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市場拡大が続く回転ずし業界。各社は「ラーメン」や「糖質オフ商品」など、すし以外のサイドメニューを増やしてきた。だがここにきて、業界首位のスシローが“変わり種競争”から距離を取り、海産物をつかったすしの強化に乗り出している。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏は「かっぱ寿司と同じ失敗を繰り返さないため “本筋”に回帰してきた」と読み解く――。

■激化する回転寿司チェーン競争

2017年は回転ずし業界の話題が目立った1年だった。

昨年9月、業界首位のスシローグローバルホールディングスと5位の元気寿司が経営統合を前提に資本提携し、世間を驚かせた。スシローの2016年度の売上高は1477億円。元気寿司の349億円と合わせると1826億円になり、「くら寿司」を展開する2位のくらコーポレーション(1136億円)を大きく引き離す。3位のはま寿司(1090億円)と「かっぱ寿司」を展開する4位のカッパ・クリエイト(794億円)も交えて、大手回転ずしチェーンの競争は激化している。

回転ずしは市場規模が拡大しており、外食産業の中でも将来性がある市場といえる。市場調査会社の富士経済によると、2016年の市場規模は6055億円で、前年比で4.8%増加した。また、総務省の家計調査によれば、2016年のすし(外食)に対する1世帯あたりの支出額は1万3033円で、前年比で6.4%も増加している。

■上位各社が「変わりメニュー」投入

大手各社は広がるパイを少しでも多く獲得するために、さまざまな施策を講じてきた。業界2位のくら寿司は昨年8月、シャリを酢漬けのダイコンに入れ替えた「シャリ野菜」シリーズや「7種の魚介らーめん 麺抜き」など、糖質オフを売りにした独自のメニューを発表した。さらに11月には、「インスタ映え」を打ち出した商品シリーズ「竹姫寿司」の販売を開始。竹をモチーフにした器にネタとシャリを入れたもので、「いくら」や「ねぎまぐろ」など5種類を取りそろえている。

業界3位のはま寿司は、昨年12月、満を持して「北海道濃厚味噌ラーメン」の販売を開始した。これは16年に約2カ月で100万食以上を売り上げた「北海道白味噌ラーメン」を進化させたものだ。昨年10月には、同じく16年に100万食以上を売り上げた「荒節醤油ラーメン 〜黒〜」がメニューに復活した。はま寿司はラーメンに強みがあり、このほかにも複数の商品をヒットさせている。

業界4位のかっぱ寿司は、好調な市場のなかで「ひとり負け」に陥っている。11年度以降、売上高は右肩下がりだ。悪化したイメージを払拭すべく、昨年はブランドのロゴを変更。長年おなじみだった「かっぱ」のキャラクターから、赤と金の皿を複数重ねた図柄へと切り替え、リブランディングを図っている。また、期間限定での「食べ放題」の実施や、1皿一貫を税別50円とする実験を行うなど、来店動機を上げる販促を行った。

スシローとの提携を発表した業界5位の元気寿司は、「回転しないすし」の導入を進めている。タッチパネルで注文を受け、高速レーンですしを客に届ける仕組みで、握りたてを提供する。回転レーンにすしを流さないことで、廃棄ロスを減らし、売上原価率を向上させられる。この結果、ほかの大手回転ずしチェーンの売上原価率が45〜50%程度なのに対し、元気寿司は40%強程度に抑えられている。姉妹ブランド「魚べい」などを含め、国内店舗の約6割で導入済みで、今後さらに増やしていく方針だ。

ここまで記してきた通り、業界2位から5位の施策は、どちらかというとサイドメニューや販促の仕掛けであることが多い。そうしたなか、業界首位のスシローは、すし屋の本筋である「ネタ」で勝負することを宣言し、話題を集めている。

スシローが注力する「高付加価値」のすし

スシローは昨年11月、CSN地方創生ネットワークが運営する飲食店向けオンラインマーケット「羽田市場」を活用し、日本各地の海でとれる旬の天然ものを提供するプロジェクトを開始した。CSNは、羽田空港内で仕分けや加工を行うセンターを自社で運営し、そこを通じて産地から店舗へ一気に魚介類を配送している。市場などの中間業者を介さないため、原則、とれたその日のうちに店に届くという。スシローはこの仕組みを活用して、鮮度の高いネタを提供できるようになった。天然もののため、数量は限られ単価は高くなるが、「いいものを食べたい」と思う客を満足させることができ、新たな顧客の獲得が期待できる。

スシローはこのほかにも、単価が高い高付加価値のすしの販売に力を入れている。たとえば、世界中からよりすぐりのネタを集めて1皿税別100円で提供するプロジェクトもそのひとつだ。16年11月にはチリ産のウニを使った「濃厚うに包み」(一貫100円)を販売。その後もネタを変えながら断続的に高付加価値のすしを販売している。

スシローが高付加価値のすしの販売に力を入れている背景には、「本筋のすし自体を強化しなければ、持続的な成長は見込めない」という判断があると筆者は考えている。かつて業界首位だったかっぱ寿司が、いま業績悪化で苦しんでいる最大の理由は、“変わり種”に頼ることで、「安かろう悪かろう」とイメージをもたれてしまったからだ。スシローは「同じ轍を踏んではならない」と考えているのではないだろうか。

大手回転ずしチェーンは、これまで低価格を武器に成長してきた。それは「安くてうまい」という顧客の満足度に支えられたものだろう。しかし、同じレベルを保つだけでは、顧客から飽きられてしまう。実はスシローなど大手の既存店(開店から一定期間が経過した店舗)の年売上高は前年割れを起こしはじめている。

■既存店売上高は各社マイナス

大手5社のうち元気寿司は辛うじて17年3月期が前年比1.8%増と増収になったものの、スシローは17年9月期が1.3%減、くら寿司は17年10月期が1.4%減、かっぱ寿司は17年3月期が4.2%減と、3社が減収になっている(はま寿司は非公表のため不明)。新規出店による増収効果が含まれない既存店売上高がマイナスになっているということは、1店1店の稼ぐ力が弱まっていることを意味しているのだ。

業界首位のスシローといえども安穏としてはいられない。それゆえに、本筋のすしネタで勝負する必要があると判断したのではないだろうか。また、近年は1皿数百円という高級路線の回転ずし店も勢いを得ているため、そういった勢力に対抗するためにも、「安かろう悪かろうではダメだ」という危機感があるはずだ。経営統合を前提に元気寿司と提携したのも、将来的には統合による規模拡大に力を借りて、いいネタを安く仕入れたいという狙いがあるのだろう。

消費者の要求は年々高まり、回転ずし業界の競争は激化している。今後はスシロー以外の各社も、すしネタをより一層充実する方向に動くことが予想できる。しばらく盛り上がっていたサイドメニューの充実競争のように、すしネタの充実競争が起きることは、消費者としては望むところだろう。

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佐藤昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。

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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司 写真=iStock.com)