仮想通貨を用いた資金調達「ICO」が国内外で広がっている。ただ、その会計処理についての明確な指針がまだない(撮影:今井康一)

1月15日、東京証券取引所に提出されたある開示資料が市場関係者をざわつかせている。決済代行サービスなどを手掛けるIT企業・メタップス(東証マザーズ上場)が提出した、韓国子会社のICO(イニシャル・コイン・オファリング=仮想通貨を用いた資金調達)をめぐる資料だ。

それによれば、メタップスは2017年9〜11月の四半期報告書の提出期限延長を申請。今回のICOの会計処理について追加的な検討を行うためだ。さらに翌日、同社は資料の一部を訂正。「監査法人との協議の結果」という文言を削除し、協議がまだ終わっていない点を強調した。

メタップスはイーサリアムで資金調達

ICOの直訳は「新規コインの売り出し」。新規事業を始めたい企業などが「トークン」という独自の仮想通貨を発行し、投資家に販売して資金を集める。トークン購入に使えるのは、ビットコインやイーサリアムといった主要な仮想通貨で、ICO実施者が指定する。


ICOを実施する企業はトークンの詳細を説明した文書「ホワイトペーパー」を公開する。投資判断には欠かせない。画像はメタップス子会社が発行したトークン「プラスコイン」のホワイトペーパー

メタップス子会社の場合、同社が新たに韓国に設立する仮想通貨取引所「コインルーム」の拡大に向けICOを実施。昨年10月までにイーサリアムで約11億円(1月25日の時価で約39億円)を調達した。

ICOは「資金調達」の一種といわれるが、IPO(株式新規公開)などとは手法や特徴が異なる。ICOの場合、トークンは仮想通貨取引所で売買できるため、投資先のサービスが発展すれば売却して利益を得られる可能性もある。


上場企業傘下のICOはメタップスが世界初。会計上の扱いについては、同社が採用する国際会計基準はもちろん、日本基準にも明確な指針がない。

メタップスは「受領した対価(仮想通貨)は将来的に収益として認識する」方針だ。ICO直後は暫定的に流動負債の「預かり金」として計上したが、昨年11月のコインルーム設立と同時にホワイトペーパー(資金使途などを示す文書)の定める利用者への返還義務がなくなったとして、将来の収益認識を前提とする「前受金」へと計上し直した。

仮想通貨は現金と同等に扱えるのか

だがこの返還義務の有無には議論の余地が残る。韓国では今、仮想通貨の取引禁止を含む規制の議論が過熱。コインルームの発展性や継続性に不安が増す中で返還義務が消滅したと言い切るのは容易ではない。


当記事は「週刊東洋経済」2月3日号 <1月29日発売>からの転載記事です

そもそも仮想通貨は現金と同様に扱えるのか、という論点もある。昨年12月には、韓国でハッキングによる仮想通貨喪失が発生。メタップスの監査法人は、専門家による情報セキュリティに関する追加検討や、同社が保有する仮想通貨残高を適時に確認する手続きの検証が必要だと、会社側に説明しているという。

ICOの波は各国の上場企業に広がる可能性もある。メタップスのケースはICOの会計処理の“前例”となる。四半期報告書の提出期限は2月15日。その内容に注目が集まる。