「Thinkstock」より

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●大学入試改革を先取りする中学入試の新タイプ入試とは

 1月に入って、首都圏では茨城・千葉・埼玉、そして関西で始まった中学入試。いよいよ2月1日からは、東京・神奈川で入試が始まります。受験生を持つ家庭では、最後の準備に余念がないことでしょう。健闘をお祈りします。

 さて、本連載ではこれまで、大学入試から日本の教育が変わるということをお話ししてきました。その狙いが、21世紀型能力の育成ですが、実は大学入試改革を先取りするかたちで、中学入試では新しい学力を測る試験が増加していることをご存知でしょうか? それが、新タイプ入試と呼ばれるものです。

 中学入試の王道は、これまで算数・国語・理科・社会の4科目入試、あるいは算数・国語の2科目入試が大半でした(関西は社会を除く3科目入試が多い)。しかし、数年前から従来と異なる新タイプ入試を実施する学校が増えているのです。

 そのひとつが、適性検査型入試。これは公立中高一貫校ができたときに導入された試験で、国語・算数・理科・社会といった単独の教科知識を問うのではなく、複数の教科を横断して出題されるのが特徴。出題範囲は小学校で学習した内容ですが、習った知識を活用し、組み合わせて解答を導く思考力、複雑に見える問題文を素早く的確に読み解く読解力などが求められます。これに作文を課す学校もあります。これは、まさしく今回の教育改革で進められようとしている、思考力・判断力・表現力を問う問題であり、公立中高一貫校は入り口の部分では教育改革を先取りしてきたといえるでしょう。

●私立中高では思考力重視で、21世紀型教育を先取りしている学校も

 一方、私立中学入試でも、教科横断型ではありませんが、学校によっては以前から知識を問うだけでなく、知識を活用して思考し、それを自分の言葉で表現することが求められる問題が出題されてきました。

 たとえば、武蔵中学校(東京都)の理科の入試問題で出題される「おみやげ問題」は有名です。試験問題とともに、画鋲やネジといった実物の「モノ」が入った袋が配られ、実際にそれに触ったり、観察してわかったことを自分の言葉にして答えることが求められます(「モノ」は持って帰っていいので、通称「おみやげ問題」といわれています)。武蔵は、教育方針のひとつに、「自ら調べ自ら考える力ある人物」の育成を掲げており、この問題もそうした方針を体現したものだといえるでしょう。

 難関校ほど、こうした思考力を問う問題を出題する傾向が強かったのですが、ここ数年、さまざまな学校が、新タイプの入試を実施しています。首都圏の中学入試では、2014年から17年にかけて、「適性検査型(総合型・思考力・自己アピール)入試」を実施した私立中学校は、38校→53校→86校→120校と、年々増加。さらに18年入試では、計136校の私立中学校が、同型式の入試を実施することが判明しました(首都圏中学模試センター調べによる)。

 私立中学校が新タイプ入試を導入する背景には、当初は公立中高一貫校受検者(公立中高一貫校は受験ではなく受検といいます)の受け皿といった感がありましたが、ここ数年、事情が変わってきているようです。その流れを変えたのが、やはり大学入試改革ではないでしょうか。

 私立中高のなかには、以前から目前の大学受験突破のためだけではなく、社会で必要とされる本質的な力を身につけることを目的とした教育を行っている学校が相当数あります。

 しかし、既存の大学受験が主に知識を問う問題である限り、生徒がその関門を突破するための力を身につけさせることに時間を費やさざるを得なかったという側面がありました。

 しかし、今回大学入試が思考力や表現力を問うものに変わることがはっきりしたので、その辺りの矛盾が解決されることになります。

●最先端の「レゴシリアスプレイ」をベースにした入試も出現

 そこで、教育改革を先取りして21世紀型能力の育成を行うことを明確に打ち出す私立中高が増加。そのアピールのひとつとして、新タイプの入試を行う学校が増えているということもできます。内容は、学校によって、「合科型」「PISA型」「思考力型」「自己アピール型」など様々ですが、中には、レゴを使うユニークな入試もあります。聖学院中学校(東京都)の「思考力ものづくり入試」がそれです。

 17年度は、最初は「自分の得意なこと」をレゴの作品で表し、150字の記述で書く問題。2番目は、配布された問題用紙にある、海外の食糧問題と食糧自給率などの資料(表やグラフと文章)を見て、その解決方法をレゴの作品でつくらせ、やはり150字の記述で書かせるもの。最後に、自分自身がその解決案にどう関わっていきたいかを、やはり150字程度で記述させる問題でした。

 レゴを使うというユニークさで、メディアでも注目を集めましたが、この問題を解くには、問題を読み解く「国語」の力、データを解析する「算数」の力、社会問題や自然法則の知識である「社会」や「理科」などさまざまな能力が必要になります(同校思考力入試ガイドより)。その考え方のベースになっているのが、「レゴシリアスプレイ」というメソッドで、社会人研修でも取り入れられ始めています。同校では、このファシリテーターの資格を持った教員がいて、実際に授業にも取り入れています。

●教育の意味を問い直す時代に

 少子化に向かうなか、どの学校でも生徒募集には工夫を凝らしていますが、入試問題は学校からのメッセージという言葉があるように、どのような入試を行うのかは、その学校の教育への考え方の一端を表しているといえます。それだけに、今後さらに増えると予想される新タイプ入試も、単に生徒募集のための策なのか、実際に21世紀型能力の育成を目指した教育と連動した取り組みなのか、受験する側がよく見極める必要があるでしょう。

 いずれにしても、少しでも偏差値の高い学校に入るために、遊びや習い事も犠牲にして勉強をしないと突破できないと思われていた中学入試も、積極的に21世紀型教育を行う学校が出てきたことで多様化し、小学生らしい生活を送りながら、受験にチャレンジできる選択肢が広がってきたことは、教育改革の思わぬ成果といえるかもしれません。
(文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト)