近頃インフルエンサーエージェンシーたちは、さまざまなテクニックを駆使して結果を水増ししており、ブランドセーフティや透明性などに関する問題を引き起こしている。

こういった行為は業界全体に蔓延していて、とにかく数字を良く見せたいという考え方が根底にある。ブランド側も、質の高いエンゲージメントが好ましいという一方で、数字上のパフォーマンスが良いものを求めているのが現状だ。そのため、インフルエンサーネットワークはとにかく大きな数字目標を掲げ、苦労することになる。

また最近では、インフルエンサーネットワークの増強対策や「インスタグラムポッド」の利用、フォロワーを購入するといったテクニックまで用いられてきた。しかし、もっとも大きな問題はインフルエンサーネットワークによるエンゲージメントの水増しだろう。というのも、彼らが投稿やキャンペーンへのエンゲージメントを水増ししている場合、それを確認するのは困難だからだ。

水増しのテクニック



インフルエンサーマーケティング市場で、詐欺行為が頻発していることは以前から知られている。この10億ドル(約1100億円)以上の市場において、ソーシャルメディアのスターたちはフォロワー数が多ければ多いほど信頼を獲得し、いまではマーケティングに必要不可欠な存在であるように考えられている。しかし、こうした影響力は作為的に作り上げられてしまうこともある。事実、高いエンゲージメントは、しばしばボットによって作られたものだ。

また、「インスタグラムポッド」のようなグレイゾーンでビジネスを行うインフルエンサーも少なくない。「インスタグラムポッド」は、最大で30人ほどのインスタグラマーたちで構成されるグループである。彼らはグループ内で相互にコメントやいいね!を付与し合うことで、エンゲージメントを高めている。

そしていま、こうした水増しのためのテクニックが、何千人というインフルエンサーたちを抱えるインフルエンサーネットワークで行われつつある。

エージェントの実態



「インフルエンサーマーケティングの市場は多様化しつつある。インフルエンサーエージェントのなかには、広告エージェンシーのように振る舞う企業も出てきており、エージェントごとにまったく異なった仕事をしている」と、360iのインフルエンサーマーケティング部門責任者であるコリー・マーティン氏はいう。

「このようなことが起きる原因は、インプレッション数を保証する慣習にある」と、バイヤーのひとりは指摘している。例を挙げて考えてみよう。120人のインフルエンサーを抱えるインフルエンサーネットワークが、ブランドからキャンペーンを依頼されたとする。彼らはキャンペーンに起用する10人のインフルエンサーを提案する。しかし、インフルエンサーネットワークがオファーするインプレッション数は、各インフルエンサーからのインプレッションの単純な合計ではなく、さらに水増しされた数字になる。

こうした行為は頻繁に行われている。これは、エージェントがクライアントからの数値目標を達成しようとするために起きてしまうと、インフルエンサーを頻繁に起用する自動車ブランドのマーケティングマネージャーは答えてくれた。また、インフルエンサーネットワーク自体がキャンペーンに参加し、インスタグラムストーリーズを通して投稿やアカウントのプロモーションを行っている。「数値目標を達成した瞬間にその投稿は消される」と、彼は説明した。

この行為自体は問題ではない。しかし、ブランドやメディアエージェンシーたちは、彼らが受け取っているエンゲージメントの数字が果たして本当の数字なのかどうかを疑っている。本質的には、ブランドやメディアエージェンシーが設定する数字目標がどんなに高くても、インフルエンサーネットワークは請け負うことが原因だ。

関係者たちの意見



匿名を条件に取材に応じてくれたインフルエンサーは、エージェントによってほかのインフルエンサーの投稿へのエンゲージメントが強制されると述べた。彼は、インスタグラムの写真をリポストすることで、小額の報酬を受け取っている。彼のリポストによって得られるエンゲージメントを、インフルエンサーネットワークの運営者が計算するのだ。さらに、インスタグラムのユーザーたちは、画像をはじめに投稿したインスタグラマーまで遡って行くことが多い。これにより、オリジナルのポストやインフルエンサーを彼らがフォローする可能性も高まる。

