死の予行演習!?「入棺体験」がこんなに気持ちいいなんて

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 終活に生前葬と、寿命をポジティブにとらえるのが昨今のブーム。その最終形は「入棺(にゅうかん)体験」ではないでしょうか。

 入棺体験とは、文字通り棺(ひつぎ)の中に入ること。生前に棺に収まるなんて、めったにできることではありません。恐いもの見たさ半分の妙なテンションで、イベントに参加してみました。

◆「自分を見つめる入棺体験〜棺の中で耳をすませば〜」

 訪れたブルーオーシャンカフェは、南国ムードいっぱいの明るいカフェ。設置してある棺には虹色の布がかかり、祭壇もピンク色で、暗い雰囲気は少しもありません。ファシリテーターには現役のお坊さんが3名いて、カジュアルさの中に荘厳(そうごん)さも匂わせていました。

 参加者は男女合わせて約10名。年齢層は30代〜40代と、死からはまだ遠そうです。全員で輪になり、入棺に対する意気込みを誓い合ったところで、いよいよ本題へ。

◆ワーク1「Who are you? あなたは誰ですか?」

 ふたり一組になって、「あなたは誰ですか?」という、ひとつの質問を繰り返します。聞かれた方は「女です」「猫が好きです」「さみしいです」というように直感的にこたえていくのです。

 たった3分間のワークですが、薄紙を一枚一枚はがすように、自分がむきだしになっていきました。

◆ワーク2「お別れの言葉。弔辞のワーク」

 自分のお葬式を想定し、夫や妻、友人、孫、そして架空の人物やロボット、ペットなどが書いた体で、自分で弔辞(ちょうじ)、つまり「お別れの言葉」を書くのです。

 私は飼い猫になったつもりで自分の弔辞をしたためました。するとあら不思議、書いている時点で涙腺がゆるんでくるではありませんか。これまでの人生に酔う感じでしょうか。

◆いよいよ棺の中へ…

 ナンバーワンじゃないけれどオンリーワンの自分は尊いんだ、と嗚咽(おえつ)をもらしそうになった頃に、満を持しての入棺です。

 Tシャツにジーンズ姿だったお坊さん3名が、いつの間にか袈裟(けさ)に着替えていらっしゃる。希望者には弔辞も読んでいただけるとのこと、せっかくなのでお願いしました。

 思えば、からっぽの棺を目の当たりにしたのは初めてかもしれません。棺というのは常に誰かが横たわっていましたし、自らが進んで入るものではないのです。

 当初、危惧していた恐怖や不安は、片足を踏み入れたとたんに払拭され、神様の吐息が降りそそいでくるような心地よさを感じました。

「恐かったり、苦しかったりしたら、内側からふたを叩いてください」ファシリテーターさんの助言を最後に、ふたがぴたりと閉じられました。

 完全なる密室、隙のない暗闇です。胸の位置で両手を組み、目をつぶると、弔辞が聞こえてきます。

「あなた(筆者)は、あなたの夫のゴハンは忘れても、私(飼い猫)のゴハンは忘れなかった。だから私はあなたが大好きなのです」

……まだ死ねない! 飼い猫を残して(夫もね)死ねない! 人間とは不思議な生き物です。嫌なこと、つらいことがあれば「死にたい」と自暴自棄になるくせに、死のリハーサルをしてみれば「死にたくない」と生に執着してしまうのです。そこが人間の愚かさであり、可愛らしさでもあるのでしょうか。

 弔辞の後には、お坊さんがお経を唱えてくださいます。力強く、あたたかな声は、棺の中にまでしっかりと届き、心に染みてくるのです。入棺体験を通して死生観を今一度考えたいという切なる思いが、存分に伝わってきました。

 入棺したのは3分間ですが、今までの自分から脱皮したような清々しさに包まれました。

 新しい自分に出会えた3分間の旅。入棺体験は、究極の精神的デトックスかもしれません。

<TEXT/森美樹 ILLUSTRATION/尾山奈央>