新しい発想のハリネズミカフェ「ちくちくCAFE」を紹介する(筆者撮影)

猫カフェから始まって、動物と触れ合えるカフェはその種類、数ともに、近年増える一方だ。なかでも今流行まっただなかと言えるのが、ハリネズミ。そして2017年12月2日に、新しい発想のハリネズミカフェが東京・渋谷に誕生した。

ハリネズミとドールハウスを組み合わせ

ハリネズミの愛らしさをドールハウスの世界観と組み合わせて紹介する「ちくちくCAFE」である。運営する「株式会社飼育係」社長の清水正樹氏は、ウェブサービス提供を行うflascoの代表でもある。そんなネット畑の人材が、なぜ、ハリネズミとドールハウスのカフェ運営という発想に至ったのだろうか。


ハリネズミの愛らしさをドールハウスの世界観と組み合わせて紹介する(筆者撮影)

「ハリネズミとドールハウスの組み合わせは、海外の人気インスタグラマーの写真から発想しました。ドールハウスはどこか、“お人形さん遊び”のような、子どもの頃を思い出させる。その魅力と、ハリネズミの独特なかわいらしさがマッチするんです」(清水氏)

そもそも清水氏はオンラインショッピング事業から派生して始めた実店舗運営もしているところから「今は実店舗での販売がうまくいかない時代。体験を提供できる場所が必要」と感じていた。そんななか、3年ほど前からのハリネズミブームには注目していたのだという。しかしハリネズミカフェの市場では、同社は後発。何かいいアイデアはないかと検討中だった。

「単に『ハリネズミに触れる』だけでは勝てません。コンセプトを明確に立てる必要がある。メイドカフェとハリネズミを組み合わせる、ということも考えましたが、やはりターゲットにするなら女性客だと。それで、ドールハウスになったのです」(清水氏)

店内中央には、1.5メートル四方ほどの空間に、“ハリネズミの暮らす街”が配置されている。ドールハウス作家・谷本明子氏の作品がそのまま、ハリネズミのケージとなっているのだ。

取材に訪れたのがちょうどクリスマスシーズンとあって、ミニチュアのツリーも飾られていた。自分自身が小さくなってそのまま暮らしたくなるような、メルヘンチックでしかも細部までリアルに再現された世界が繰り広げられている。

谷本氏を選んだのは、作風がイメージにマッチしていたこともあるが「ハリネズミに害のない接着剤を使う」などの、条件を汲んでくれたことも大きかったそうだ。


ハリネズミが暮らすドールハウス(筆者撮影)

店内周囲の壁に沿って、より小さなケージを配置。こちらは谷本氏の作品ではないが、和室やダイニング、“教室”など、テーマ性のあるドールハウスになっており、それぞれ2匹のハリネズミの居住スペースとなっている。

ケージにも工夫がされている

ドールハウスとして観賞用も兼ねるのだから当然だが、ケージはガラス張りで、さらに、前面のガラスを取り外すことができる。お客がハリネズミと触れ合いたいと思ったときに、スムーズに取り出せるように工夫されているのだ。「これはハリネズミのストレスを和らげるためでもあります。上から近づくものには、ハリネズミは本能的に恐怖を感じますので」(清水氏)。


ハリネズミと触れ合いたいと思ったときに、スムーズに取り出せるように工夫されている(筆者撮影)

全体では40匹ほど飼育しているが、店頭に出しておくのは10〜20匹で、時間も4時間ほど。あとの時間はバックヤードで休ませる。1日20時間は眠る必要があるそうだ。

「自分自身は自宅で飼えないのですが、カフェをやろうとなったときに、知り合いに飼ってもらって、ハリネズミの生態を研究しました。スタッフは7人いますが、皆ハリネズミ飼育の玄人です。10年以上飼っている人もいます」(清水氏)

実はハリネズミは、人が触れるぐらいに慣らすには訓練の必要があるそうだ。ブリーダー経由で、慣れた状態のハリネズミを仕入れる場合もあるが、卸業者から買い取り、スタッフが訓練する場合もあるという。「ですから、当店の接客係はハリネズミ。スタッフはお世話をする飼育係です。それで、社名を“飼育係”としました」(清水氏)。

