5分単位で取得できるテレワーク制度を導入する、製薬会社のベーリンガーインゲルハイム(写真:BIJI)

政府が推し進める「働き方改革」において、対策の1つとして近年注目されているのがテレワークだ。「テレ=離れて」の接頭語でわかるように、職場以外のところで仕事をする形態を指す。政府の発行するガイドブックなどでは「ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」と定義されている。

事例としてわかりやすいのが、子育てや介護など、事情がある社員を対象とした在宅勤務だろう。しかしこれ以外にも、移動中、取引先などの出先を仕事場とするモバイルワークや、サテライトオフィス利用など、さまざまな形態が考えられる。

こうした、政府が先導する業務改革のケースで難しいのが、実態に即していないことや、仕組みに対する理解・浸透が進まないということだ。テレワーカー実態調査でも、「業務効率が上がった」「自由に使える時間が増えた」などプラスの効果を挙げる回答も多かったが、「仕事時間(残業時間)が増えた」という回答や、制度はあるが実施していないケースでは「仕事内容がテレワークに馴染まない」「職場の手続きが煩雑」「職場でテレワークをしている人が少なく、気兼ねをする」などの回答もあるようだ(国土交通省・平成28年度テレワーク人口実態調査)。

では、テレワークを成功させるためにはどうしたらよいのだろうか。

ユニークなテレワーク制度を導入

製薬会社のベーリンガーインゲルハイムでは、「DesignYour Day!」をキーワードに働き方改革を進めており、その1つとして、ユニークなテレワーク制度を2017年10月1日から導入した。その効果はまだ具体的には実証されてないが、普及も比較的スムーズに進み、活用している社員もいるようだ。

同社はドイツに本社を置く製薬会社で、グループの日本法人としてはベーリンガーインゲルハイムジャパン(BIJI)、日本ベーリンガーインゲルハイム(NBI)、ベーリンガーインゲルハイム アニマルヘルスジャパン(BIAHJ)、ベーリンガーインゲルハイム製薬(BIS)がある。なおBIJIはこれらのグループ会社の統括をする企業だ。

テレワークについては、一部を除く日本のグループ会社全体が対象で、まずは内勤部門から導入し、やがては全社的に拡大していきたいという。

同社でのユニークなテレワークとはどのようなものだろうか。テレワークの一般的な形態として、「自宅」「出先」「サテライトオフィス」などがあると前述したが、同社でのテレワークのもっとも大きな特徴が、テレワークの理由や仕事をする場所は問わず、5時から22時まで、5分単位で申請できることだ。

ただ、当然のことながら、酒席やジムなどは除かれる。逆に言えばそれ以外の場所は許されるということなので、非常に自由度の高い制度だということがわかる。カフェなどでも仕事ができ、日中にプライベート時間を取り、美術館やジムに行くのもOKだ。

「テレワークを申請する頻度も、理由も極力問いません。介護や子育てなど事情がある社員を対象とする考え方もあります。しかし、それを言うなら誰でも何らかの事情、働くうえでの制限があると言えます。私たちは『誰もが制限社員』という前提に立って考えました」(BIJI人事本部の郄野美幸氏)

運用上では、上司、部下間やチーム内で、テレワークを取得する時間(何時から何時)、場所(自宅など)を前日までにメールなどで通知し、合意をとることが条件となっている。また、取得の上限は月間総労働時間の50%を目安にすることとなっている。

活用例は?

実際どのように活用しているのか、社員の実例を聞いてみた。

「私は毎週金曜日をテレワークにすると決めて、周囲にも伝えています。5分単位で申請できるので、ちょっと仕事を中断して子どもを迎えに行きます。8時から仕事を始めれば、決められた時間数で言えば4時ぐらいには仕事は終わりますから、子どもと公園で遊んだりもできます」(NBI医薬開発本部臨床開発企画部の片伯部<かたかべ>哲也氏)


2017年10月、時差Biz推進賞授賞式。小池百合子都知事から記念プレートを受け取る、BIJI取締役人事本部長相原修氏(写真:BIJI)

「決められた時間数」というのは、総労働時間のこと。もともと完全フレックス制をとっている同社では、総労働時間が月単位で1日の労働時間7時間50分×その月の要出勤日数と決められており、それ以上は「残業」となる。残業もゼロが望ましいとされ、残業が常態的になると問題になるそうだ。

片伯部氏は仕事としては、医薬品の安全性や有効性の検証を行う部門のプロジェクトマネージャーを務めている。パソコンと電話さえあればできる仕事であり、今は会社の固定電話は撤収され、パソコンを介した電話か各自の携帯電話で仕事をしているというから、オフィスに貼り付いている必要はない。部署の人数は20数人で、一般的に週1回以上の頻度でテレワークを取っている人が多いそうだ。つまり、毎日2〜3人はオフィスにはいない状態。

「仕事の上ではまったく問題ありません。体感としては、土日が長くなったようなものなので、平日がラクになりました。また、体調が悪いけど働けないほどではない、というときなども活用します。無理に移動して体調を悪化させることもなく、人にうつす心配もないので合理的です」(片伯部氏)

