©あいだ夏波/集英社 マーガレットコミックス

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「マーガレット」(集英社)で連載中、1月25日にコミックス第1巻が発売された『アナログドロップ』。自分大好きで男を手玉にとる悪女な女子高生・亜紅(あく)が過去の時代へタイムスリップしてしまい、現代に戻るために奮闘していくストーリーです。

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今回は、コミックス発売を記念して、原作者のあいだ夏波先生へのインタビューを敢行。オンとオフでキャラを使い分けるパワフルな女子高生・仁香の活躍を描き大ヒットした『スイッチガール!!』、非モテ女子の恋をリアルに描いた『圏外プリンセス』など、王道の少女漫画とは一味違う個性的なヒロインたちを生み出している秘密に迫りました。

『圏外プリンセス』で描きたかった「モテない奴に市民権を!」

――『スイッチガール!!』終了後、あいだ先生が次にどんな作品を描くのかはファンのみなさんも注目していたと思うのですが、次に描かれたのは、外見にコンプレックスを持つ、「脇役顔」の非モテ女子の目黒美人(めぐろ・みと)を主人公にした『圏外プリンセス』。

ある意味、モテ要素を徹底排除した彼女のようなキャラクターを描こうと思われたのは、なぜでしょうか?

あいだ夏波(以下あいだ):少女漫画業界に来てからずっと思っていたことなんですが、主人公がみんなかわいいのが不満だったんです。

もちろん、『スイッチガール!!』の仁香のようにモテモテのカリスマという設定ならばわからなくはないのですが、「『モテない』『普通の子』『地味』設定のはずなのに、なぜ注目される展開になるんだろう? そんなに世の中うまく行かねーぞー!」と私自身のフラストレーションもたまっていて、「モテない奴の叫び」をどうしても描きたかったんです。

『スイッチガール!!』でも、お下劣なことなどいろいろやらせてもらいましたが、唯一描けなかったのがモテない子の心情だった。なので、前作でできなかったことをやりたい!とチャレンジしました。

――『圏外プリンセス』は、まず中学生編で、美人がクラスメイトの国松に恋をするも失恋。ただ、国松との関係の中で成長して徐々にトラウマから解放され、高校生編では外見も内面も変わっていきますよね。この流れは、最初から想定されていたんですか?

あいだ:そうです。当時、編集部から「中学生編で告白して、そのままうまくいくのはどうか」と相談されたこともあったんですが、失恋を乗り越えていく姿をどうしても描きたかったので、そこはこだわらせてもらいました。

私自身も若干高校デビュー組だったんですが、場所が変わって付き合う人が変わると、その流れでボンと行ける、リセットすることができるというのを、どうしても描きたかったんです。

――高校生編では、美人の外見もかなりかわいくなっていますよね。

あいだ:美人の外見については、高校生になると世界が広がるので、その分見た目の変化も大きくなるかなと思って描きました。美人ではないけれど、「これを好きになることはないという顔でもギリギリない…」という感じにしたかったんです。

――美人の恋の仕方も変わってきましたよね。中学生編では国松に感化されて変わっていく感じがありましたが、高校生編では、恋の相手の彼方が若干こじらせている男子だったからか、美人の方から彼の心に近づこうとするというか、より能動的に恋していた感じがしました。

あいだ:細かい設定を考えていたわけではなかったんですが、美人は、高校生になるまでに、トラウマやいろいろなものを乗り越えて、自分でがんばってきれいになろうとしていたので、それは変化していくだろうなと。徐々に山を登っていくようなイメージで、高校では、恋の相手が彼方だったというのもあり、今の彼女だったらもうちょっとできるんじゃないかという感じで描いていました。

――美人の恋の相手となった国松と彼方、連載中、人気があったのは、どちらでしょうか?

あいだ:たぶん、国松の方だったと思います。それは、自分の考えと読者さんの考えが意外とイコールではないんだなと思ったところですね。『マーガレット』読者層だと、国松のようにピンチのときに助けてくれる優しい天然な男の子が今は人気があるのかなと。

――『圏外プリンセス』連載中の反響はどんなものがありましたか?

