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1月24日、米国のムニューシン財務長官が「米ドル安は米国にとって良いことだ」と発言し、為替市場に衝撃が走った。

95年1月にクリントン政権下で就任したルービン財務長官が「強いドルは国益にかなう」というマントラ(呪文)を唱えてドル安に歯止めをかけてから、歴代の財務長官は基本的に同様のスタンスをとってきた。

米国当局者のなかで、為替相場に関して公式に発言できるのは、大統領と財務長官だけとされている。その財務長官がドル安容認発言を行ったわけだ。したがって、米国がドル安を志向する通貨政策を打ち出したと受け取られても不思議ではない。

ムニューシン財務長官がドル安容認発言をしたのが、スイスのダボスで開催されている世界経済フォーラムの場だったというのも意味深だ。フォーラムは、グローバリゼーションの推進やその過程で生じる課題への対応が重要なテーマだ。ここへきてトランプ政権がとった保護主義的措置(ソーラーパネルや洗濯機への関税賦課)や通貨安戦略は、フォーラムの趣旨に真っ向から対立するものと言えよう。

米国の保護主義的措置も財務長官のドル安容認発言も、裏目に出るリスクを抱えている。高率関税や輸入制限などの保護主義が貿易相手国の報復措置を呼び、世界貿易を委縮させることを、我々は1930年代の大恐慌という苦い経験を通して知っている。

一方、ドル安政策は、米企業の対外競争力を高め、かつ貿易不均衡の是正を企図するものだ。しかし、これもまた諸刃の剣と言える。米国の貿易収支は赤字であり、その結果、経常収支も赤字である。そして、経常収支の赤字は外国からの資金流入によって必ずファイナンス(穴埋め)される。

米国は基軸通貨国であり、理論上、発展途上国のような通貨危機は発生しない。だからといって、経常収支のファイナンスがスムーズにいくとは限らない。米政府がドル安を志向するならば、それでも外国の資金が積極的に流入するためには、ドルの金利が十分に高い、あるいはドル建て資産が十分に割安である(値上がりが期待される)といった条件が満たされる必要がある。前者は、国債価格の下落が前提であり、また高金利は経済に大きな打撃を与えうるものだ。後者は、例えば米株の下落が前提ということになる。

外国の資金が米国に流入せずにドル安に歯止めがかからなければ、いずれかの段階でドル買い介入が実施されよう。外国の中央銀行が手に入れたドルは米国債への投資といった形で事後的には米国に流入することになる。ただ、その前に経済や金融市場が大いに混乱するであろうことは想像に難くない。

ところで、昨年末に税制改革が成立したことで、米国の財政赤字は拡大が予想されている。今年の国債純発行額は昨年から倍増するとの試算もあるようだ。そうしたなか、中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は巨額の国債保有残高を徐々に減らしている。中国が外貨準備による米国債投資を見直すとの報道もあった(後に中国当局はこれを否定したが)。

2月上旬には大型の米国債発行が予定されている。すでに発行残高の4割以上を保有する外国投資家(中央銀行を含む)がさらに米国債を買い増す保証はない。ドル安容認発言が米国債を管轄する財務省の長官から出た、というのは大いなる皮肉ではないか。

※25日、トランプ大統領は米メディアに対して、ムニューシン財務長官のドル安容認発言は文脈から外れて解釈されたと指摘したうえで、「最終的に私は強いドルを望んでいる」と語った。果たして、米政府の真意はどこにあるのか、市場はそれを探っていくことになりそうだ。

○執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。