また、プライベートが豊かになったという実感も得ているようだ。

「『こんなメリットもあるんだな』と思ったのが、子どもを幼稚園に預けている間に、妻と2人でランチに行けること。子どもがいると2人でゆっくり食事する機会はなかなかとれないので」(片伯部氏)

いっぽうマーケティング部では、人によってまちまちのようだ。

「どちらかと言えば会社に来ている人が多いですね。7人のチームのうち3人が活用しており、1人は週3回利用しています。私自身は、たとえば出張帰りで夕方に羽田に着いて、以前なら会社に戻っていたところを、自宅でテレワークにするなど、時間を有効活用するために使っています」(NBIマーケティング本部の平田貴彦氏)

時間効率への意識が強くなった

テレワークを導入したことにより、部下や同僚も時間効率への意識を強く持つようになったという。

「たとえば資料作成にはどうしても時間をかけたくなってしまいます。でも、短い時間でよいものを作らなければならないのが資料というものです。テレワークは『限られた時間で最大の成果を』というのが前提なので、ある程度のところで割り切って、バランスよく時間を使えるようになりました」(平田氏)


右から、平田貴彦氏、郄野美幸氏、片伯部哲也氏、人事部の久野慶太氏(筆者撮影)

自宅などからSkypeで会議に参加する社員も増えたおかげか、会議でのダラダラした会話も少なくなった。以前は会議室が取れているからと、ほかの件を話し合ったりしたこともあったが、現在では「決められた議題が終わればすぐに解散」という雰囲気が浸透した。

そのほか、「集中したい仕事のときはテレワークを申請する」という活用例もある。つまり、オフィスではどうしても、ほかの社員に声をかけられたり、周囲が気になったりして思考が分散してしまう。テレワークでは思考が中断されないので、考えがまとまりやすい。

上記、プラス効果ばかりを紹介してきたが、導入するまでは、マイナスの反応もあったという。

「仕事とプライベートの境目がなくなるのではとか、ほかに優先してやるべきことがあるのでは、といった慎重論もありました」(郄野氏)

というのも、同社はもともと、時間単位有休や完全在宅勤務、部分在宅勤務といった制度自体は整っていたからだ。しかし、その仕組みが浸透しておらず、手続きが煩雑なこともあり、社員には活用されていないのが実態だった。

「私のほか、人事部のなかで立候補した5人のプロジェクトメンバーが中心になり、周囲に『テレワークをやってみましょう』という熱意を伝えていきました」(郄野氏)

まずは人事部内で3カ月間試行し、さらに展開規模を拡大して試行するなど、2段階のパイロット期間を設けた。パイロット期間中は毎月アンケート調査を実施し、その効果をグラフ化するなどして評価も行った。こうした手順を踏むことで「オフィス以外で仕事なんて本当にできるのか」と思っていた人も「やってみたらできるかも」というふうに、認識が変わって行ったようだ。

「また、弊社のトップである、トーステン・ポールが強い興味を持ち、ぜひと後押ししてくれたことも、社員の理解を得て導入を加速するのに役立ちました」(高野氏)

そのほか、上司が真っ先に利用し、周囲にはっきりアナウンスしたことで、部下にも浸透しやすくなった。もともと同社は外国人も多く、フレックス制度を利用して業務外の時間をうまく使っていたそうだ。

このように、同社の場合はテレワーク導入の成功要因がもともと企業風土のなかにあったようだ。外資系で、ワークライフバランスへの意識が高く、制度も整っていた。また取引先のなかにはすでにテレワークを実施していたところもあったという。部署にもよるが、取引先を気にしてテレワーク制度が利用できない、という心配はそれほどなかったようだ。

何より、「面倒な手続きや申請がいらない」というシンプルさが、利用のしやすさにつながった。そしてここまでシンプルな制度とすることができたのも、テレワークの仕組みづくりをボトムアップで行い、パイロット展開をして調査・評価しながら、理解を求めていったことが大きい。「利用して本当に大丈夫なのか」という社員や上司の不安をぬぐわなければ、新しい仕組みを浸透させることはできないからだ。

現状は16%程度が実施、あるいは導入予定

総務省が行っている調査では、現状、企業のうち16%程度が実施、あるいは導入予定となっている(2016年9月末時点・通信利用動向調査)。政府は2020年までに、2012年時点の11.5%比3倍程度に引き上げる目標を立てている。

アメリカでは9割近くが導入しているのに対し、現状の10数%、というのは少ない。しかし現在30数%というイギリスでも、2012年のロンドンオリンピックを契機に、ロンドン市内の企業の8割が導入し、数字を引き上げたという実績がある。日本でも2020年の東京オリンピックを目指し、政府や東京都、経済団体や企業などが連携したプロジェクト「テレワーク・デイ」を推進、導入実績を伸ばして行く方針だ。

同ベーリンガーインゲルハイム社のように、条件に恵まれるところは少ないかもしれない。制度が形骸だけにならぬよう、自社風土に合ったやり方を各企業が模索していく必要がありそうだ。