あいだ:熱のあるメッセージが多かったです。少女漫画の読者さんは主人公と自分をイコールで考えることが多いですし、美人を自分に重ねて、「自分が中学生くらいのときがまさにそうだった。男の子に心ないことをいわれてトラウマになり、恋愛もできなくなっていたけれど、もう少しがんばろうと思って、こないだ彼氏ができました」という方もいましたね。

『スイッチガール!!』のときは、熱いのと同時に「笑った」というメッセージも多かったんですが、『圏外プリンセス』は、エンターテイメント感覚というより、「自分にも心当たりがある」と共感して読んでいる方が圧倒的に多かったように思います。

――『圏外プリンセス』の連載を終えて、モテ・非モテなどについてはどんなふうに考えていらっしゃいますか?

あいだ:描き終わって考え方が変わったというのは、特になかったんですが、『圏外プリンセス』の連載を始めたころから、他にも少しずつモテない主人公の漫画が増えてきて、最近は、そういう主人公も認められてきているので、「モテない奴に市民権を!」というのが叶ったかなという気がしています。

事件を乗り越えて結ばれるストーリーを描きたい

――先生の作品では、『スイッチガール!!』で仁香が敵対していた明花やボスザルとも友情を育んでいったり、『圏外プリンセス』でも美人が恋敵の増木と次第にわかりあっていったりしていますよね。

新作『アナログドロップ』でも、亜紅が喧嘩をした不良と仲よくなっていく展開があり、恋愛だけでなく友情のドラマもすごくきっちり描いている印象があるのですが、友情というのは、やはり重視されていらっしゃるのですか?

あいだ:私自身、描いていて楽しいのは、友情やバトル、謎を解いたり潜入したりするシーンなので、自然と入れたくなってしまうんです。そもそも少年漫画をよく読んでいて、『ドラゴンボール』でベジータが仲間になっていくあの流れがものすごく好きだったんです。

それだけに、「もともと仲間だった奴らより、元敵のほうがアガる」ということで、敵対しながらも味方になりそうなそこそこの善意が残っている相手を片っ端から仲間にしようとするところはありますね(笑)。

――少年漫画では、どんな作品がお好きだったんですか?

あいだ:『ドラゴンボール』や『ろくでなしBLUES』、『SLAM DUNK』など、おもに『週刊少年ジャンプ』(集英社)の王道の作品が好きでした。

――『ジャンプ』といえば、以前『スイッチガール!!』で、全編劇画タッチのまさに『ジャンプ』仕様だった回がありましたね。

あいだ:あれは、昔の『ジャンプ』で巻頭を赤黒の2色印刷にしていたのを、「あれって、現在(いま)は、ないんですかね?」と担当さんに話したら、「やろうと思えばできるんですけど、やります?」という話になったので、「やっちゃいましょうか」と、赤黒印刷でやらせてもらいました。朱色のインクを買ってきて墨と混ぜて描いて、初めての経験で面白かったですね。

――少年漫画以外でいうと、どんな作品がお好きだったのでしょうか?

あいだ:私が初めて漫画家を意識したのは、一条ゆかり先生の『有閑倶楽部』ですね。あとは、少女漫画だと浦川まさる先生の『いるかちゃんヨロシク』がすごく好きでした。

――一条先生の『有閑倶楽部』というと、少女漫画ですが恋愛要素はあまり…。

あいだ:ほぼゼロですよね(笑)。浦川先生の作品も恋愛はあるんですけれど、メインの大きな流れに違うものがあり、その中に恋愛を成立させる要素が入っている。そういう何かの事件があってそれを乗り越えていく中でお互いを好きになる…という感じが、すごく好きですね。

――そうすると、いわゆる恋愛至上主義的な作品は、そもそもあまり意識されていらっしゃらない…?

