『マンガでわかる ココロの不調回復 食べてうつぬけ』(奥平智之:著、いしいまき:イラスト/主婦の友社)

写真拡大

 心の病は私たちの多くが思っている以上に身近な存在だ。たとえばうつ病の発症率は10人に1人、統合失調症の発症率は100人に1人である。なりやすい人、なりづらい人がいるのは確かだが、それはガンや糖尿病といった他の病気も同じこと。いわば誰でもかかりうる病気といってしまってよいだろう。

 そしてありがちな病気のわりにもたされる結果はかなり深刻だ。心身の健康はもちろんのこと、社会的な地位や経済的な安定、そしてときには命をも奪っていく。

 幸い心の病は治ることも多い病気である。病気を克服し、社会復帰を遂げた人も少なくない。しかしその一方で薬を飲んでも症状が治まらず、長期間苦しみ続けている人がいることも事実だ。

 実は心の病のメカニズムについてはまだわかっていないことも多い。それが治療のハードルを上げ、完治への道のりを困難なものにしている。実際うつ病の薬が効果を発揮するのは全体の6割くらいというデータもあるそうだ。

『マンガでわかる ココロの不調回復 食べてうつぬけ』(奥平智之:著、いしいまき:イラスト/主婦の友社)は従来の薬物療法とは少し違ったアプローチを使った治療を提案する。それが食事療法と漢方療法だ。

 精神科医・漢方医である著者によれば、栄養バランスの乱れが原因で心に不調をきたしている人はかなり多いのだそうだ。特に女性の鉄分不足は深刻で、なんと成人女性のほとんどが鉄不足の状況にあるのだという。

 鉄不足はイライラや気分の落ち込み、疲れやすくなるなどうつにありがちな症状を引き起こす。鉄欠乏女子のことを著者は「テケジョ」と呼んでいるが、テケジョであるがゆえに精神症状が悪化しているケースは少なくないらしい。

 そのほかにもビタミンB群やマグネシウム、亜鉛、タンパク質など心にとって必要な栄養素はまだまだある。さらに腸管の炎症、糖質のとりすぎによる血糖調節障害などが心に悪影響を与えている可能性も否定できない。

 著者は漢方医であり、西洋医でもあるのでもちろん必要に応じて抗不安薬や抗うつ薬などの西洋薬、漢方薬の処方も行っている。しかし健康の土台である食事の部分がいい加減だと、これらの効果がうまく発揮されない場合があるようだ。

どんなにすぐれた治療法でも、食事という「体の土台」がグラグラだと、なかなか改善できません。
あなたのココロは、あなたの体の中にあります。
必要な栄養がちゃんと腸から吸収されて、血液に乗って必要な細胞に届けられれば、細胞のひとつひとつが元気をとり戻します。

 したがってまずは食事を正しく改善することが最優先、と著者は言う。その最大のポイントが糖質制限である。糖質の過剰摂取は血糖の調節異常を招き、イライラやだるさを引き起こす。また糖質を代謝するためにビタミンB群が大量に消費され、体内で不足してしまうのも問題だ。糖質を減らし、そのぶんタンパク質や野菜、良質な脂質をしっかり摂るようにすれば栄養バランスは自然と整い、体の中から元気が湧いてくる。

 忙しい現代人は仕事や節約などを言い訳に、おにぎりや菓子パン、麺類、コンビニスイーツ、スナックといったお手軽な食品に走りがちだ。しかしこうした手軽につまめるものに限って糖質が多く、しかもタンパク質や良質の脂質、ビタミン・ミネラル類、食物繊維といった心と体に必要な栄養素はあまり含まれていない。

 私たちの心はセロトニンやドーパミンといった脳内ホルモンによって支配されている。脳内ホルモンの材料はタンパク質やビタミン・ミネラル類なので、これらが不足した状態で「心の安定を保て」というのはそもそも無理な話だろう。

 心の病気と戦うためには西洋薬を使った適切な治療も必要だし、漢方薬で心身の回復力を高めることが役立つ場合もある。しかし著者の言うとおり、それだけでは「足りない」部分もあるのではないか。

 心の病についてはメカニズムや完治の方法についてはわからないことが多い。それゆえに著者は「現時点では精神科の治療は総力戦」だと主張する。薬にだけ頼るのではなく、体質改善に向け多面的なアプローチを展開すること。こうした著者の姿勢から、患者あるいは患者予備軍である私たちが学べることは多いのではないだろうか。

文=遠野莉子