なぜ高齢者事故の8割が自宅で起きるのか

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■「元気だと思っている親ほど危ない」

今はどんなに元気でも、自分の親にいつ介護が必要になるかは誰にもわからない。厚生労働省が発表した「65歳以上人口に占める介護保険受給者の割合」を見ると、年齢とともに受給者の割合がぐんぐん上がっていくのがわかる。つまり、介護は「いつかは必ず来る」ものなのだ。

「元気だと思っている親ほど危ない」と指摘するのは、『50代からのお金のはなし』などの著書がある、ファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏だ。

高齢者の事故の8割近くが家の中で起きています。それは彼らの外出が減るからでもありますが、『勝手知ったるわが家だから大丈夫』という油断があるのも事実。年をとると筋力が弱まるので、物を上に上げるのが億劫になり、気づけばいろいろな物を床に直接積み上げています。すると、ふとした拍子に躓き、転倒。敷いてあった布団の端に足を取られて骨折してしまい、そこから寝たきり生活がはじまった事例も。親の体力的な衰えを察知し、リフォームなどの対策をとることも大切です」(黒田氏)

厚生労働省が発表した「介護が必要になった主な原因」を見ると、骨折・転倒が4番目に多い。そのほかにも、脳血管疾患、認知症を筆頭に「さもありなん」という項目が並んでいる。何がきっかけではじまるかわからないのも介護なのだ。

しかし、親が危険な目に遭わないように、辛くないように、と何でもかんでもやってやるのは間違いのようだ。

■家族が甘やかすと、場合によってはボケてくる

高齢者を家族が甘やかすと、体力も気力もどんどん低下して、そのうち自分では何もできなくなってしまいます。すると、思考力は衰え、行動は狭まり、場合によってはボケてくる。『親の面倒を見る』ということの意味をはき違えて過保護にすると、お互いにとっていい結果にならないのです」(黒田氏)

日本では近年、「介護離職」の問題が拡大。2007年10月〜12年9月の5年間に、介護・看護のために離転職した人の数は48万7000人にのぼる。それ以外の選択肢がないケースももちろんあるが、ますます要介護者が増えるとされる今、介護との上手な付き合い方を模索する必要があるだろう。

黒田氏によれば、親ができるだけ長く、自立した生活ができるようサポートするのが子としての務め。高齢の親には、わが子を千尋の谷に突き落とす獅子のような気持ちで接し、ある程度は大変な思いもさせなくてはならないのだという。ひいてはそれが親の自立につながり、私たちが「介護うつ」や「介護離職」で自分たちの生活を瓦解させないための予防策になるのだ。

とはいえ、親の環境や心身の状態によって最良の選択は変わる。

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黒田尚子(くろだ・なおこ)
CFP、1級FP技能士、消費生活専門相談員。著書に『50代からのお金のはなし〜介護、相続、実家対策まるわかり』『がんとお金の本』などがある。
 

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(ライター 大高 志帆)