エンゼルスの入団記者会見で、背番号「17」のユニホームを披露する大谷翔平選手(写真:共同通信社)

2017年12月10日(日本時間)、大谷翔平選手がメジャーリーグの球団「ロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム(以下、エンゼルス)」入りを表明しました。2018年シーズンからメジャーリーガーの仲間入りをする大谷選手の挑戦の日々が始まります。
『メジャーリーグ世界一の組織と選手たち 誰も歩んだことのない道で何が待っているのか』を著し、現在は野球解説者を中心に活躍する建山義紀氏が大谷選手の「二刀流挑戦」について解説します。

2013年から北海道日本ハムファイターズのエースとして、そして長打が魅力のバッターとして活躍した大谷翔平選手が、ついに海を渡ることになりました。

皆さんもご存じのとおり、大谷選手は高校時代にメジャーリーグに直接行き、日本のプロ野球には進まないことを明言していました。しかし、ファイターズによる「ピッチャーとバッターの二刀流」の提案を受けて、いずれメジャーリーグに挑戦することを前提として、日本でプレーすることを選択しました。そのため、大谷選手にとっては満を持しての挑戦となるはずです。

僕が解説の仕事を始めた時、大谷選手はプロ入り3年目でした。前年には2ケタ勝利を達成し、打率も2割7分4厘、本塁打も10本。日本球界始まって以来の二刀流を成功させつつある状態でした。

2015年から2017年までの3シーズン、ほぼ毎試合、そしてリハビリや練習も含め、大谷選手を解説者として見させてもらいました。また、テレビや雑誌の仕事でインタビューや対談をさせてもらうこともありました。

大谷選手のさまざまな一面

大谷選手には、野球少年のように純粋にプレーする一面、プロフェッショナルとして野球を深く突き詰めようとする一面、チームメートとふざけてじゃれ合うかわいらしい一面など、たくさんの顔があります。また、「やはり並のプロ野球選手ではないな」と感じさせる一面もあります。

それは、かつて僕がファイターズやテキサス・レンジャーズでともにプレーしたダルビッシュ有選手とも通ずるところがあると思います。一方で、僕の高校時代の野球部とレンジャーズのチームメートであり、メジャーリーグでは中継ぎやクローザーとして大活躍の上原浩治選手とは少しタイプが違うかな、とも思ったりします。

エンゼルスは、ア・リーグ西地区に籍を置く球団です。同じリーグにはニューヨーク・ヤンキースやボストン・レッドソックス(いずれも東地区)など日本でも有名な伝統ある球団、さらに同じ西地区には2017年にワールドシリーズを制覇したヒューストン・アストロズや、かつてイチロー選手が長年にわたって所属していたシアトル・マリナーズなどが在籍しています。

日本人選手だと、田中将大選手や岩隈久志選手と大谷選手の投げ合いが見られるかもしれません。もちろん、彼らが「バッター大谷」と対戦する可能性もあります。

僕がレンジャーズに入団した2011年頃、エンゼルスはとても強いチームで、「エンゼルスを倒さないと地区優勝は不可能だ」とも言われていましたが、2014年ごろから徐々に勢いを失い、その年を最後にプレーオフへも進出していません。しかし、今回の大谷選手獲得やその他の選手の補強状況を見ていると、優勝に向けての準備を着々と進めているなと感じます。

2017年シーズン、ア・リーグ西地区では優勝したアストロズが他チームを追随させない圧倒的な強さを見せましたが、早ければ2018年シーズンにもエンゼルスが優勝争いに食い込んでくるかもしれません。かつてアストロズが行っていたような大掛かりな補強を、現在エンゼルスがやっているからです。

チームが優勝に向けて力を蓄えているタイミングで入団できたことは、大谷選手にとってもプラスだったと言えます。彼の入団が強いチームを作るきっかけになるかもしれないと、地元のファンも気持ちの高ぶりを感じているようです。

日本よりも過酷なスケジュールが待ち受ける

ア・リーグはDH制度を採用しており、エンゼルスのマイク・ソーシア監督は大谷選手の先発・DHの二刀流での起用を明言しています。そのために、先発ローテーションも1人増やして6人体制で回し、メジャーリーグで主流の中4日ではなく、日本の環境に近い中5日もしくは中6日のプランも考案中とのことです。

これは、長丁場のシーズンで選手に無理をさせない、負荷を掛けない、ケガをさせないという思いがとりわけ強いメジャーリーグならではのアイデアだなと感じています。

ただ、日本のプロ野球は公式戦が143試合ですが、メジャーリーグは162試合で、日本より19試合も多く開催されます。また、日本のプロ野球で先発ピッチャーのために設けられている「あがり」(ベンチ入りメンバーから外れる日)や丸一日休める休養日がメジャーリーグには存在せず、先発ピッチャーも遠征を含むすべての試合でベンチ入りします。

このような背景から、たとえ中6日で先発したとしても、日本と同じ条件でプレーすることは厳しいことがわかります。

日本よりも過酷なスケジュールで、しかも慣れない土地。時差や長距離の移動もある。その環境での二刀流挑戦は負担が大きいため、僕の個人的な考えでは、まずナ・リーグのチームでピッチャーとして打席に立つことから始めたほうがいいと思っていました。

しかし、最初からア・リーグを選んだということは、大谷選手本人は二刀流でプレーすることにかなりこだわっているのだなと感じました。

「ピッチャー大谷」としては、150イニング以上投げて、防御率2点台。これが、求められる数字ではないかと思います。

ピッチングにおいて大谷選手の課題になりそうなのは「安定感」です。英語では「コンシステンシー」といいますが、ダルビッシュ選手や田中選手など、日本で抜群のコンシステンシーを誇っていた選手もメジャーリーグでは苦戦しています。下位打線でも長打を打つこと、膨大なデータによってすぐに研究されることが、日本人ピッチャーを苦しめています。 

メジャーリーグでは特に高いコンシステンシーを誇るピッチャーが一番手、二番手になっていくので、その要素は大谷選手も今後絶対に求めていかなくてはなりません。

これまでの大谷選手は二刀流でプレーしてきたこともあり、現時点ではまだコンシステンシーを極めきれていません。日本での最終登板で見せたピッチングはメジャーリーグのエース級なので、あのレベルをつねに安定して見せられる技術力を身に付ければ、一番手、二番手のピッチャーになれると思います。

二刀流成功に必要なこと

バッティングに関しては、大谷選手の飛距離はメジャーリーグでもトップクラスに入るのではないかと思います。バットコントロール、縦変化への対応力のもろさはまだありますが、メジャーリーグで大事なのは球の緩急にどれだけ対応できるかであり、その能力に関して彼は非常に長けています。

大谷選手のバッティングであえて欠点を挙げるとしたら、能力が高いゆえにその能力だけに頼っていて、配球の読みが甘いところでしょう。とはいえ、配球の読みはもう少し経験が必要なので、成長段階の今から求めてしまうのは早すぎるかもしれません。技術、体力、思考と、すべてにおいてまだ伸びしろがあるので、そこは楽しみにしておきたいと思います。


ピッチャーとしてだけの挑戦であれば、半年もすれば水に慣れて、1年目のシーズンで15勝くらいは十分できるだろうと思います。ただ、二刀流に挑戦するとなると登板数も減るので、その分勝つチャンスも減ります。

また、バッティングについては、メジャーリーガーの速球をいきなり攻略できるとは思えないので、ある程度時間が必要ではないかと感じます。

二刀流で活躍できるのかはもちろん本人の頑張り次第ですが、それ以上に大谷選手がどれだけ低迷してもチームが我慢して使えるかどうか、それが大きな鍵となるでしょう。

先発ローテーションなら3番目以降、打順は6番以降であまりプレッシャーを与えない環境をつくることも大事かもしれません。

僕の個人的な見解ですが、二刀流での成功を期待するのであれば、「3年経ってどの程度の成績を残せているか」という長い目で見てもよいのではないかと思います。とはいえ、水に慣れさえすれば1年目でブレークの可能性もゼロではありません。