あなたは、知っているだろうか。

東京の勝ち組女である“港区妻”に、実は純然たる階級があることを。

その頂点に君臨するのは、生まれ育った東京で幸せに暮らす、生粋の「東京女」である。

一方でたった一人で上京し、港区妻の仲間入りを果たした女たちもいる。元CAで専業主婦の桜井あかりも、その一人。

東京女を相手にあかりが挑むのは、港区妻究極の総決算。それは、慶應幼稚舎受験であった。

CA仲間だった玲奈と百合が、当然のようにお受験準備をしていることを知り、東京の富裕層出身の二人との違いに愕然とするあかり

信頼する友達、凛子から、慶應幼稚舎の魅力をきき、初めて強い興味を持つが―。




「それでね、昨日CA時代の同期と“受験”の話になって。今まできいたことなかったけど、彼女たちは幼稚舎と東洋英和出身だから、実はすごく熱心に準備してたみたいで、正直びっくりしたの」

あかりは、話のついでというふうに“受験”という単語を口にした。

今日はクリスマスバザーに出す手芸品を作るため、同じ幼稚園の母親たちと集まっている。このような集まりは週に1度はあり、その帰りにはランチへ行くのが常だったが、これまで受験の話はほとんど出なかった。

いつも一緒にいる幼稚園の友達が、水面下でお受験の準備をしているのか、どの程度熱心なのか。あかりは確かめたかったのだ。

「幼稚舎出身!英和出身!羨ましいなあ。あかりちゃんのお友達すごいねえ、CA時代のお友達?」

「あ、うん、でも二人は東京生まれの東京育ちだから…」

―私とは、違う。

そう言いかけて、あかりは小さく唇をかんだ。違わない、そんなに違わないはずだ。

「幼稚舎狙いだったら、もうすでにご挨拶に行ってるだろうし、あかりちゃんに話すくらいだから勝算あるんじゃない?」

今はバーキンを持ち、地味色のセルジオロッシを履きこなしているけれど、メイクの仕方や小物の趣味から派手さが残るルリがオーナメントを縫いながら言う。

裁縫が苦手でも、この幼稚園にいると毎月何かしら作らされるため、一通りのことができるようになってしまうのだ。

「やっぱり幼稚舎受験に、“ご挨拶”って必要なのかな?」

あかりの言葉に、そこにいた5人が全員あかりの顔を見た。


東京お受験ママたちの口から語られる、驚きのエピソード!


ネイティブ港区妻の幼稚舎基礎知識に愕然


そして5人は、口々に言い始めた。

「幼稚舎の卒業生は、子どもが生まれたらできるだけはやく、幼稚舎の同窓会や卒業生しか入れないイベントに連れて行って面どおしできるのよね〜!」

「卒業生はいいわよねぇ。しかも企業オーナーだったら、そのイベントで自社製品を配って印象付けるっていう噂もきいたことあるわ」

面どおし?自社製品を配る?話には全くついていけないが、あかりは必死に耳をそばだてた。

「女の子だと募集自体が少ないから、何月生まれはあの政治家のお孫さんが当確で、コネがあってもあと2枠、とか、事前に噂がまわるのよ」

「コネがあっても厳しいもんね。でも仮に入れたとしても、海外研修も多いし、学用品はすべて慶應仕様でそろえるし、給食は超名門ホテルの仕出し、寄付のほかに塾債もある。いったいどのくらいお金がかかるのかしら……?」

