はたして共謀はあったのか(写真:ロイター/アフロ)

トランプ大統領が1月24日夕(日本時間25日朝)、ロシア疑惑にからんで、自身への聴取を「楽しみにしている」と語った。トランプ大統領への聴取が実際にどう実現するのかはまだ見通せない部分も多いが、2016年の大統領選でトランプ氏がロシアと共謀したのかどうかなどが焦点になっているロシア疑惑が「米国大統領の聴取」という山場にさしかかっていることは間違いない。ロシア疑惑の捜査はどこまで進んでいるのか、そして「大統領聴取」が何を意味するのか。

ホワイトハウス詰めの米主要メディア記者によると、トランプ大統領は24日、記者たちの前に突然姿を現した。

ホワイトハウスの西執務棟(ウェストウィング)にある、ケリー首席補佐官の部屋に、20人ほどの米主要メディアの記者たちが集まっていた。移民制度改革についてのホワイトハウス高官によるバックグラウンドブリーフィングを聞くためだった。

予想しない出来事に現場は騒然

ブリーフィングがはじまったばかりのタイミングで部屋のドアが急に開き、顔を出したのは、トランプ大統領本人だった。予期しない出来事で、現場の記者たちばかりでなく、ホワイトハウスのスタッフたちも驚いていたという。首席補佐官の部屋は、大統領の執務室(オーバルオフィス)のすぐそばにある。トランプ大統領はダボス会議に出発する前だった。

ブリーフィングそっちのけで、記者たちはドアのところに立つトランプ大統領に駆け寄り、質問攻めにした。

主題は、ロシア疑惑で、「トランプ大統領が、ムラー特別検察官が要望する大統領の聴取に応じるかどうか」。トランプ大統領はかつて、特別検察官からの求めがあれば、聴取に応じる意向を示していたが、1月初めにムラー特別検察官側が大統領聴取の意向を持っていることが伝えられて以降、トランプ大統領が自らの考えを明確にしていなかったからだ。

記者「あなたは、ムラー特別検察官と話すつもりですか?」

トランプ大統領「それを楽しみにしているよ、実際のところ。 I’m looking forward to it, actually」

トランプ大統領は、うそ偽りを述べないという「宣誓下」で聴取に応じるとも語った。時期については、2〜3週間ほどで、とも示唆し、聴取に「喜んで応じる」とも述べたのだった。

ロシア疑惑を巡って、特別検察官による聴取にトランプ大統領本人が、応じる意向を示したことを米東部時間の1月24日午後6時すぎ(日本時間25日午前8時すぎ)、米メディアはこぞって速報した。

ロシア疑惑は、米連邦捜査局(FBI)が2016年から捜査を開始。2017年5月、捜査を主導していたFBIのコミー長官が解任されると、元FBI長官であるムラー氏が特別検察官に任命にされ、捜査をリードしてきた。

ロシア疑惑は、大まかにいって2つの側面がある。

一つは、2016年の米大統領選挙で、ヒラリー・クリントン氏の当選を阻もうとしていたロシア政府側と、トランプ陣営が共謀し、情報をやりとりしながら、民主党本部へのハッキングなどを行っていたのではないかという疑惑だ。

もう一つは、FBIによるロシア疑惑の捜査を、トランプ大統領本人が妨害していたのではないか、という司法妨害についての疑いだ。昨年5月、コミーFBI長官を解任した際、トランプ大統領は米テレビのインタビューで、ロシア疑惑のことを考えた、と明かしている。

また、コミー氏は、在職中の昨年2月にトランプ大統領と面会した際、ロシアとのつながりにからんで更迭された右腕のフリン・国家安全保障アドバイザーについて、「トランプ大統領から、(フリン氏の件は)放免してくれ」と依頼された、と証言している。こうした大統領の行動が実際にあったのかどうかや、これらが司法妨害罪に当たるのかどうかが、焦点になっている。

「司法妨害罪を中心に聞くのではないか」

米メディアでは、ムラー特別検察官は、大統領の聴取にあたって「司法妨害罪について中心に聞くのではないか」と取りざたされている。

ムラー特別検察官のチームは先週、セッションズ司法長官への聴取をおこなった。トランプ政権の閣僚に対して初めての聴取で、ロシア疑惑の捜査は大きな局面を迎えている形だ。

セッションズ氏は、昨年5月のコミーFBI長官の解任の手続きに関わっている重要人物である。セッションズ氏は、トランプ大統領が昨年2月にコミー氏に「(フリン氏を)放免してくれ」と頼んだ際、依頼が行われる直前まで同席していたともいわれている。

大統領による司法妨害の有無を調べる際のキーマンであるセッションズ氏への聴取がおこなわれるなかで、焦点は、「トランプ大統領本人への聴取」へと移りつつあっただけに、24日のトランプ大統領の「(聴取に)喜んで応じる」という発言は、ロシア疑惑を追い続けてきた米メディアにとって、大ニュースになったのだ。

ただ、トランプ大統領が、言葉通りに聴取に応じるかどうかは、見通しづらい面もある。ムラー特別検察官側と、トランプ大統領の弁護士チームはここ数週間にわたって、大統領への聴取をどのように行うか、その条件についてせめぎ合っているといわれる。

面談によるものなのか、文書で行われるのか、どんなテーマを聞くのか、など交渉項目は多岐にわたっているとされる。トランプ大統領が協力を明言しただけに、近いうちに聴取は実現するものとみられるが、その手法や形態は予測しづらい。

深まる米国内の保守系とリベラル系の亀裂

トランプ大統領が、24日に突然記者の前に姿を現して20分近く質疑に応じたのは自らの潔白を訴える狙いとみられるが、実際の「大統領聴取」に向けてはまだまだ攻防がありそうだ。ただ、大統領聴取に応じる意向をトランプ大統領本人が明確に示し、時期まで示唆したことは、ロシア疑惑を解明するうえでは大きな進展といえる。

ただ、ロシア疑惑を巡っては、ムラー特別検察官チームやFBIの捜査の「中立性」に対する疑義が、共和党議員や米保守系メディアで、昨年末から相次いで取りざたされている。FBIの捜査官らが、トランプ大統領に批判的なテキストメッセージをやりとりしていたり、捜査幹部がクリントン氏に近い人物だとの指摘が、共和党議員や保守系メディアで繰り返しなされていたり、ロシア疑惑の捜査そのものの信頼性への攻撃が増している状態だ。

また、ムラー特別検察官のチームによる捜査と並行して行われているのは、米議会によるロシア疑惑の調査だが、今年11月にある米中間選挙も見据えながら民主党議員と共和党議員の党派的な対立はますます深まっている。トランプ大統領は24日の記者との質疑の際にも、FBIの捜査の「中立性」に対する強い不満を示した。

「大統領聴取」という、いわば本丸へとロシア疑惑の捜査が進んでいくなかで、米国内の保守系とリベラル系との間の亀裂はさらに大きくなりそうだ。

実は米国内では、このところ、こうした「ロシア疑惑」や、「移民制度改革」と「国境の壁」を巡る与野党対立の議論一色になっている。本来、米国にとって最重要課題であり、日本にとっても切迫した問題である「北朝鮮危機」についての議論は、米議員やメディアの間では低調といっていい状況だ。「ロシア疑惑」や「移民制度改革」「国境の壁」の議論に隠れ、北朝鮮問題についての十分な議論が米国で進んでいないことは、日本にとっては非常に憂慮される事態だと思う。