中村社長(写真:グリーンコンチネンタル)

筆者が親しくお付き合いさせていただいている応用生物工学の先生(大阪大学・小林昭雄名誉教授)から、緑の大切さについて伺ったことがあります。19世紀は「リアル・ゴールド」の時代、すなわち本物の金が大切でした。20世紀は「ブラック・ゴールド」の時代、石炭や石油といった黒色燃料が重要でした。でも21世紀は環境重視の「グリーン・ゴールド」の時代、緑が主役になる、と言われます。確かに、人間や動物社会の成長に翳(かげ)りが見え始めた今、植物の豊饒(ほうじょう)な世界に注目が集まっています。


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いち早くその可能性に気づき、グリーンビジネスの最先端を走っているのが今回紹介するグリーンコンチネンタルの中村壮博(たけひろ)社長です。大阪市住之江区南港北に本社オフィスと温室を構え、〇多靴粉冤嫂∧ビジネスで全国展開するとともに、∪菴覆凌∧IoT(もののインターネット化)事業にも取り組んでいます。

特にこの「植物IoT」は、ついに植物の世界にもIoTが及んだのか、と驚きをもって話を聞かせてもらいました。以下、中村社長の来歴と活躍ぶりを追っていきたいと思います。

未開拓業界へのグリーンビジネスで死中に活

中村社長は、2004年に同志社大学を卒業。まだ30代半ばの少壮若手実業家です。卒業後は豊田通商に入社。アジアで出合ったオーガニック肥料に魅力を感じ、2012年に独立してその肥料の輸入販売を手掛ける会社を立ち上げます。しかし同年秋、尖閣諸島問題が勃発し、肥料の輸出入が一時停止。設立数カ月で倒産危機に見舞われますが、資金をかき集めて急場をしのぎ、この肥料で育てた植物の販売を始めます。

ただ、日本の一般的なガーデニング市場は2200億円と、世界的に見るとわずかな規模です。「イギリスで4兆円、アメリカでは5兆円規模のマーケットです。従来の観葉植物の売り方では限界と思いました」と中村社長。そこでターゲットをアパレル、美容、ショッピングセンターなどに絞り込み、店舗・商業施設・オフィス向けサービスに特化することにしました。今まで一般的だった小売店舗展開中心(BtoC)から法人向けサービス(BtoB)への転換です。

そして、新しい世界観を表現するためのコンセプトショップをオープンするに際し、参画したのが、元同僚の妹さんの政尾恵三子さんでした。


中村社長(右)とスタッフ(筆者撮影)

恵三子さんも元商社勤務。当時は子どもを育てながら自宅インテリアの記事を発信する人気のカリスマブロガーでした。そのクリエーティブな感性を取り入れて完成した店舗は、天井から吊るした5メートルものハンギング植物とアンティーク家具の斬新な組み合わせで人気を呼びます。

口コミ、メディア紹介も多く、中村氏は「ハンギング植物ブーム」の仕掛人となります。なお恵三子さんはその後、同社の経営に参画。執行役員として店舗、商品デザインなどで活躍中です。

グリーンコチネンタルは現在、関西、中部など全国で休眠中の温室を活用。生産委託契約を結んだ農家と観葉植物を育成・保管しています。扱う植物は約1000種類、中南米の植物や人気の食虫植物もそろえています。土・植物をデザイン、生産、卸販売、レンタル、さらにメンテナンスまでを一貫して請け負い、今や年間10万鉢の供給を行うまでになりました。

スタッフの大半は「ボタニスト」と呼ばれる植物やインテリアの専門知識を持つ主婦たちで、名古屋、東京、大阪、福岡などに住んでいます。そしてプロジェクトごとにチームを組成し、各個人の技術と才能を生かして受託したイベントなどを実行します。イベントと言えば、2015年、安倍首相がミャンマー大統領を迎えたファッションイベントの植栽演出も請け負ったそうです。取引先150社の実績により、国家的行事の舞台裏を任されるまでになったのです。

