『隣の家族は青く見える』公式サイトより

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不妊治療をテーマにしたドラマ『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系列、木曜22時から)が話題です。若々しい深田恭子さんが「不妊に悩む35歳の既婚女性」を演じる姿について、産科医の田口早桐医師は「描写は現実に即している」といいます。自身も不妊治療の経験がある田口医師は「ひとりでも多くの人に見てほしい」と訴えます――。

■不妊治療経験者が見ても納得

『隣の家族は青く見える』は、人気女優の深田恭子さんが「妊活」に挑むという話題性もあって、放送前から気になっていました。

ただ、これまでのテレビドラマでは「作中で描かれる妊娠や出産、不妊に悩む女性の姿が、現実に即したものになっていない」という不満を、クリニックを訪れる患者さんや相談者から聞くことが多かったので、内容には不安でした。

しかし、第1話を見て、今回の作品は「とてもよくできている」と思いました。私は映像作品自体には詳しくありませんが、不妊治療の専門家としては、作品内の深田恭子さんと松山ケンイチさんが演じる「妊活カップル」の悩みや、特にレディースクリニック(不妊治療クリニック)の場面などは、「現実をよく調べて作られている」という印象を受けました。

このドラマをきっかけに、不妊に悩む人たちの現実について、より多くの人に知ってほしいと思いました。特に女性だけではなく、男性が考えるきっかけになってくれればと思います。

私はレディースクリニックという現場で、毎日不妊に悩む女性の声を聞いている生殖医療の専門医です。また、深田恭子さんがドラマで演じている35歳(これは深田さんの実年齢だそうですね)の時に不妊治療を経験しました。どうして『隣の家族は青く見える』がよくできていると思うのか――。その理由を、専門医の立場から解説したいと思います。

■「深キョン35歳」のリアル

主人公の五十嵐奈々は35歳の働く女性で、夫の大器(松山ケンイチ)と不妊治療に挑む、というのがドラマの中心となる物語のようです。インターネットでは、「深キョン」がこの役を演じていることに対してのリアクションが多かったようですね。実際に、劇中の五十嵐奈々の年齢と、深田恭子さんの実年齢は同じらしいですが、あれだけ若々しい深田さんが「不妊に悩む35歳の既婚女性」を演じることに驚きが大きかったようです。

この驚きは、不妊治療の現場と重なっています。どういうことかというと、現実的に、不妊クリニックを訪れる方は35歳から40歳の女性が多いのですが、昔に比べて、驚くほど若く見える人が多いのです。

仕事もバリバリやっていて、精神的にも充実して気持ちは若い。けれど、見た目の若さとは関係なく、生物学的に妊娠はどんどんしづらくなっています。外見や精神と、身体のギャップという現実的な問題が、スタッフの方が計算されているのかはわかりませんが、反映されているように感じました。

ドラマの中で深田さんが結婚するのが33から34歳で、「不妊症ではないか」と悩んでクリニックを訪ねるのが、結婚のおよそ1年後でした。一般的に晩婚化が年々進んでいるので、このあたりもとてもリアル。「1年間普通に性交渉して子どもができない」と、クリニックに訪ねてくるタイミングも、現場の感覚からして非常に納得できる話ですね。

■なぜレディースクリニックは混雑するのか

第1話で、五十嵐夫妻はそろってレディースクリニックに検査に訪ねます。「わかばレディースクリニック」はとても混雑していますが、現実のクリニックも待ち時間が長いことがままあります。

これは、ほかの診療所に比べて、レディースクリニックでは医師からの説明が長くなることが多く、一人ひとりの診療時間も長くなりがちだからです。ドラマでの五十嵐夫妻のように夫婦で来ている方もいれば、女性ひとりの患者もいて、このあたりも現実に即していますね。

五十嵐夫妻も驚いていましたが、日本の学会では「1年間普通に性交渉して子供ができなければ不妊症」とされています。日本の産婦人科では、長く「1年で妊娠する方が8割、2年で1割、そして残りの1割が子供のいない夫婦」という考えが一般的でした。このため日本では「2年」が不妊の基準だったのですが、アメリカの学会が「1年」を基準にしたので、近年では日本でも1年が基準になっています。

ただ、こうした基準と年齢は関係ありません。35歳になれば、20代前半よりも妊娠は当然しづらくなっていますし、「いつかできたらいいね」と悠然とするのではなく、このタイミングでクリニックを訪ねるのは、いい決断だと思います。「カップルの6組にひと組が不妊治療をしている」とドラマで紹介されていましたが、実感としては、今はもっと増えているのではないでしょうか。

■松ケンの演技が素晴らしい理由

クリニックでの場面は、非常によく調べて作られていると思いました。伊藤かずえさんが演じる女医が提示する資料も、「タイミング法から人工授精、体外受精」という示し方は定番で、どこのクリニックにも共通するものです。

