認知科学で考える上司の話が長くなる理由

写真拡大

人に何かを頼んだとき、どうして言った通りにしてくれないのか。その原因は、あなた自身の言い方や口グセにあるのかもしれない。24の症例とともに、改善するための「処方箋」を明らかにしよう。今回は、東京大学大学院教育学研究科・特任助教の野村亮太氏に「話が長すぎる」について聞いた――。(全24回)

※本稿は、「プレジデント」(2016年10月31日号)の特集「『超』ウケる言い方入門」の記事を再編集したものです。

■陥りがちなのは過去と仮定のセリフ

認知科学の研究から上司の話が長くなる理由として考えられるのは、脳の抑制機能が低下している可能性である。「これをしてはいけない」とストップをかける脳の抑制機能が老化や疲労といった理由で低下し、「これは話さないほうがいい」という判断がしづらくなっている場合がありうるのだ。

また、話している最中に面白い言葉を自分で言ったことに気付いてしまうと、気持ちを抑えられずに「その話だけど」と脱線してしまう。これは注意の方向が聞き手ではなく自分の話に向いてしまっているためだ。

背景には上司の「話の主導権は自分にある」という優先意識があると感じる。幅の狭い道で、どこまで近づくと相手が速度を調整し始めるか、私は時々観察して見ている。女性はあっさり道を開けてくれるのに対し、世の中の上司と年齢層の重なる年かさの男性ほど、ぎりぎりまで歩みの速度を変えない。

こうした優先意識と周囲の「どうぞ、どうぞ」という気遣いが重なると、上司の話は長くなりがちになるわけだ。

伝える技術に問題がある場合もあるだろう。プロの落語家と、大学の落語研究会に入って2年目の学生に20分ほどかかる同じ噺をしてもらい、その映像を見た聞き手の反応がどう異なるかを実験したことがある。結果は、大学生の噺は「途中で聞いていられなくなった」との反応が多かったが、プロの落語家にそうした反応は皆無だった。

つまり内容は同じでも、聞き手が体感する話の長さは話術が下手なほど大きくなるのである。

では、どうすれば話が長すぎないようにできるか。端的に言えば、まず話の要点を決め、そのポイントを伝えることに満足することを目指せばよい。

話を簡潔にするには漫才の構造が参考になる。漫才では「最近、物騒な世の中になりましたね」といった前振りで状況を提示し、次に「うちでも防犯対策したいんですよ」と自分が話したい話題に入っていくという定石となる構造がある。前振りがあって初めて聞き手は話を容易に理解できる。ところが唐突に「廊下を鴬張りに変えまして」と話し始めれば、聞き手が何の話かと混乱するのは避けられない。

一方、伝える技術の観点からすると、まず話が長すぎる人が陥りがちな罠を避けることも重要だ。それは「過去の話」「仮定の話」をしないということだ。

過去や仮定の話を始めると「5年前は、10年前は……」「もしこうだったら……」と際限なく広がりだしてしまう。「いま、ここで」に限定されなければ、話はどこまでも長くなる。

プロの落語家から伝える技術を学ぶのもよいだろう。たとえば話の邪魔になる要素をなくすことだ。「えーと、えーと……」を話し手が何度も繰り返すと、聞き手は「これで10回目、11回目……」とそちらが気になって話が頭に入ってこなくなる。こうした話の邪魔になる要素を適切に排除していくことは、一般の人でもできるだろう。

----------

野村亮太(のむら・りょうた)
東京大学大学院教育学研究科・特任助教。東京理科大学大学院工学研究科博士後期課程。九州大学教育学部卒業、同大学院人間環境学府修士課程、博士後期課程修了。著書に『口下手な人は知らない話し方の極意 認知科学で「話術」を磨く』など。
 

----------

(東京大学大学院教育学研究科・特任助教 野村 亮太 構成=宮内 健)