはダメだなと思い、小さな会社を選びました。期待通りに、本当にたくさん働かせてもらえました(笑)。

その会社で中古車販売会社をコンサルしているうちに、中古車の流通フローに無駄があることがいっぱいみえてきました。私は車においては素人でしたが、素人だったからこそ、業界の中にいる人とは違うものが見えたのだと思います。今の人材のビジネスも、完全に後発組です。国内にはリクルートというジャイアントがいますから、彼らと同じことをやっていたのでは、絶対に勝てるわけがない。「みんなと違う」ことが、勝つためのもっとも重要な要素なのです。

イノベーションは中心では起こらない、辺境で起こるのだ、という経営学の言葉もあります。だから外国人の労働市場という、多くの人がやらない市場に私はチャレンジしているのです。

週刊東洋経済2月3日号(1月29日発売号)の特集は「隠れ移民大国ニッポン」です。