検査室もリアルで、深田さんが横たわっていた「経膣超音波検査」は必ず受けます。松山さんが、成人向けの雑誌やDVDが置かれた採精室(精子を採る部屋)に戸惑う姿もありましたが、あの部屋も再現度が非常に高い。というよりも、実際のクリニックで撮影しているのだと思います。

困惑の色を隠せない松山さんに対して、看護師役の方が淡々と受け答えしていましたが、レディースクリニックで働いていると、性に関する言葉を発することに恥じらいや照れはなくなります。「精子量が〜」「セックスの回数が〜」など町中でも普通に発してしまうなど、一般の人が思う「性的なもの」の捉え方から乖離してしまうので、反省するところでもあります。

一番リアルだと思ったのは、松山さんの演技です。精液検査の結果が正常だとわかった途端、松山さん演じる夫が「よし、やった」と反応します。これは男性のリアクションとして典型的なのです。精子が「正常」だとわかったらもう大喜びで、すべてから開放されたと思っています。その後は上の空で何も聞いていないんですね。妻のほうが「よかったね……」と冷たく反応するということがとてもよくあるんです。松山さんのお芝居はすごく自然で、上手いなと感心しました。いい役者さんだと改めて思いました。

一方で、ややリアリティにかけるなとと思ったのは女医の対応です。少し冷たい感じに、「検査しますか?」と念押しするような言葉を使っていました。実際のクリニックではもう少しポジティブに進めていきます。「では、検査しましょう!」と元気づけることが多いですね。ただ、このあたりは「五十嵐夫妻がショックを受ける」というドラマの演出だと考えれば理解できます。

■深キョンの「女性の悩み」の演技に期待

五十嵐夫妻が、排卵日にあわせてセックスをする「タイミング法」をスタートし、松山さんが演じる大器が不妊への決意を固めるところで、第1回は終わりました。ドラマでも説明された通り、続いてフーナーテスト(子宮内での精子の状態を見るテスト)を行い、これから不妊治療が進んでいくのでしょう。

では、これからどんな不妊治療が、また夫婦の様子が描かれるのでしょうか。夫婦の関係でいうと、夫の理解があるぶん、五十嵐夫妻は幸せかと思います。夫の中にはまったく寄り添わないどころか、「妊活」を邪魔する人もいるのです。

「こんなこと必要ないだろう!」と、自分だけでなく妻の検査や治療まで否定してしまい、女性が一人で悩みを抱え込んでしまうケースも珍しくありません。劇中では須賀健太さんが演じる大器の後輩が「未婚だけれど精液検査を受けた」と話していますが、実際にはそこまで理解のある男性は非常にまれです。

ドラマで深田さんは、悩める女性を、より深く演じることになるでしょう。今のところ夫の理解があるとはいえ、精神、身体、そして経済的な負担は重くなっていきます。どこまで描かれるか分かりませんが、具体的な検査としては、まず1カ月で卵管やホルモンの検査などが出そろい、3カ月ごとに、タイミング法から、人工授精、体外受精とステップアップしていきます。体外受精まで進めば、1回の排卵で35〜55万円と費用もかかります。さらに精神的な負担も大きくなります。これだけ頑張っているのに、報われない――そんな思いが募っていきます。

■多様な家族のかたちが描かれる

「一生子供ができないのでは」という不安や、恐怖感が次第に大きくなってくる。ふさぎ込むこともあるでしょう。私自身も35歳で不妊治療をした時に、気持ちが真っ暗になりました。でも、「手順を踏んで前に進んでいきましょう」というしかない。どこまで深掘りするかはわかりませんが、第1話を見る限り、今後にも期待できると思います。女性の苦しみを、丁寧に描いたドラマになるのではないでしょうか。

他にも、高橋メアリージュンさんと平山浩行さんが演じる「子供を作らないカップル」や、眞島秀和さんと北村匠海さんが演じるゲイカップルなど、いろいろな家族のかたちを描こうとしていることにも好感が持てます。

ゲイカップルが「養子を持とうか」と相談するシーンがありましたが、養子縁組は男女関係なく、「子供を生めない」となった時の一つの選択肢。また、ゲイカップルでも提供卵子と代理母で子供を作ることも考えられますし、レズビアンなら提供精子という手段もあります。

生物学的な子供は作れなくても、家族として子育てはできる。新しい家族の姿をしっかりと描くことができれば、さらに見応えのあるドラマになるはずです。今後の展開に期待しています。

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田口早桐(たぐち・さぎり)
産婦人科医、生殖医療専門医。1965年大阪市生まれ。1990年川崎医科大学卒業後、兵庫医科大学大学院にて、抗精子抗体による不妊症について研究。兵庫医科大学病院、府中病院を経て、大阪・東京で展開する医療法人オーク会にて不妊治療を専門に診療にあたっている。自らも体外受精で子どもを授かった経験を持つ。著書に『ポジティブ妊活7つのルール』『やっぱり子どもがほしい! 産婦人科医の不妊治療体験記』がある。

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(産婦人科医、生殖医療専門医 田口 早桐 写真提供=オーク銀座レディースクリニック)