セブン-イレブン(撮影=編集部)

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「日本企業には優れた技術があるが、マーケティングのノウハウがないために海外企業に負けてしまう」という解説がよく聞かれ、書店にはマーケティングに関する書籍があふれている。本連載前回記事で、流通のプロセスからECサイトの運営課題について紹介したが、今回はその配送先である小売業の基本知識について、立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に解説してもらった。

●消費者の生活と文化を支える小売業

――マーケティングにおける4Pの「Place(販売場所)」について、前回は商品が“売り場に届くまで”をお話しいただきました。

有馬賢治氏(以下、有馬) 今回はその先の話です。Placeの構成要素としては流通のプロセスのほかに、最終的に消費者に販売する所謂“小売”も含まれます。そして、マーケティングのPlaceを考えるのであれば、小売業の役割を理解する必要があります。小売業の基本的役割は、メーカーや卸売業から購入した商品をエンドユーザーに“再販売”することです。

――なぜ、商品の販売はメーカーや卸売業から直接ではなく、わざわざ小売業を通す必要があるのでしょうか。

有馬 小売業独自の役割として「商品を買いやすい単位に小分けをする」というものがあります。例えば、お菓子などの食品の場合、メーカーや卸売業は原則的には箱単位など大きなロットで販売しています。これを小さい単位で売ってしまうと、残った半端な数の商品を売りさばくのが大変になるからです。ですから、ロスを減らす社会経済的にも小分けをする小売業が必要なのです。また別の観点では、身近に小売業がない場合には日常生活が非常に不便になります。「限界集落」という言葉がありますが、人口が少ないために小売店がゼロに近づいている地域が発生し始めています。店舗で営業しても採算が合わない地域の場合、小売業者がワゴン車による移動販売などで該当地域の人々の生活を支えているのです。小売業者には、ロットを個人で買いやすいサイズに小分けするほかに、生活基礎物資を消費者に提供するという重要な役割もあります。

――小売業のおかげで、どこに住んでいても日常生活が円滑に営めると。

有馬 はい。さらに、商業施設には映画館やアミューズメントセンター、レストランなどが隣接しているものも多く、小売業のあるところに遊戯施設ができることで、結果として娯楽を提供しているケースも少なくありません。小売業は日常生活だけでなく娯楽や文化の提供にも寄与しているわけです。

――そんな我々の生活に欠かせない小売業には、どんな種類があるのでしょうか。

有馬 小売業は、業種と業態で分けられます。業種の場合は、食料品店、衣料品店、電気店、化粧品店のように取り扱う商品で分類します。一方、業態で分ける場合は販売方法によってカテゴライズすることができます。業態の種類と基本的な特徴をあげてみると、次の通りになります。

・百貨店=定価販売で接客が丁寧。品揃えが良い。包装サービスなどが充実。三越、伊勢丹、東武、西武など。
・専門店=基本は定価販売。特定の商品を専門的に販売。品揃えが深い。アフターサービスが充実。海外ブランド店、自動車のディーラーなど。
・スーパーマーケット=生鮮食品が中心。セルフセレクション方式。比較的安価。東急ストア、明治屋など。
・総合スーパー(GMS)=衣料品と生活雑貨にスーパーが付随。比較的安価。イトーヨーカドー、イオンなど。
・コンビニエンスストア=加工食品が中心。暮らしに必要な商品・サービスに絞って提供。セルフセレクションだが店員が袋詰めまで実施。セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートなど。
・ディスカウントストア=アイテムを絞って低価格で販売。ドン・キホーテなどの総合的な店舗やドスパラなど専門的な店舗がある。
・ドラッグストア=医薬品、化粧品、加工食品、生活雑貨など。比較的安価。マツモトキヨシ、ココカラファインなど。
・EC=通信販売。Amazonなど。
・その他=ハイパーマーケット、ホームセンターなど。

●苦戦のリアル店舗、その打開策は?

――大きく分けてもこれだけの業態があるのですね。このなかで好調な業態、また不調な業態はどれになりますか。

有馬 好調なのはEC事業でしょう。ここにきて不調なのはセブンイレブンをはじめとしたコンビニ業態ですね。これまで小売業界のなかでは調子が良かったはずですが、より安く、比較的遅くまで空いているドラッグストアやミニスーパーに顧客をとられてしまったことで流れが変わりました。百貨店業界も、三越や伊勢丹というこの業界では勝ち組と言われていた企業でさえリストラが断行されたり、店舗も相次いで閉店したりという現状です。さらに専門店も、消費者心理から多くの顧客を集めるには厳しい市場背景になっています。このように、ECの隆盛から全体的にリアル店舗、特に定価で販売する業態が苦境に立たされています。

――では、リアル店舗は今後どのような対策を打ち出せばいいのでしょうか。

有馬 時代的に“地域密着”の方針が打開策となり得ます。若いうちは人とのコミュニケーションよりも利便性を重視してECで買い物を済ますことが多い時代ですが、ある世代以上になると、小売店に人的接点を求めるようになります。そのニーズに応えるように、商品の定期配送をしたり、冠婚葬祭の相談を聞いたり、小売業が顧客の日常を見守る、いわゆる御用聞きのようなサービスを行うことで、極端な値引きをしなくても顧客を掴めることにつながるのではないでしょうか。こうした取り組みによる成功事例が郊外の電気店や地方のスーパーなどで表れ始めています。高齢社会において、小売業がコミュニケーションの場を提供することは、中長期的にみると重要だと思います。

――ありがとうございました。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)