上阪 徹『社長の「まわり」の仕事術』(インプレス)

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カルビーの「フルグラ」が売れている。当初30億円程度だったフルグラの売上高は、この5年で300億円規模に成長。成長のきっかけは松本晃会長の「むちゃぶり」だ。しかしマーケティング担当の藤原かおりさんは、松本会長の指示でもすべてには応えず、忘れたフリをしたこともあったという。なぜなのか――。

■カルビー松本会長の「まわり」で働く

経営トップになる人は、ひと握り。多くは、エネルギッシュに動く経営トップに日々、振り回され、ビジョンを実現していこうと奮闘している人たちなのではないか。もしかすると、ビジネス書の読者は、そういう人にこそ、学ぶべきではないか。

そんな思いから上梓した拙著『社長の「まわり」の仕事術』(インプレス刊)。カルビー・松本晃氏、DeNA・南場智子氏、ストライプインターナショナル・石川康晴氏、隈研吾建築都市設計事務所・隈研吾氏、中川政七商店・中川政七氏、サニーサイドアップ・次原悦子氏の6人の経営トップのまわりで仕事をしている、13人にロングインタビューさせてもらった。

職種も、注目事業や海外事業の責任者、会長室、広報、CSR、社長、デザイナー、IT担当執行役員、社長室副室長、創業メンバーなどさまざま。かつてなかったコンセプトの本、まさに知りたかった仕事術だ、などと話題にしていただいているが、今回は13人のインタビューの中から、カルビーでフルグラ事業を率いる藤原かおりさんのケースをご紹介しておきたい。

■「フルグラ」は300億円規模の事業に

カルビーは業績が絶好調だ。2013年3月期の売上高1794億円は、2017年3月期には2524億円に。5年で実に1.5倍。会社としての利益率も、1%台だったものが、わずか5年ほどで10倍以上になっている。

背景にあるのは、会社の変革。それを先導したのが、2009年に会長兼CEOになった松本晃氏だ。古い伝統的な体質を持っていたカルビーを「儲かる会社」へと大きく変えていった。

そして取り組んだのが、スナック菓子に次ぐ、新しい事業の柱づくり。その筆頭格ともいえるのが、「フルグラ」ことフルーツグラノーラ。1991年に発売、2000年代の10年間、売上高は30億円程度で推移していたが、それが今や約300億円と10倍もの規模になっている。

このフルグラの急成長を、松本氏のもとで2012年からマーケティング担当として担ったのが、藤原かおりさんだ。2014年には部長に就任。2017年には本部となったフルグラ事業を、執行役員フルグラ事業本部本部長として率いることに。トントン拍子で頭角を現して出世していったのだ。

■松本社長のむちゃぶりとは……

しかし、藤原さんは入社当初からスムーズなキャリアを歩んでいたわけではまったくなかった。1997年に大学を卒業後、旭硝子、外資系広告会社、外資系飲料メーカーを経て、2011年にカルビーに入社。新たに参入した栄養調整食品のブランドマネジャーになった。採用プロセスでは会っていなかった松本氏の最初の印象は、まさに強烈だった。

「担当するブランドの状況を報告しないといけないんですが、会うたび、毎回言われていたのが、『いつ、やめるの? そのブランド』でしたので(笑)」

事業は結局、1年でクローズ。松本氏の印象は、恐ろしい、しかなかったとか。ところが上司の推薦で、フルグラの担当に抜擢される。このとき、松本氏が行ったのが、とんでもない取り組みだった。フルグラのチームを開発からマーケティングまで、全員入れ替えてしまったのだ。考え方が変わらないとビジネスは大きくならない、と。

「驚きました。引き継ぎも何もないに等しいですから、これまた恐ろしくて」

マーケティングのメンバーは、藤原さんと同僚女性が1人。そして松本氏から飛んできたのは、とんでもない数字だった。

「取りあえず100億円、と。それで“フルグラ100プロジェクト”が立ち上がるんです」

30億円を、いきなり3倍にしないといけなくなってしまった。

■“お金は使わずに知恵を使え”