あいだ:そもそも、それは描けないんです。たとえば、40ページを学校の中だけでやりとりするとなると、思考が停止してしまう。『圏外プリンセス』はモテないキャラだったので、できたけれど、モテる女子とかいわゆる普通の女の子を学校で動かすとなると、どうにも嘘っぽくなってしまって何も描けなくなるので、それよりは、事件が起こって乗り越えて…という展開を描きたいなと思うんです。

――『圏外プリンセス』終了後は、ショート作品の『小波ちゃんのささくれ』の連載がありましたよね。最近、ファッション雑誌『MORE』の公式サイトでの連載もスタートしたこちらの作品は、どのように描かれていったのでしょうか?

あいだ:当時、少し体調を崩していて、月2回のページ数が多い連載が厳しかったのと、以前からエッセイやショートをやってみたいと思っていたこともあって、相談して描かせてもらいました。

当初はもう少しエッセイっぽい雰囲気にするつもりだったんですが、『マーガレット』の読者は中高生がメインなので、私自身の心の声でやりすぎるとちょっと違うかなと思って、テンション高めの作品ではなく、もう少し抑え気味なキャラクターにしてみようかというところでやってみたんですが、とても楽しかったですね。

――主人公の小波ちゃんは、タイトル通り、あれこれ気にしすぎて心にささくれを作っているような女の子ですよね。

あいだ:小波はすごく私に近いんです。私自身、あそこまで静かなタイプではないんですが、自意識過剰すぎるところがあって、「今、あの人、私のことこう思っているんじゃないかな」とかめちゃくちゃ考えてしまう。

「迷惑をかけないように」って考えすぎて空回りして、結局、相手は何も気にしていなくてずっこける…みたいなことも多くて、その話を担当さんにしたら「わかるわかる」という話になり、ちょっと面倒くさい女の子の話になっていったんです。

『アナログドロップ』誕生の裏には、あの80年代ドラマたちが?

――『スイッチガール!!』の仁香や『圏外プリンセス』の美人、いずれにしてもあいだ先生の描く主人公は、いわゆる少女漫画らしい主人公とは一味違うとすごく感じるのですが、キャラクター作りはどのようにされているのでしょうか?

あいだ:主人公にキャラクターをしっかり入れようとしているわけではないです。ただ、少女漫画のアイコン的なキャラにすると、自分の頭が動かなくなってしまうでんですよね。私は性格的に気が強いところがあるので、受け身の主人公だと描いていて苦しくなってしまう。なので、強さやアクをつけて、キャラクターとして動かせる主人公を考えていくうちに自然に王道ではなくなっていく…という感じです。

――ということは、主人公は先生の分身のような感じで生まれてきている?

あいだ:『スイッチガール!!』の仁香なんかは、まさに私の経験から出来上がったキャラクターですね。ただ、『アナログドロップ』の亜紅は、結構違うものから出てきました。私自身の中にはあまりないキャラクター。これまでの作品であれば、脇役で出てくるようなキャラを主人公に持ってきた感覚で描いています。

――『アナログドロップ』の悪紅は、自分大好きな悪女で、かなり強烈なキャラクターですが、彼女を含め、この作品のコンセプトはどのように誕生したのでしょうか?

あいだ:まず、新連載でタイムスリップものを描こうかという流れになり、私は大映ドラマが好きで、80年代のドラマみたいな熱い感じがいいですよねという話をしていて、80年代に戻る話にしようということになりました。

最初は、普通の女子高生の主人公を考えていたんですが、編集さんから「それだと、受け手になりすぎて、キャラが立たなくなるのでは」と言われて、それもそうだなと思って「じゃあ、悪い奴にしてみたらどうですかね」と軽い気持ちで言ったら、編集さんが「それ、よくないですか?」とはまったので、悪い主人公で描き始めていきました。

亜紅は、今まで描いたことがないタイプなんですが、悪巧みをするというのは結構好きですし(笑)、悪い子がいい奴に感化されていく姿もこれまであまり描いてこなかったので、それを楽しんでいますね。

――大映ドラマがお好きというところから生まれた作品ということは、もしや、不良少年の虎治郎は、松村雄基さんが入っている…?

