女同士の闘いなんて、くだらない?

美貌・財力・センスのすべてを手に入れた女たちが繰り広げる、ヒエラルキー争い。

男からは求められ、女からは妬まれ、そして羨望の的となるカリスマ読者モデルの世界。

己の自己顕示欲を隠すことなく曝け出す彼女たちは、時に結託し、時に競い合う。

くだらない、と思うならどうか覗かないで欲しい。

優雅で美しくも、水面下で死にもの狂いで闘う、女たちの醜い生き様をー。

宮崎県出身のあおいは、大手監査法人で順風満帆な社会人生活をスタートさせるが、「よく見たら可愛いよね」とおだてられ、人気雑誌の読者モデルに応募する。




素朴女に突如芽生えた、優越感


監査調書の作成に追われていたあおいのスマホに、見慣れない固定電話から着信があった。

警戒心を感じつつ応答すると、ひどくハスキーな女の声が響く。

「私、明文社 GLORY編集部の高田と申します。」

一瞬頭が混乱したが、すぐに記憶を手繰り寄せた。一週間前にファッション誌の「読者モデル」に応募していたことを思い出す。

急いで席を立ち、目立たないよう廊下に出た。電話がきたということは、読者モデルに「合格」したということだろうか。

「選考の結果、木下さんに撮影にいらしていただきたく連絡を差し上げました。日程は少し急で4日後なんですが、弊社のスタジオで…」

編集部の高田と名乗る女性は、戸惑うあおいなどお構いなしに一方的に撮影の概要を告げた。急いで自席に戻り、メモを取る。

「あおいさんどうしたんですか、ボーッとして。」

どうやら相当驚いた顔をしていたらしい。

自分でも信じられないのだけど、と、昼休みにいつものランチメンバーに『GROLY』の撮影に呼ばれたことを打ち明けた。読者モデルというものに選ばれたことが、単純に嬉しかった。

他のメンバーにはまだ連絡が来ていないらしい。そのうちの1人は明らさまにに驚愕した様子で、「どうしてこの人が」と顔に書いてあるようだ。

その表情を見て、あおいは自分のシンプルな高揚感の中に、ほんの少しの優越感が混じっていることに気づき、思わず戸惑う。

ー私だけが、選ばれたんだ...。

しかしそんな優越感は、「撮影に来ていく服がない」という悩みですぐに掻き消された。


初めての雑誌の撮影で戸惑うあおいがとった行動とは?


実在するミス・パーフェクト、景子


「お気に入りのコーディネートでいらしてください」という高田の指示を受けて、あおいは混乱していた。

撮影に呼ばれなかった会社のメンバーには聞きづらく、藁をもすがる思いで優に連絡をする。読者モデルの話をしたらバカにされるかもしれない、と思ったが意外にも優は好意的に受け止めてくれた。

「まずは、『GLORY』を買うことなんじゃない?」

もっともすぎるアドバイスを受けて、休日に2人でGLORYを買いにゆく。税込720円。1ヶ月のファッション情報として、高いのか安いのか、あおいには分からない。

今までは本屋でチラリと視界に入るだけだったその雑誌を開いてみて、まずはその情報量に驚いた。

控えめに見ても、1ページの文字量は数百字。広告を除いても、数百ページに渡りファッション・美容・最新グルメなどの情報がこれでもかと詰まっている。

2人で試験のヤマをかけるように「重要だ」と思われる箇所にふせんを貼った。

雑誌を読み込み、登場頻度の高いブランド、専属モデル・読者モデルの人数と傾向、1ヶ月コーディネートページに掲載されている服を全て購入した時の、月の服飾費の予算を算出する。

計算は得意だ。数値化すると心が妙に落ち着く。

「この、よく出てくる高田景子っていう読者モデルが、この雑誌で重要な役割を持ってるみたいね。」

「どれどれ」

「ほら、この人よ。今月号だけで、登場回数は5ページに渡り7回。ダントツ1位。」




優が指差したのは、専属モデルと遜色のないスタイルでスナップ写真に収まる、高田景子(25歳)だ。職業は、会社経営と記載されている。

それほど派手な顔だちではないのに、あおいはなぜかその美貌から目が離せなくなった。

少しばかりきつめの目だが、スッと通った鼻筋と可愛らしい口元で不思議とバランスが保たれており、いつまでも眺めていられる。背中まであるロングヘアは紙面越しでも輝くツヤを放っていた。