最後に、ルリがぼそっと言った。

「幼稚舎受験って、義実家・実家・自分たち夫婦あわせて、これまでの社会的地位と財産の総決算なのよね」




あかりは改めて、まじまじと5人の顔を見た。話の内容に驚いただけではない。全員が当然のように幼稚舎に関する知識があることに驚いたのだ。

「それって、お受験の世界では常識なのかな…?」

思わずつぶやくあかりに、ルリが笑う。

「お受験ていうか…東京で生まれて下から私立なら、ひとりくらいは幼稚舎に友達いるしね」

―東京で生まれていれば。

その言葉はあかりの胸に刺さった。

これまでの人生、東京で華やかな生活を楽しみ、安定した暮らしを手に入れた。地方出身であるということは、大した問題ではないと思っていた。

でも、もしかして……。

それは「これまでの話」で、「これから」は違うのではないだろうか。

帰りがけ、5人の中で唯一、地方出身である知美があかりの肩をたたいた。

「東京の人の情報ネットワーク、羨ましいよね。私たちみたいな地方出身のママは、旦那の実家頼みか、お教室で必死に情報を集めるしかないから苦労するよね」


凛子に紹介されたある場所を訪れたあかりに、まさかの展開


一般人は知りようのない、秘密の扉。今、あかりの前に光明が差す!


数日後、あかりは凛子が教えてくれた住所をナビで確認しながら、旬と共に南麻布の住宅街を歩いていた。

幼稚園の友人との集まりを終えて家に帰ると、あかりの胸にわいてきたのは思いがけず“悔しい”という気持ちだった。

これまで、あかりは大抵「羨ましがられる」立場だった。頭もよく、見た目もスタイルも悪くない。結婚生活も順調そのもの。すべては運だけじゃなく、努力して勝ち取ってきたという自負もある。

それなのにお受験というものに関して、あかりはすっかり周囲の後塵を拝している。東京出身でないことを、揶揄されているような気さえするのだ。

悔しいならば見ないふりをするのではなく、実態を知りたいという気持ちが湧いてきて、頼みの凛子に相談した。するとLINEですぐに住所と電話番号が送られてきたのだ。

「紹介制のお教室。私も自分の小学校受験のとき、お世話になったの。電話しておくから、お話きいてきたら」



教えられた住所をもとに目指した先は、外観からはまるで教室とは思えない、豪奢な一軒家であった。

「初めまして、桜井あかりと申します。こちら息子の旬と申します」

応接室に通され、あかりは久しぶりに緊張しながら自己紹介をした。

先生は、スラリとした体型で50歳前後か、宝塚出身の女優に似ている。エレガントな濃紺のワンピースは、間違いなく上等で、笑顔だが言葉少なで、緊張が高まる。




「ごきげんよう、北条ミキと申します。凛子ちゃんからお話を伺っています。ご両親の履歴書をお預かりします。お電話でお話しました通り、1時間、旬くんをお預かりしても?」

「はい、よろしくお願いいたします」

情報収集が目的だったあかりは、内心困惑していた。イメージしていたのはドラマで見たような大手のお教室で、このような教室は想像だにしていなかった。

でも、ほかならぬ凛子の紹介だ。きっと普通なら、ここに来るチャンスもないのだろう。失礼のないようにしなくては。

落ち着かないまま、紅茶を飲むこと1時間半、ようやく旬が先生に連れられて戻ってきた。

心なしか頬は赤く、うっすらと汗もかいて、ズボンからシャツがはみ出している。てっきり問題集でもやってくると思っていたが、運動もしたのだろうか。

旬は運動神経こそ抜群に良かったが、これまで勉強らしい勉強はしたことがない。細いわりには体が丈夫で、いつも半袖を着て公園を走り回っている。父親に似てとても目が大きく、良くも悪くも目立つと思うのは親の欲目だろうか。

しかし、北条ミキから醸し出される圧倒的なオーラから、とてもこの面接をパスしたとは思えない。

それでも飛び切りの笑顔で走り寄ってきた息子を、「お帰り!頑張ったね」と抱きしめた。「楽しかったよ〜!」と旬が嬉しそうにほおずりする。

「桜井さん。旬くんを、お預かりしましょう。慶應幼稚舎と、立教に絞れますか?」

あかりは、あっけにとられて先生の顔を見た。

「ただし、あなたには、相当頑張っていただかないとなりません」

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北条ミキの真意とは?そして受験と無縁のあかりの夫の反応はいかに?