中国では2025年に向けて「製造業の知能化」を進める(写真 : kazukiatuko / PIXTA)

小売りの世界ではインターネットの発達がアマゾンドットコムなどの巨大IT企業を台頭させると同時に、ついに雇用を脅かし始めています。

製造業は10〜20年先を見据えたモノ作りを進行

しかし、製造業の世界では今後10年先〜20年先を見据えて、人工知能(AI)を備えた機械(ロボット)を導入することで、生産性を飛躍的に向上させる「新しいモノづくり」を目指しています。目下のところ、世界の大手製造業は試行錯誤を繰り返しながら、新しい工場での実験に取り組んでいます。


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具体的にどういった取り組みがなされているのかというと、各工場で生産する製品の素材や部品が近づくと、AIを備えた機械がICチップの情報を読み取って必要な工程を指示し、生産設備を最適のラインに組み替えようとするのです。工場のラインに人がいなくても、コンピュータでつながった機械同士が会話をして、その時々の最適な生産ラインをつくりだすというわけです。

たとえば、自動車の製造工場の場合は、次のようなイメージで捉えてみるといいでしょう。車体の骨格を溶接しているロボット同士が「お互いこう動いたほうが、組み立て時間をもっと短縮できるよね」と会話して実行に移している。一方、塗装するロボットは、他の工場からデータを取り寄せ、「こうすればより美しい塗装になる」と学習している。さらにラインを管理するコンピュータが「こういう工程に改善すれば、消費電力がより少なくなる」と全ロボットに指示を出す、という具合です。

各々の工場から集まる膨大な情報をもとに、AIを備えた機械が新しいアイデアをひねり出し、できるだけ早く、できるだけ安く製造する工程を考えて提案し続けているのです。その結果として、生産性が加速度的に高まっていき、競争力を大幅に引き上げることができるというわけです。

このような背景には、ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフリー・イメルトCEO(当時)が2010年時点で産業分野でのインターネットの活用に着手したという戦略があります。航空機エンジンや医療機器に通信機能付きセンサーを組み込むことで、インターネット経由で収集した膨大なデータ(ビッグデータ)をAIが解析し、製品が壊れる直前に修理する究極のアフターサービスを確立したうえに、製品の開発・改良にかける時間を削減することで生産性の引き上げにも成功していたのです。

こうしたゼネラル・エレクトリックの動きが、世界の製造業および製造業大国を大いに刺激しました。既存の製造業が生き残るためには思考の枠組みを変えるしかないと、大胆な戦略や発想の転換に踏み切らせることとなっています。(ゼネラル・エレクトリックの2017年12月期の決算は赤字に転落していますが、全7事業部門のうち業績が好調なのは、AIを活用した航空機エンジンと医療機器の2事業のみとなっています。)

ドイツでは第4次産業革命を意味する「インダストリー4.0」を推進し、「2025年までに製造業の生産性を2015年と比べて5割前後引き上げる」という目標を掲げています。最適な生産ライン同士がグローバルにつながれば、競争力は飛躍的に高まるはずだと考えているのです。

たしかに、この試みが本当に実現すれば、第4次産業革命といってよいほどの偉大な業績となるかもしれません。18世紀以降の綿織物工場に始まる、蒸気機関の登場による製造工程の機械化を第1次産業革命とし、20世紀初頭の内燃機関と電気による大量生産時代が第2次産業革命、1980年代以降のコンピュータによる自動化の進展を第3次産業革命と考えれば、第4次産業革命とは、AIを備えた自動化工場が業種を超えてネットワーク化され、国家として立地競争力を競う時代と考えることができるでしょう。

「製造業強国」目指す中国、大半の工場労働者は不要に

ロボットの導入が本格化し始めた中国でも、政府内では2025年までに製造業を知能化させる「中国製造2025」という計画が進んでいるところです。汎用品に強い中国の製造業をさらに高度化させて、現在の「製造業大国」から将来は「製造業強国」に移行するシナリオを描いているようです。

中国の企業経営者は近年、人件費の高騰にとても悩んできたので、この計画はまさに渡りに船であるといえます。というのも、工場の働き手の中心を担っているのは、経済が急速に発展するなかで何不自由なく育った20代〜30代の若者だからです。賃上げやその他の要求が多い若者に比べれば、ロボットのほうがはるかに管理は簡単なのです。政府も企業にロボットの導入を多額の補助金で支援しているので、自動化工場の流れは他の国々よりも早まっていく可能性が高いと思われます。

今の世界の趨勢は、AIによって自動化された工場が増え続けていくということです。各国が製造業の生産性をいっそう高めるために、できるかぎり雇用を必要としない工場が模範とされる時代に入ってきたのです。おそらく10年後には、大企業の一部の工場では完全自動化が現実になるでしょうし、この流れに早く対応できなかった国々は製造業では負け組になってしまうでしょう。

ただし、本質的に見逃がしてはいけないのは、工場の完全自動化が生産性を高める最大の要因が人件費を必要としない点にあるということです。きっと20年後には、アメリカ、ドイツ、日本、中国などの大手製造業では特殊なケースを除いて、大半の工場労働者が必要とされなくなります。このトレンドは不可逆的であるといえるでしょう。