植物IoTでヒトと植物の新しい関係を作り出す

「世界“初”しかやりたくない」という中村社長、次の挑戦が植物IoTです。名付けて「Monet(モネ)プロジェクト」と言います。

植物に取り付けた生体センサーと、温湿度や照度、二酸化炭素濃度などの環境センサーデータをクラウドサーバーで収集。その情報と人間の体調や動きの測定値を組み合わせ、快適なオフィス空間を実現しようというものです。まさに、IoTの植物版です。

植物センサーは、世界中の学術論文を渉猟して探し当てた埼玉大学理工学研究科・蔭山健介教授と共同で研究、開発、そして特許化しました。データはスマートフォンなどで表示でき、植物の活動量、空間内の二酸化炭素濃度の変化などを可視化できます。

この植物IoTの一環で、植物が発する波形パターンを分析して、それが「断末魔の叫び」か「歓びの歌」かを判別する技術も開発中です。「断末魔」を活用すれば、果実はより甘く、唐辛子はより辛くなるなど食物の特性をさらに強め、また薬用植物の薬効成分のコントロールも可能になります。逆に「歓び」が高まれば、植物の活動量と連動した各種製品の開発にも応用できます。その斬新な取り組みは、世界的な大企業などから評価され、現在9社と極秘プロジェクトが進行中だそうです。

なおこの植物IoTの具体例は、東京(品川区)と大阪(豊中市)の自社拠点や、演出先の店舗、オフィスなどで見ることができます。その空間には3メートルものアイビーやシュガーパインなどのつる性植物が天井からぶら下がり、「まるで森の中にいるよう」と訪れる女性客に好評です。

そして「アクタス」などの有名ショップから、グリーンコンチネンタルの植物を扱いたい、との依頼もきました。グランフロント大阪の店舗の各所に観葉植物を設置。空調、採光などの条件で枯れてしまうデリケートなものなので、データ管理によるメンテナンスを月額定額で請け負っています。

店舗側は、家具、雑貨とともに観葉植物を置くことで、演出効果が上がり、ライフスタイルを総合的に提案することもできます。観葉植物の売り上げの一部は店舗側にフィーとして還元。双方、ウィンウィンの関係になっています。

このほか、フィットネス大手の東急スポーツオアシス内での森林浴体験、ドローンを使った遠隔監視なども実施。今春には、植物に虫をつきにくくするサービスもクリニック向けに開始します。センサーで温度、湿度、照度、二酸化炭素濃度、さらに光合成状況を計測し、オゾンなどを使って植物の負担を軽くする仕組みです。植物IoTの可能性が、ますます広がっていくのが感じられる新規事業です。

植物産業の6次化プロジェクトとは何か?

中村社長の口から聞き慣れない言葉が飛び出しました。「植物産業の6次化」です。簡単に言えば、年々増加する耕作放棄地をなんとかしたい、との思いです。「この放棄地、関東で11万ヘクタールあり、関西だけでも2万ヘクタールまで広がっているんです。その土地を使って植物を生産しようというものです」。

労働力は、個人の新規就農希望者を想定し、IoT化した生産温室や空調、電気水道代などの就農インフラを月額定額で提供します。生産された観葉植物は、グリーンコンチネンタルがすべて買い取り保証する仕組みです。それって、温室で作るなら農耕地でなくてもできそうですね、と聞きましたら、「そうなんです。街中の駐車場、空き地、空きビルなどでも有効活用できます。ぜひ土地、物件をご紹介ください」とのことでした。

こうしたすばらしいプロジェクトを次々に推進する中村社長ですが、1つだけ困ったことがありました。取材や講演をお願いしようと連絡しても、なかなかスケジュールが合いません。ただようやくお会いできて事情を聴くとその忙しさは殺人的で、かえってこちらが申し訳なく思うほどでした。新しい仕事の引き合いで引っ張りだこなのもさることながら、中村社長自らトラックを運転して、委託先生産農家に赴き、また納品やメンテンナンスの現場にも立ち会っているそうなんです。

そしてそこに、オーガニックのデザイン、卸販売、メンテナンスさらに物流までもワンストップで引き受ける、という中村社長の気構えを強く感じました。つねに顧客と水際で接すること。この信念があるかぎり、同社は植物IoTの可能性をさらに押し広げていくと思いました。