今、味が分からない、何を食べても味が薄く苦く感じるなど、味の感覚がつかめない“味覚障害”を起こす人が急増し、年間十数万人が患うという。
 「原因は、食生活の乱れから起きる溶血性貧血、糖尿病、肝不全の他、心因性ストレスなどの病も絡み、多岐にわたる。中には、味覚障害から顔面神経麻痺に襲われ、診察を進めていくと、脳梗塞が関わっていることが判明するといった怖い症例もあるのです」(健康ライター)

 顔面神経麻痺を起こした著名人といえば、プロ野球の元中日ドラゴンズGMの落合博満氏(64)がいる。
 「落合氏は2012年に顔面神経麻痺を患いましたが、まず異変を感じたのが、何を食べても味がしないことだったといいます。そして、おかしいな、と思いながら翌朝、鏡を覗き込むと顔が変わっていたため、病院へ緊急搬送された。すると医者からは味覚障害に加え、脳梗塞の疑いもあると診断されたのです」(同)

 このような味覚異常は、ある日突然に自覚することが多いという。新潟大学病院の元管理栄養士で、現在、料理研究家の林康子氏は、次のように説明する。
 「味覚障害は今や、間違いなく生活習慣病と並んで日本の国民病の一つになっていると思います。古くから知られている症状ですが、明らかに増えているのが現状です」

 林氏によれば、味覚障害に陥るタイプの人も、時代とともに変わってきているという。最近の傾向として見逃せないのが、10代〜20代の若い世代に増えていることだ。特に女性にそういった症状が多く見られ、ある大学病院が女子大生を対象に300人を調査したところ、半数近くが味覚障害の疑いがあるデータが出たという。加えて、その原因の多くが亜鉛不足であることも判明した。
 「若い皆さんがよく食べるファーストフードや清涼飲料水などに含まれるフィチン酸やポリリン酸などの添加物に、亜鉛の吸収を妨げる作用があるのです。また、過激なダイエットで栄養が偏りがちになり、それで亜鉛不足に陥ることもあるようです」(同)

 そもそも味覚は、基本的に甘味、塩味、酸味、苦味、うま味といった5つに分けられる。舌や上顎に「味蕾」という器官があり、そこで味を感じる。
 「味蕾の細胞を顕微鏡で見ると、その名の通り花のつぼみに似ています。そこでは美味しい、まずいを識別するだけでなく、人間が生きるために必要な物質を体内に取り込み、有害な物は入らないようにする自然の摂理も司っている。また、味覚は人間が生きていく上で絶対的に欠かせない“食べる”という行為と密接な関係を持っています。だから、味覚に狂いが生じると、偏食や食欲不振などに陥ってしまうのです」(前出・健康ライター)
 日本口腔・咽頭科学会の調べによれば、こうした味覚障害を訴える患者は、2000年代に入ってから90年代の約1.9倍に増えているという。

 東京都立多摩総合医療センターの耳鼻咽喉科担当医は、主因となる亜鉛不足について、こう話す。
 「亜鉛は味蕾の再生に必要な要素であって、他の栄養素と同じく食べ物の中から体が要求する分だけ腸で吸収する。バランスの取れた食生活さえしていれば、亜鉛不足は起こりませんが、特にアルコール好きの人は要注意です。酒を飲みすぎると体内がアルコールを分解しようとして、亜鉛を多量に消費するからです」
 これを防ぐには、酒量を減らすことはもちろんのこと、亜鉛を多く含む牡蠣などの魚介類、またはチーズなどの乳製品を多く摂りながら飲むことだ。

 また、実はこの亜鉛は、ストレスによっても血中濃度が低くなる。そのため、食生活の改善の他、仕事中の休憩の取り方や休日のすごし方を工夫し、リラックスすることを心掛ける必要もある。