「自分が所属するエージェンシーは、こういった類のエンゲージメント増強行為を頻繁に行っている」と、インスタグラムで人気のインフルエンサーのひとりはいった。「私のアカウントはファッション分野だから、母親ブロガーの投稿をリポストすることはそれほど大したことではない。この子は友達なのと、フォロワーに言えばいいだけだ。けれども母親ブロガーやそのオーディエンスに対してお金を払っているブランドは嫌がるだろう」と、彼女は語る。

コレクティブリー(Collectively)の共同創業者であるアレクサ・トーナー氏は、インフルエンサーはほかのインフルエンサーによる投稿をシェアしたりコメントすることに対してボーナスを受け取ることがあると指摘する。そのうえで、次のように語る。「これは連邦取引委員会(FTC)を巻き込む問題だ。もしもユーザーとブランドのあいだで金銭のやり取りが生じているのであれば、それは公示しなければいけない。リツイートやコメントに対して報酬を受け取っている場合も同様にだ」。

もっとも本質的な問題



もうひとつの問題は、ブランドは消費者からのエンゲージメントを欲しがっているにも関わらず、その多くがインフルエンサーによるものであることだ。この観点からいうと、前述のインスタグラムポッドは悪質だ。彼らはインスタグラムのアルゴリズムを逆手にとってエンゲージメント数を増やしている。エンゲージメントがインフルエンサーによって水増しされているのであれば、ブランドやエージェンシーは、自分たちが一体何にお金を支払っているのか疑問に思うだろう」。

とあるメディアバイヤーは、次のような体験を語る。「(こういう慣習を)インフルエンサーエージェントによってあからさまに提示されたことがある。いいね!の数は500万です、インフルエンサーネットワークによるブースト(水増しのこと)を活用すれば、追加で1000万です、という具合だ」。こういう実情は公に説明されることもあれば、されないこともある。

「ほかのインフルエンサーたちを使って、いいね!やコメントやシェアを増やすという戦略は、エージェンシーが行うもののひとつだ。クライアントに対して適切に公表されており、適切なオーディエンスとのマッチングができていれば、エンゲージメントを増加させるのに効果的といえる」と、スピーカー(Speakr)のCEOであるマルコ・ハンセル氏はいう。

「しかし、せっかく適切なオーディエンスを抱えているインフルエンサーを選んでも、エージェンシー側がまったく関係のないほかのアカウントによってシェアやコメントなどを増やし、エンゲージメント数だけを増加させてしまうことがある。これが最悪のシナリオだ。まったく関連性のないオーディエンスからのエンゲージメントを獲得しても、数字上のパフォーマンスは良くても、結果に繋がらない」。

数字と目標のかい離



ほかのバイヤーも同様の体験について説明してくれた。彼が雇ったエージェントは数百万のインプレッションを保証してくれたが、それが上記のような方法で水増しされるとは伝えられなかったという。これはいくつかの理由で不適切だろう。ブランドが特定のインフルエンサーたちを雇ってキャンペーンを実施する理由は、そのインフルエンサーがブランドにとって意味があるからだ。

上記のようなテクニックを使われると、雇ったインフルエンサー以外のアカウントによってコンテンツがシェアされることになる。そして多くの場合、こういったアカウントのターゲット層はブランドがターゲットにしている層とは異なる。数字上はよく見えても、キャンペーンの最終的な目標を達成していないという乖離が起きるのだ。「エージェントに後押しされて、ブランドにとって価値がないような行為をするインフルエンサーたちがいる。それによってブランドセーフティを損ねる可能性があるとも知らずに」と、このバイヤーは語ってくれた。

「インフルエンサーにインセンティブを与えようとするプロセスで、プラットフォーム化、ゲーム化が進み、インフルエンサーマーケティング業界自体が過度にコモディティ化してしまう可能性がある。それが、インフルエンサーマーケティングに起き得る最悪の結果だ。こうなると、業界全体の評判が下がってしまう。コンテンツのパフォーマンスではなく、無駄なエンゲージメントに対して費用を支払うことになるからだ。もはやリーチしたい消費者に対して理解を深めることは困難になるだろう」と、トーナー氏はいった。

Shareen Pathak(原文 / 訳:塚本 紺)