あいだ:もちろんです!(笑)。家に4、5作品ほど大映ドラマのDVDボックスがあるので、それを掘り起こしながら、不良の格好を描いてみたりしました。大映ドラマで特に好きなのは『ポニーテールはふり向かない』と『スクール☆ウォーズ』。伊藤かずえさんがすごく好きで、『ポニーテールはふり向かない』は、伊藤さん演じる主人公がドラムスティックで戦う喧嘩の強い女の子だったのが、すごくよかったんです。昔から勝ち気な女の子が好きでしたね。

恋愛で悩む人たちへ〜「自分の心と向き合ってみて、無理に恋愛をしなくてもいい」

――『アナログドロップ』では、今後、恋愛の展開も気になるところですが、あいだ先生自身が、最も描きたいと思う恋愛はどんな形のものでしょうか?

あいだ:「好きだ! ガーッ!」というくらい固い絆で結ばれる恋愛が好きです。「○○くんが好き」ぐらいではだめで、恋が結ばれるのではなく心と心が合致する、この二人以外で恋愛は成立しない…というぐらい強いつながりを描きたいと思っています。

――男子についても、『スイッチガール!!』の新(あらた)、『圏外プリンセス』の国松や彼方、『アナログドロップ』の虎治郎など、さまざまなタイプを描かれてきていますが、先生が理想だと思うのは誰ですか?

あいだ:それは、新ですね。特に理想のつもりで描いたわけではなかったんですが、無口だけれど気がきいて、女性をちゃんと立ててくれて、でも、いざというとき助けてくれるので、最高ですよね。俺様にならず、でもすごく頼りがいがあって家事もできるし、かっこいいなと思います。

――ここまでお話を伺ってきましたが、恋愛至上主義とはまた違う形で女の子たちの恋を描かれてきている先生から、『圏外プリンセス』の美人のように恋愛ができない、うまくいかない…という女子たちに助言を贈るとしたら、どのようなものでしょうか?

あいだ:恋愛で悩めるのは素敵なことだと思うのですが、上手に恋ができない…という人は、もしかしたら、恋愛が必ずしも好きではない、生活に合っていない場合もあるかもしれないと思います。「みんながしているから」と無理しているかもしれない。

私自身も「恋愛向いてないな」と思うときがあって、でも、今は「それはそれでいいんじゃない?」とも感じていて。これは自分で言ってて悲しくもあるんですが(笑)、自分の心に聞いてみて「恋愛好きじゃないかも」と思ったら、無理にしなくてもいいんじゃないかなと。

特に学生さんなどは、「周りがやっているから自分も同じように」と思ってしまうかもしれないですが、面倒だったら、恋愛しなくていいし、インスタもやらなくていい。好きなことをして、ストレスがないのが幸せなことだと思うので、恋愛ができなくて悩んでいるのか、恋愛をしたくないけれど「しなきゃいけない」という思い込みで悩んでいるのか、一度自分の本当の心と向き合ってみてもいいんじゃないかなと思います。

――最後に、2018年が始まったばかりということで、今年、あるいは今後の展望をお聞かせください。

あいだ:同じことを続けていると私は飽きてしまう性格なので、漫画でも日常でもやったことのないことをやりたいですね。『アナログドロップ』も、タイムスリップの話を描くのが初めてで、バトルシーンを描くのがどうしても好きなので、そこに寄っていくところはあるかもしれませんが(笑)、これまでとは違う作品になっていったらいいなと思います。

最近はやばいことを暴露したい衝動にかられていて、どうやったらできるかとも考えているので(笑)、新しいことに挑戦して、いつか「やったぞ、こいつ」と思ってもらえるような面白いことをやりたいとも思っています。

ギリギリの危ない橋を渡るところが、私はやっていて楽しいですし、読者の方々も「こんなこと描いて大丈夫?」と思いながら楽しんでくれていると思うので、そこは臆せずにやりたいです。

――『アナログドロップ』の今後の展開含め期待しております! 本日はありがとうございました。

『マーガレット』で人気を博した、あいだ夏波先生の日常系ショートギャグ『小波ちゃんのささくれ』が、ファッション雑誌『MORE』(集英社)の公式サイト上で連載スタート!(内容は、過去『マーガレット』に掲載されたもの) ファンは要チェックです!

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集英社 マーガレットコミックス
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1月25日(木)発売
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