フィギュアスケートのグランプリシリーズ(GP)初戦ロシア大会、2017年10月の羽生結弦選手。(写真:SPUTNIK/amanaimages)

10月に本格開幕した平昌五輪シーズンも気がつけば、五輪本番まで残りわずか。五輪代表に選ばれた羽生結弦選手は昨年11月のケガからの復活が注目されています。
激動の五輪シーズンを戦う選手たちの舞台裏なども明かした『トップスケーターのすごさがわかるフィギュアスケート』の著者であり、NHK杯やGPファイナル出場の経験もある中野友加里氏が一足早く、平昌五輪におけるフィギュアスケートのポイントを解説します。

羽生選手に期待がかかる、66年ぶりの快挙とは

日本では老若男女を問わず、フィギュアスケート人気がかつてない高まりを見せています。そして、2018年2月にはフィギュアスケートにとって4年に1度の大舞台を迎えます。韓国・平昌(ピョンチャン)で開催されるオリンピックです。2017年秋から2018年3月までが、いわゆる「平昌五輪シーズン」です。

平昌五輪では、実に66年ぶりとなる快挙に注目が集まる日本人スケーターがいます。男子シングルの羽生結弦選手(ANA所属)です。前回の2014年ソチ五輪(ロシア)で史上2番目の若さで金メダルを獲得。平昌五輪で2大会連続優勝をすれば、フィギュア男子選手としては、1948年と1952年の五輪で金メダルを獲得したディック・バトン氏(米国)以来の連覇となるのです。

2017年3〜4月にフィンランドのヘルシンキで行われた、五輪プレシーズンの世界選手権で3大会ぶり2度目の優勝を果たし、「世界王者」として五輪シーズンを迎えます。実はこの優勝は、羽生選手にはとても縁起がいい結果だったのです。

というのも、バトン氏も五輪前年の世界選手権を制し、世界王者として五輪で連覇を果たしました。さらに、羽生選手は2016/2017年シーズンで、史上初めて4回転ループという大技のジャンプを成功させましたが、かつて3回転ループを初めて跳んだ選手がバトン氏なのです。

その昔、2回転ループを初めて成功させた選手も五輪で金メダルに輝いています。つまり、ループの初めての種類を成功させた選手が五輪金メダルを獲得しているのです。羽生選手本人も、縁起がいい2つの事柄を知っているようです。

現在の男子フィギュア界は空前の「高得点時代」に突入しています。その立役者がほかでもない羽生選手です。

フィギュアスケートは、ショートプログラム(SP)とフリースケーティング(フリー)の2つの演技の合計得点で争う競技です。

このSPとフリー、さらに合計得点のすべての世界歴代最高得点を羽生選手が持っています。羽生選手が史上初めてSPで100点を超えたのが、2014年ソチ五輪の舞台でした。

そして、2015年のNHK杯で、フリーが初めて200点を超え、さらにSPとの合計得点でも史上初の300点超えをたたき出しました。

このときはSPでも世界歴代最高得点を更新。約2週間後にスペイン・バルセロナで開催されたグランプリ(GP)ファイナルで、自身が持つSPとフリー、合計得点のすべての世界歴代最高を塗り替えました。そして、2017年4月の世界選手権のフリーで自らが持つフリーの記録をさらに更新。SPで5位と出遅れたところから逆転優勝へとつなげたのです。

その世界選手権では、SPで3人が100点を超え、フリーでも3人が200点を超えました。結果、2位に躍進した宇野昌磨選手(トヨタ自動車所属、中京大学)を含め、300点の大台を4人が突破したのです。

平昌五輪のキーワードは「4回転ジャンプ」

高得点時代の原動力は、トップ選手が次々に跳ぶようになった4回転ジャンプにあります。

4回転時代の本格的な到来は2010年バンクーバー五輪後からでした。バンクーバー五輪では、4回転に挑んだエフゲニー・プルシェンコ氏(ロシア)が銀メダルとなり、4回転を回避して演技をミスなく終えたエヴァン・ライサチェク氏(米国)が金メダルを獲得しました。

これに、プルシェンコ氏が「時代に逆行している」などとかみつきました。4回転ジャンプを跳ぶか否かは、五輪期間中の論争にもなりました。

そこで、国際スケート連盟(ISU)は4回転ジャンプに挑戦しやすい状況を作るため、これまで少しでも回転不足になるとダウングレード判定(4回転に挑んだ場合、3回転判定)になっていた規定について、4分の1以上2分の1未満の回転不足(つまり50〜75%くらい回って着氷した場合)は跳んだジャンプの基礎点の7割を得点(アンダーローテーション判定といいます)として与えるというルール変更を行ったのです。

基礎点とはざっくりいうと、ジャンプなどに与えられるベースとなる得点です。3回転ジャンプと4回転ジャンプでは基礎点には大きな差があり、4回転で回転不足になっても7割もらえるのであれば、チャレンジするメリットがあるという流れにしたのが変更点の特徴です。

そこで、選手たちはバンクーバー五輪後の4年をかけ、ソチ五輪へ向けて演技の中に4回転ジャンプを組み込んでいったのです。それでも、ソチ五輪では、金メダルを獲得した羽生選手らトップスケーターもSPで1本、フリーで2本を入れる構成だったのです。しかも、4回転の中でも比較的跳びやすいといわれるトウループ、サルコウという種類でした。

4回転のレベルが一気にアップ

しかし、平昌五輪へ向けては、4回転の本数も種類も増えて一気にレベルアップしました。羽生選手は世界選手権ではSPで2本、フリーで4本の4回転を入れて、さらにその後のシーズン最終戦となった世界国別対抗戦のフリーでは5本の4回転を組み込んできました。種類もソチ五輪までのトウループ、サルコウに加え、ループを習得し、4回転の中ではアクセルを除くジャンプでは最も難しいとされる4回転ルッツも今季、GPシリーズ初戦のロシア大会で見事成功しています。


宇野選手も史上初めて成功させたフリップ、そしてトウループ、ループの3種類を跳び、さらに若いネイサン・チェン選手(米国)や金博洋選手(中国)は4回転ルッツをすでに試合で決めています。

実は、ジャンプは演技の後半に跳ぶと基礎点が1.1倍になります。こうしたルールを駆使して「そろばん」を弾き、あの手この手で得点を積み上げているのです。

かつてのフィギュアスケートは、ジャッジがそれぞれ6点満点から減点方式で採点していた時代がありましたが、現在はまさに得点が「青天井」のように伸びていくといっても過言ではありません。

そして、五輪の舞台というのは会場の盛り上がりにより、得点もやや高めに出る傾向にあります。

4年に1度の大舞台ですばらしい演技をする選手がいれば、ジャッジは、通常の国際大会よりも高い評価を与えたいという心情が働くのも当然でしょう。平昌五輪ではかつてない高得点を選手たちが連発することは想像に難くありません。