アジアの新星、チョンは自信とともに大会を去っていく

写真拡大

「ほろ苦い勝利だ。決勝に進めたのはうれしいが、こんな形じゃなければよかった。今大会、素晴らしいプレーをした彼を褒めてあげてほしい」

ロジャー・フェデラー(スイス)はジム・クーリエによる勝利者インタビューで、途中棄権した対戦相手チョン・ヒョン(韓国)を気づかった。

21歳の若者が36歳の王者に挑んだ準決勝。チョンは左足にできたマメの痛みが悪化し、第2セットの2-5で棄権した。

第1セット第1ゲーム、チョンはロングラリーで粘り、見事なカウンターを決めた。彼の得点パターンであることを知っている観客は、大歓声で称えた。しかし、そんな歓声が湧く場面は数えるほどしかなかった。最後は棄権となったが、試合は最初からフェデラーのペースだった。ラリーの序盤の攻防でフェデラーが支配したからだ。

試合の焦点は、短いラリーでけりをつけたいフェデラーと、長引かせたいチョンの主導権争いにあった。また、ポジションを前にとって攻めるフェデラーのスピードを、チョンがどうしのぐかにあった。チョンが深いボールで押し込み、逆に前に入って攻める場面が増えれば、フェデラーの苦戦も予想された。

しかし、フェデラーがすべて自分の思い通りにゲームを進めた。マメの影響もあって自分の形が作れないチョンは、次第にリズムを失った。フィジカルが万全でないチョンには歯が立つ相手ではなかった。

「プレーしない(最初から棄権する)というのは考えなかった」とチョン。しかし、会見では「痛くて歩くこともできない」と明かした。初の四大大会準決勝は、それこそ「ほろ苦い」味だけが残っただろう。

この大会では3回戦で「Next Gen」の旗手アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)を破り、4回戦では元世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)に競り勝った。

ジョコビッチを倒し、その後、フェデラーに叩かれた選手と言えば、錦織圭(日本/日清食品)を思い出す。11年の「スイス・インドア」だった。ジョコビッチを破って決勝に進出した錦織は、フェデラーに完敗を喫した。後日、「あの試合は結構ショックで、試合のあとは結構悩みました。ジョコビッチにも勝って、自信はありましたけど、こてんぱんにやられてしまった。自分のいいところをまったく出せず」と話している。その後、錦織は堅実さ優先のスタイルをより攻撃的に修正し、14年の世界ランキング・トップ10入りにつなげた。

フェデラーは男子テニス界における目標であり、指標だ。「ロジャーとグランドスラムの準決勝で対戦できたのは名誉なことだった。多くのことを学んだ」とチョンは言う。万全な状態で挑めなかったことは惜しまれるが、この経験は、センターコートでフェデラーのボールを受けた感触は、彼に何かを残しただろう。

「2週間、素晴らしいプレーができた。初めて4回戦、準々決勝、準決勝と勝ち進み、サーシャ(ズベレフ)、ノバク、ロジャーとプレーした。素晴らしい経験ができた。これからもっといいプレーができるようになると思う」。

アジアから生まれたもう一人のスターは、大きな自信とともに大会を去っていく。

(秋山英宏)

※写真は「全豪オープン」準決勝で途中棄権したチョン・ヒョン
(Photo by Recep Sakar/Anadolu Agency/Getty Images)