今年のキーワードは「スピードとオープン」にした豊田章男社長と「e―パレット コンセプト」)

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 「トヨタは電動化のフルラインアップメーカー」と強調するトヨタ自動車の豊田章男社長。世界的に電動車の開発競争が激化しており、気を引き締める。ハイブリッド車(HV)で市場を開き、プラグインハイブリッド車(PHV)や燃料電池車(FCV)も投入し「市場とお客さまがどれを選んだというのがはっきりするまではフルラインアップで戦うしかない」と話す。

 電気自動車(EV)の開発も積極化する中、今年のキーワードは「スピードとオープン」に設定。「答えがない中で、まずやって見ることが大切」と電動化と向き合っている。

 その象徴が先日開催されたデトロイトモーターショーで公開したコンセプト車「レクサスLF―1リミットレス」だろう。高級車ブランド「レクサス」の旗艦スポーツ多目的車(SUV)をベースに自動運転機能のほか、EVだけでなくFCVにも対応できる仕様にした。

 自動車業界でEV化が加速する中、米国カリフォルニア州でのFCV「MIRAI(ミライ)」の販売台数が3000台を超えたと。トヨタによると、米国で販売されたFCVのうちミライが80%以上を占めるという。FCVの普及を推進する同州でトヨタは水素ステーションの整備を支援しているほか、燃料電池(FC)トラックの実証実験も始めており、FC発電所の建設も計画している。

 カリフォルニア州ではゼロエミッション車(ZEV)規制が2018年から強化された。昨年までZEV対象だったハイブリッド車などが対象から外れ、EV、FCV、プラグインハイブリッド車(PHEV)だけがZEV対象になる。

 さらに、ZEV販売比率が14%から16%に引き上げられた。トヨタとマツダ、デンソーの3社が昨年9月にEV技術の共同開発会社「EVシー・エー・スピリット」を設立したのはこうした背景がある。

 現状では自動車全体に占めるZEVのシェアは1%にも満たないが、今後、増えていくことは確実だ。EVに二酸化炭素排出量の多い石炭火力で電気を供給するのでは意味がない。ひとたび事故が起これば大惨事となる原子力発電を増やすことも現実的ではなく、再生可能エネルギーや水素による発電の拡大が必要になるだろう。

「モビリティー・エコノミー」への布石
 一方、デトロイトショーに先立ち米ラスベガスで開催された「CES2018」。トヨタは「eパレット・コンセプト」を公開した。完全自動運転機能を搭載し、箱型で床が低く大きな室内空間を持つこの商用EVコンセプトカーは、単に走って人やモノを運ぶだけではない。自動運転車と車両空間をさまざまなビジネスと組み合わせ、「モビリティー・エコノミー」(移動手段経済)という新しい産業分野での物理的なプラットフォーム(基盤)を担うものだ。

 トヨタのeパレットでは、事業の用途に応じた設備を搭載しながら、ネット通販の商品配送・宅配から、無人タクシーやライドシェア(相乗り)、移動店舗、レストラン、オフィス、ホテルと、さまざまな業務への展開を想定。米アマゾン・ドット・コムや米ウーバー、中国配車サービス大手の滴滴出行(ディディチューシン)、米ピザハット、マツダの5社と提携し、2020年代前半に米国で実証実験を始める。20年の東京五輪・パラリンピックでは、一部の技術を活用した車両を移動手段として提供するという。

 豊田社長は「これまでのクルマの概念を超え、お客様にサービスを含めた新たな価値が提供できる未来のモビリティー社会の実現に向けた大きな一歩」と話す。

 これまでのようにより良いクルマを作って顧客に提供するだけでなく、それを使ったサービスの提供が今後の成長には不可欠との認識だ。

 実際、自動運転機能を使ったサービス事業の比重が近い将来、急速に増すとの予測もある。インテルなどが17年6月にまとめたレポートでは、自動運転車が将来生み出すモノやサービスへの経済効果を「パッセンジャー・エコノミー」(乗客経済)と名付け、2035年の8000億ドル(約90兆円)から、2050年には7兆ドル(約791兆円)規模にまで拡大するとの試算を明らかにした。

 そこでは、自動運転車による移動手段を事業者や個人に提供する「モビリティー・アズ・ア・サービス(MaaS)」という事業形態が登場。特に個人向けでは、それまで運転に費やしていた時間を別のことに使ったり、移動中に乗客にサービスを提供したりする新しいビジネスが生まれ、現在注目を浴びる「シェアリングエコノミー」の2倍以上の経済規模になると予測している。

 ただ、こうした商用分野を狙っているのはトヨタだけではない。米グーグルは当面の強敵だ。そのためか、トヨタは5社の提携相手とともにMaaSの実用化を急ぐとともに、eパレットに使われる車両制御インターフェースを自動運転制御ソフトウエアやカメラ、センサーなど自動運転関連のソフト・ハードを手がける開発会社に公開、仲間づくりを進める方針でいる。