"燗上がり"でおいしい日本酒と温度を探す

写真拡大

鍋料理など、温かいものがおいしい季節。料理に合わせやすい燗酒を相棒に、寒い季節を楽しく乗り切りたい。ところで、燗酒と一言に言っても、温度に対してデリケートな日本酒は、5℃違うだけで味わいがガラリと変わる。なぜ温度が変わると味が変わるのか、そして燗酒にしておいしい日本酒の探し方を紹介する。

■温度変化で知る日本酒の奥深さ

吟醸酒の浸透や、自宅の冷蔵庫で保管すればよいという扱いやすさなどもあり、「日本酒を飲むなら、もっぱら冷酒」というお酒好きが私の周りには多い。ただ、今、若い世代を中心として「温めて飲む酒」の魅力に開眼する人が増えているという。それに呼応するように、燗酒イベントや、燗にこだわって日本酒を出す店が増えているのだ。酒を温めることで旨味が増し、よりまろやかでおいしく感じられる、いわゆる「燗上がり」を体験すると、燗酒にハマる人も少なくない。

燗は、日向燗(約30℃)、人肌燗(約35℃)、ぬる燗(約40℃)、上燗(約45℃)、熱燗(約50℃)、飛び切り燗(約55℃)と、飲む温度によって細やかに名前が変化する。味わいもまたしかり。同じ日本酒でも、温度によって立ち上がってくる味わいはそれぞれ絶妙に異なる。(図表1)

■「燗上がり」の鍵は、有機酸とアミノ酸

「燗上がり」の鍵の一つとなるのは、酸味だ。酸味の正体は、主に乳酸、コハク酸、リンゴ酸といった有機酸。これは、飲む温度の違いで酸味の強さや味わいが変わることが研究で明らかになっている。

具体的には、酸味の強さと味わいについて20℃(室温)を基準とした場合、10℃(花冷え)では「すっきりとした酸味」が、37℃、43℃(人肌燗〜上燗)では「柔らかくきれいな酸味が感じられた」という官能評価が示された。一方で、50℃(熱燗)では、「最も酸味が強まるが、味のバランスが悪くなる」という結果となった。つまり、酸度の高い(有機酸の多い)酒は、特に人肌燗〜上燗でおいしさが高まると言える。(図表2)

また、「燗上がり」のもう一つの鍵は、旨味やコクだ。これには主にアラニン、グリシン、アルギニンといったアミノ酸が関与している。こちらも有機酸と同じく温度変化によって味わいが変化することが官能評価で明らかになっている。

20℃と43℃の2点で官能評価をした結果、常温下では甘味、旨味、収れん味※、苦味が若干感知された。一方、43℃(ぬる燗〜上燗)では甘味や旨味の強さは変わらないものの、収れん味や苦味が軽減され、温和でソフトな口当たりに感じられた。つまり、アミノ酸を多く含む旨味やコクが強い「どっしりとした」酒も、燗にすることで飲みやすくなると言える。(図表3)

※収れん味は、赤ワインで言うところのタンニンの渋味と似た感覚と言われる。なお、渋味は、苦味と収れん味が複合した感覚であるとも考えられている。

そもそも味覚は、舌にある「味細胞」が水に溶けた化学物質に反応することで生じる。そして味覚には「酸味」「甘味」「苦味」「塩味」などがあり、各種の味わいに対する感受性は舌の部位によって異なる、というのが一昔前までの通説だった。例えば、酸味は舌の側面で、甘みは舌の前面で最も敏感に感じられる……といった具合だ。しかし最近の研究では、むしろ舌全体の味細胞で各種の味わいを直接感受していることが分かっている。

■自分好みの「燗上がり」を見つける

これまで見てきたように、燗酒には「有機酸とアミノ酸を多く含むどっしりとした酒」が向くことが分かった。とはいえ、居酒屋や酒販店で酒を選ぶ際には、好みの1杯に出合うための何か具体的な手がかりが欲しい。日本酒に詳しい店のスタッフに毎回あれこれ相談できるなら最高だが、そういうわけにもいかない場合には、「造り」が一つの参考になる。

例えば、自然発生する乳酸菌で造る昔ながらの「生(き)もと」や、生もとの製造工程から「山おろしもと造り」と呼ばれる工程を省いた「山廃(やまはい)もと」で造った本醸造酒や純米酒は、一般的に有機酸やアミノ酸を豊富に含む。そのため、このタイプのお酒は「燗上がり」することが多いと言える。

また、日本酒のラベルに記載されている酸度やアミノ酸度、蔵元が推奨する飲み方も、味のヒントになる。例えば、ラベルに記載された情報のうち、以下のようなポイントを目安にしてみよう。

----------

【酸度】日本酒に含まれる酸の総量を示す指標。乳酸、コハク酸、リンゴ酸など約30種類も存在し、味わいに影響を与える。酸度が高いほど濃厚で辛く感じ、低いとさらりとした淡麗で甘く感じる傾向がある。1.5以上が濃醇(のうじゅん)、それ以下が淡麗の目安。
【アミノ酸度】米のたんぱく質が分解されることによって生じるアミノ酸の総量を示す指標。アラニン、グリシン、アルギニンなど約20種類のアミノ酸が含まれている。味わいの濃淡を判断する基準となり、アミノ酸度が高いほどコクと旨味のある味わい、低いとすっきりとした淡麗の味わいになると考えられる。1.5以上が濃醇、それ以下が淡麗の目安。

----------

ただし、これはあくまで目安だ。吟醸系はよくお燗に向かないと言われるが、吟醸香が控えめですっきり飲めるものは、燗にすると透明感や上品さにつながるものもある。感じ方は人によってさまざまなので、タイプの異なる燗酒を飲み比べながら回を重ね、自分好みの1杯を言語化してプロに伝えられるようになると、より好みの酒と出会う精度は上がる。

参考文献
・『清酒に含まれる有機酸の酸味と飲用温度の関係』(2011 日本醸造協会誌 第106巻 第11号)
・『日本酒の教科書』(2010 新星出版社)
・『&SAKE 二十歳からの日本酒BOOK』(2015 日本酒造組合中央会)

----------

黒川なお(くろかわ・なお)
編集・ライター。1983年生まれ。横浜国立大学大学院 (技術経営)修了。CSRレポート、エリアガイド等の編集を経て、ECサイトにてライターとバイヤーを兼務。地方の生産者を取材し、逸品を紹介する記事執筆に従事。2017年に独立後、主にマネジメント、マーケティング、サイエンス(生物学)の分野で執筆。

----------

(編集・ライター 黒川 なお)