画像提供:マイナビニュース

写真拡大

トランプ米大統領が就任して1年が経ちました。挑発的な言動と極端な政策で米国内の分断を深め世界を混乱させ、ロシア疑惑の拡大もあって厳しい批判にさらされる政権運営が続いています。その一方で米国の景気は好調を持続し、株価は連日のように史上最高値を更新しています。今後トランプ政権と米国はどうなるのでしょうか。

○実行された政策はわずか

この1年間にトランプ大統領が実施または打ち出した政策は「米国第一」を基本に、(1)排他的移民政策 (2)外交・安保政策で従来の国際秩序に否定的 (3)国内雇用増を最優先とする保護主義的な通商政策 (4) 米国経済のテコ入れ (5) オバマ政権の否定―― の5つに整理することができます。その主な内容は以下のとおりです。

これをよく見ると、トランプ大統領の当初の方針通り実行されたのは、不法移民の取り締まり強化、エルサレムをイスラエル首都に認定、TPP(環太平洋経済連携協定)離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)見直し、法人税引き下げ、パリ協定離脱表明など、まだ一部にとどまっています。

トランプ大統領は就任早々、中東などテロ認定国からの入国を停止する大統領令を発令しましたが、裁判所から憲法違反として差し止め命令が出て、骨格部分は実施されていません。トランプ大統領が選挙中から最も力説していたメキシコ国境の壁も、いまだに予算化ができていない状態ですし、オバマケアの見直しについては法案が議会を通らず棚上げになるなど、司法や議会が壁となっています。特に議会では、与党・共和党内の穏健派と強硬派の対立が激しくなっており、トランプ大統領と議会との溝も目立っています。

通商政策でも、NAFTA見直しのためメキシコ、カナダと再交渉は始めましたが、合意には至っていません。貿易黒字国への高関税導入についても、当初は日本を名指ししましたが、安倍首相の"説得"(本連載2017年2月14日付け『"日本批判"を封印した日米首脳会談に安堵感』)や各国の反発などもあって、見送られています。

このように、激しい言動で注目を集めているわりには実行が伴っていないというのが、トランプ大統領の特徴のひとつです。それでいながら、挑発的な発言を繰り返して米国社会の分断や世界的な混乱を助長しているのですから、責任は重いと言わざるを得ないでしょう。

○TPP、パリ協定、外交・安保などで「ぶれ」目立つ

しかも前述のうち、TPPとパリ協定については、最近になって復帰の可能性があると発言するなど、基本政策で「ぶれ」が見られます。これが、トランプ大統領のもうひとつの特徴です。「復帰」との発言がどの程度本気なのかも実はあいまいで、それ自体がまた「ぶれ」のひとつなのかもしれません。

この「ぶれ」は、外交・安全保障政策で特に顕著です。選挙中は「世界の警察官をやめる」と発言していました。まさに「米国第一」の表れで、「ほかの国のことに関わることより米国が第一」というものです。その具体的な政策として、日本やNATO(北大西洋条約機構)の同盟国に対し駐留米軍経費の負担増加を求めるなどと発言し、中東情勢や東アジア情勢への関与を薄める可能性を示唆していました。

しかし現実には、IS(イスラム国)掃討作戦を強化しシリアへのミサイル攻撃にも踏み切りました。北朝鮮情勢をめぐっても、当初は「金正恩と話し合ってもいい」などと発言していましたが、北朝鮮の相次ぐ核実験やミサイル発射に直面して強硬姿勢に転じました。

これらは、当初方針のとおり米国が国際情勢への関与から手を引けば国際情勢が不安定となりと懸念されていたことですので、トランプ大統領の「ブレ」は好ましい変化だと言えます。しかし外交・安保といった基本中の基本でぶれるということは、やはりトランプ政権の危うさを感じさせます。

現在の北朝鮮情勢についても、平昌五輪を前にして南北朝鮮の対話ムードが盛り上がり、トランプ大統領も歓迎する姿勢を表明しています。これが五輪開催中という「期間限定」ならいいのですが、これを機にもしトランプ大統領がまた融和路線に舵を切るのであれば、日本にとっては好ましくない変化となってしまいます。