こんなに美しく若い女が、一体どんな会社を経営しているのだろうか。そして、どうやってこんな美貌を保っているのだろうか。

「ちょっと、いつまで凝視してるの。コーディネートを考えるんでしょう。」

優に急かされたあおいは、とりあえず紙面登場数が一番多いブランドのショップで勧められるがまま全身の服を買い、撮影に参加した。

もしかして景子に会えるかもしれないと期待していたが、結局その場に彼女はおらず、同じような新人読者モデルだけの撮影に少しばかり落胆する。

しかし、翌月に小さく自分の姿が掲載されたGLORYを見つけたあおいは、恥ずかしくも嬉しいような、むず痒くも心地良いような満足感が沸々と胸に湧き上がるのを感じた。

それは、真面目一本だったこれまでの人生では感じたことのない、不思議な感覚だった。

そうして少しずつ、だが確実にこの「読者モデル」という特殊な世界にハマっていくことになる。


少しずつ自意識とセンスを得たあおいが、25歳になって…?


目につき始める、親友のアラ


ー3年後ー

実務経験を経て、無事に公認会計士としての登録を済ませたあおいはもうすぐ25歳になる。

今日は、あおいの誕生日のお祝いも兼ねて優と『東京マリオットホテル』の「ストロベリーショコラ アフタヌーンティー」に来ていた。




「あおい、お誕生日おめでとう!」

父親の税理士事務所で働く優とは、今でも大の親友だ。どんなに忙しくても、月に1度はこうして会っている。

「まずは、あまおうのシュークリームかな。」

すかさずシュークリームに手を伸ばす優を制し、あおいはInstagram用に何枚か写真を撮った。編集部の指示で、読者モデルはみなInstagramのアカウントを持っている。

あおいも最近やっとフォロワーが1000人を超え、アカウント運用のコツも分かってきた。何事も数字で結果が出ると、俄然やる気になる。

22歳で初めて撮影に参加して以来、あおいは月に1〜2度のペースで雑誌『GLORY』の撮影に呼ばれるようになっていた。

ほんの数センチ程度の扱いだが、呼ばれるたびに洋服を一式購入し、編集部に写メを送り撮影に出向いて、それが掲載される。もちろんその程度では、景子をはじめとするカリスマ読者モデルとは程遠い。

しかし、その程度だからこそ「読者モデル活動」が仕事の邪魔になることなく、本業のキャリアも順調なのだ。

それに、昔は最新の洋服やブランド物のバッグを買うことはムダだと思っていたが、そんな考えも間違いだと気づいた。

上質な洋服を着ていれば、背筋もしゃんとする。外見の美しさが全てではないが、自信を持って仕事をこなす上でも重要だ思えるようになったのだ。

それに、あおいは少しずつでも自分の外見が洗練されてゆくのが誇らしかった。

しかしー。

目の前に座る優は、学生時代と全く変わっていない。いや、ほんの少しだけ太ったようにも見える。

高カロリーのスイーツをニコニコと美味しそうに平らげていく優は、仕事でのストレスが溜まりに溜まっていると言う。実の父親が上司というのも、意外と気を使うのだろう。

あおいはそんな姿を可愛らしいと眺める一方で、外見を一切気にしない彼女に「ちょっと勿体ない...」と思うこともあった。

その時だ。

「あら?もしかして、GLORYで読者モデルをしてる方じゃないですか?」

隣の席に案内された女性から、不意に声をかけられる。

よく見ると、そこにはあおいが憧れてやまない女性がいた。高田景子だ。

撮影で何度か見かけたことはあったが、初めて間近に景子を見て、そのあまりの美しさに圧倒されてしまう。

-でも、どうして私のことを知ってるの?!

憧れの女性が目の前にいる。しかも、彼女はなぜだか自分を認識している。あおいは興奮と喜びが一気に高まるが、それと同時に、反射的に自分の中に芽生えた感情に愕然とした。

-一緒にいるのが、せめて会社のオシャレな女の子たちだったら...!

あおいは、イマイチ垢抜けない友人と一緒にいるのをカリスマ読者モデルに見られたことに、酷い焦りを感じたのだ。

ー私は何を考えてるの?!優は親友なのに...!

たった今の意地悪な思いを打ち消すように、あおいは一気に目の前のコーヒーを飲み干した。

▶NEXT:1月28日 日曜更新予定
急にあおいに話しかける、景子の企みとは?