プロジェクトの中心は、月1回の松本氏との会議。ここで藤原さんは、いろいろな示唆と指示をもらう。

「アメリカのシリアル市場は1.2兆円。でも、日本は250億円だった。50倍の開きがあるわけです。こんなものは、納豆かシリアルしかない、と」

この開きは絶対に縮まるはず、という大きな仮説のもと、そのために何ができるのか、が求められた。藤原さんがまず見抜いたのは、配荷率の低さだった。

「データを見ると、そもそもフルグラを置いている店が少なかったんです。ああ、これは普通の食品のレベルまで配荷を上げれば、100億円まではいくかな、と思いました」

そのためにも必要だったのが、社員の啓蒙だった。社外の啓蒙の前に、社内の啓蒙を思い立ったのだ。まずは、社内でおいしさを認識してもらった。

「100億円にしろ、とは言われましたけど、そのために特別に資金をいただけるわけではなく。“お金は使わずに知恵を使え”というのが、前提でした」

広告代理店にお願いして、PRのキャンペーンを行うこともノー。自分の頭で考えるしかない中で、浮かんだのが、ムーブメントを作っていくことだった。ヒントは、松本氏の語った一言だった。

「フルグラをシリアルと呼ばないで、と言ったんですね。これはまったく違ったブームになる。おいしいというイメージが薄い、アメリカのシリアルと一緒にしてくれるな、と」 

そして2013年、藤原さんが掲げたのが、「朝食革命」という言葉だった。これが女性の社会進出など時代の変化と相まって、消費者に強く響く言葉になっていく。松本氏の指示で商標登録を取った。

■1提案に書類は1枚

お金を使わず、どうやって認知を広げていくか。ホテルの朝食ビュッフェでのサンプリング、記者会見に松本氏を担ぎ出す、などさまざまに動いた。そして伸びが始まった頃、藤原さんが動こうと考え始めたのが、設備投資。欠品しないためには、工場を作ってもらわないといけないからだ。

「売り上げ目標から逆算すると、1年半前には投資をしないと、ということがわかるわけです」

悠長に承認を待っている時間はなかった。そこで、松本氏に直接、意思決定してもらった。判断を仰ぐとき、注意していたことがある。見てもらう書類を極力、シンプルなものにすることだ。

「1案件、1枚が基本。言われていたのは、タイトルを見ればなんの話かわかる。最初の3行を読めば、何が言いたいのかがわかる。もう少し細かく知りたいと思ったらその下を見ればわかる。そのくらいのものが一番いいね、と」

グラフは、興味がありそうなときにつけた。資料は、松本氏好みの仕様にしておいた。

「お金の数字が好きなんです。認知率とか、ブランドイメージとか、そういう数字にはこだわりはない。でも、市場規模とか、どこどこの売上がいくらとか、そういうことにはアンテナが立つ」

■全部は聞かない。やりたいことは粘る

2014年、フルグラに携わって3年目に部長に。売上は134億円になっていたが、目標は500億円になっていた。

「その頃から、ちょっと藤原さん、と呼ばれることが多くなりました。何か思いついたとき、これをやったらいいんじゃないか、と直接、指示が次々に来るようになりました」

ただ、全部を聞いていたら、振り回されてしまう。

「実際には、全部やってほしいと本当は思っていると思うんですね」

ただ、すぐには動けないときも多い。メモしてリスト化しているものの、忘れたふりをすることもある。日々、いろんなことを思いつき、伝えたくなるのがトップ。すべてには応えられないからだ。

「だから、優先順位の高いもの以外でも、同じことを3回言われたら、“これは本気だ”と思ってやるものとかもあります(笑)」

できない、は言わない。びっくりするようなときは、理由を聞き出す。そうすれば、何か突破口のヒントがもらえたりするからだ。

■松本会長の口癖“THINK BIG”

2016年から始まったテレビCMは、どうしてもやりたい、と自分で粘った。だが、簡単にはOKはもらえなかった。

「2カ月くらい、しつこくお願いしました。(社長は)根負けだと思います(笑)」

2017年4月、急成長したフルグラは本部になり、その本部長に就任。執行役員になり、組織上もダイレクトになったので、これまで以上に松本氏に相談しやすくなった。だが、目標はさらに上がった。国内500億円。海外1000億円。ほんのちょっと前まで、30億円のブランドだったのだ。だが、目算はあるという。

「よく言われた言葉に“THINK BIG”があります。そんな小さな話をしてるんじゃない。もっと大きな話をしないといけない。でも、実行するときには、慎重に緻密に情報を集め、準備して打って出る。バクチ的なことはしない。それは身に染みて学びました」

おそらく一生で一度きりの学びをこの数年間で得られたと藤原さん。

「ただ、どこで呼び出しが来るかわかりませんので、予定の調整には苦労します(笑)」

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上阪徹(うえさか・とおる)
ブックライター。1966年兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに雑誌や書籍、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人超。著書に『書いて生きていく プロ文章論』(ミシマ社)、『JALの心づかい』(河出書房新社)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)他多数。

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(ブックライター 上阪 徹 写真=iStock.com)