今は売り手市場で、よい人材を確保するのは困難だが、同社では求人広告に100人もの応募があったそう。条件的にも決して有利ではないが、優秀なスタッフを集めることができた。「ハリネズミが好きだから」「ハリネズミの世話をしておカネがもらえるなんて一石二鳥」ということのようだ。

難しいのは動物の健康管理

動物の商売で難しいのが、動物に負担を与えず、健康な状態を維持していくこと。たとえば猫カフェは、猫にかかる医療費でほとんど儲からないという話も聞く。ハリネズミは弱い動物ではないそうだが、上記の説明のとおりストレスに気を遣っているほか、温度管理も細かに行う必要があるという。

「アドバイザーとして、動物を扱う業態の経験者に入ってもらっています。また将来的には病院と提携することも考えています。というのは、当店ではいずれ、カフェでお友達になったハリネズミをそのまま引き取ってもらう、つまりペットショップも兼ねる業態に移行する予定だからです」(清水氏)


飼育係社長の清水正樹氏。オンラインショッピング事業、専門家マッチング事業などを手掛けるエンファクトリーの副社長と、ウェブサービス提供を行うflascoの代表でもある(筆者撮影)

ドールハウスケージなどのオリジナルグッズも販売できるので、利益を見込むことができる。さらに、清水氏によると、ハリネズミの寿命は2〜4年。カフェで一生過ごすよりは、かわいがってもらえる人に飼ってもらったほうがよい、という考えもある。

では、反響のほどはどうだろうか。

「ホームページの立ち上げには、アクセス数が400以上になりました。これは多いほうだと思います。土日の昼間は満席で、ときどき行列ができるほど。約100人というところで、平日はその半分ぐらいですね」(清水氏)

清水氏によると、想定よりよい数字とのこと。もっとも、これはあまりPRをしていなかったスタート時の来客数。客が多すぎるとハリネズミ1匹あたりにかかる負担が大きすぎるので、20匹増員してから宣伝を本格化する予定だそうだ。

料金設定は30分1300円、60分2500円。おやつは400円だ。飲み物はサーバーから自由にとってもらう仕組みなので、スタッフの手間もかからず、コストも低く抑えられる。「初期投資が多少かかりますが、普通の飲食店をやるより数倍の利益が見込めます」(清水氏)。


静かにハリネズミとの触れ合いを深める客たち。女性がメインだが、男性の1人客なども訪れ、客層は幅広い(筆者撮影)

客層は20代前半の女性がメインで6割程度。あとは女性同士や、カップルの客が多い。しかしなかには30〜50歳代の男性1人客や、20代男子2人組など、予想外の客層も訪れるそうだ。現在のところ外国人は1割程度だそうだが、今後宣伝を海外に広げることで増加するのではと予想している。

「動物カフェは本来、外国人のお客が多いんです。動物と触れ合えるというサービスが海外にあまりない。それにハリネズミはヨーロッパで幸せの象徴とされており、人気がある動物です」(清水氏)

英語に堪能なスタッフも配置しており、準備も怠りない。

「ハリネズミを浸透させたい」

今後は、たとえば「遊園地」をテーマにするなど、コンセプトを変えながら、フランチャイズ展開も含め1〜2年の間で全国に5店舗ほどを展開したいという。一時のブームで終わらせず、ペットとして猫、犬の次に、ハリネズミが挙げられるぐらいまで浸透させるのが目標だ。

「お客様の表情を見ると、本当に心から楽しんでいる、いいリアクションです。ハリネズミには人の心を和らげるようなところがあるように思います」(清水氏)

確かに、お客の様子を観察すると「キャー、カワイイ!」という陽性の感じではない。性別や、1人客か複数連れかにかかわらず「ウフフ……」と静かに微笑みながら愛でている人が多い。フォトジェニックでもあるところが、このSNS全盛の時代にブームとなっている大きな理由だろう。

ドールハウスとの組み合わせは秀逸だと言える。実際にハリネズミを手にのせてみると、ちくちくしていてややもすると痛いのだが、だからこそ、小さな体で一生懸命生きているけなげさを感じる。手のひらにのせているお客が皆、黙りがちなのもうなずける。現代人の心をとらえる、新たな魅力と言えるかもしれない。