こうした中で、トランプ大統領自身の足元は、ロシア疑惑の拡大、閣僚や政権幹部の相次ぐ辞任・更迭などで揺らいでいます。メディアとの対決も相変わらず続いており、世論調査の支持率は就任1年後の支持率としては歴代最低となっています。

○景気拡大と株価上昇続く〜当面は持続の可能性

政権のこのような状態が続けば、通常なら株価下落や景気悪化などの影響が出てもおかしくないところです。しかし意外なことに(?)、株価は連日のように最高値を更新し続けています。NY市場のダウ平均株価は2016年11月の大統領選直前の1万8300ドル台から選挙後に上昇が始まり、大統領就任(2017年1月20日)直後の1月25日には初の2万ドルの大台乗せを達成しました。その後も上昇を続け、就任から満1年直前の今年1月17日には2万6000ドル台となりました。さらに1月26日には2万6600ドル台まで上昇しています。大統領就任から1年間の上昇率は32.1%(1月26日までは34.9%)、大統領選からこれまでの1年2カ月余りでは45.8%に達するという驚異的な上昇ぶりです。

これは、市場がトランプ政権のある程度の混乱には慣れっこになってきたとも言えますが、それよりも基本的には景気そのものが好調であることが背景にあります。米国の景気はリーマン・ショック後の2009年6月を底に、すでに8年半にわたって拡大が続いていますが、今のところ崩れる気配はありません。

これに対応してFRB(米連邦準備理事会)も2015年12月から利上げに転じましたが、2016年は1回の利上げにとどまり、2017年は3回に増えたものの、FRBは緩やかに利上げを進める姿勢を堅持しています。これが市場に安心感を与え株価上昇加速の一因となっています。

トランプ大統領の動向は市場の不安材料になりかねませんが、景気重視という国内経済政策自体はプラス要因です。特に法人税の引き下げが決まったことは、景気にとってさらなる追い風になりそうです。トランプ大統領はかねて法人税率を35%から15%に引き下げるとの公約を掲げていましたが、与党・共和党との協議の結果、21%にすることで合意し、昨年12月に税制改革法案が議会で可決成立しました。これは目先の景気だけでなく、米国企業の競争力強化につながり中長期的にもプラスとなるでしょう。

○トランプ政権が行き詰まる懸念〜円高リスクも

こうしてみると米国の景気拡大と株価上昇はまだ当分は続きそうです。ちょうど26日に発表された2017年10-12月期GDPは前年比2.6%増(年率換算)でした。前期(2017年7-9月期)の3%台に比べればやや鈍化しましたが、それでも堅調な伸びが続いていることを示しています。今後、さすがにペースは鈍るでしょうが、今のところ「米国内の経済」という範疇で見れば、悪材料はあまりないように見受けられます。

しかし懸念もあります。それは「米国経済」以外の要素、具体的にはトランプ政権が完全に行き詰まる可能性と国際情勢悪化の場合です。トランプ政権が行き詰まれば、対外政策に活路を求めようとする可能性があります。それが、日本に対する貿易黒字削減要求となって表れれば、為替相場が円高に振れる懸念もあります。

実際、ムチューシン財務長官が先日、「弱いドルが貿易面で米国に利益がある」と発言して円高となりました。通商政策で成果が出ていないため、円高圧力をかける姿勢に転じたのではないかとの観測が市場で浮上したのです。すぐにトランプ大統領がそれを打ち消す発言をしましたが、本音がどこにあるかはよくわかりません。円高リスクはこの間、少し薄れていた感がありますが、リスク要因として警戒は常に必要でしょう。

その一方で、トランプ政権が行き詰まることはトランプ大統領の退陣につながるので、むしろプラスになるとの考え方もあり、それに期待する人が少なくないのも事実です。本稿はもう長くなりましたので、これについては次回以降に譲ります。

○執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

オフィシャルブログ「経済のここが面白い!」

オフィシャルサイト「岡田晃の快刀乱麻」