村上卓史『放送作家という生き方』(イースト新書Q)

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テレビのバラエティ番組ではタレントたちが好き勝手にしゃべっているように見える。だが、そこにはもちろん「台本」がある。いったい台本にはなにが書いてあるのか。どこまでネタを指示しているのか。ベテラン放送作家の村上卓史氏が解説する――。

※本稿は、村上卓史『放送作家という生き方』(イースト新書Q)の第2章「放送作家とは何か」の一部を再編集したものです。

■バラエティ番組の台本は面白さの最低基準

放送作家を目指す人からよく受ける質問のひとつに「タレントさんのセリフは台本通りなのですか?」というものがあります。これはバラエティ番組においては、「NO!」です。出演者の皆さんは可能な限り、自分の言葉で語っています。

「じゃあ、放送作家とか台本なんていらないんじゃないの?」とたたみかけられますが、これに関しても「NO!」と断言できます。台本は、出演者がその場面における自分や共演者の役割を理解するための指針となっています。司会者は制作スタッフが目指している方向へ導いていこうとしますし、アシスタントは司会者へのフォローに徹します。ゲストもシニア層はその世代ならではの見解で答えますし、おバカタレントはおバカでおちゃめなコメントになるようにトークに口を挟みます。また、芸人さんはその場があえて乱れるような言動でみんなを巻き込みますし、アイドルは天真爛漫な答えでその場を和ませます――というように、キャラや言ってほしい方向性が記された台本という参考資料によって、それぞれが振る舞ってくれるのです。

■芸人はいつも「台本以上」を狙う

もちろん、どうしても言ってほしいコメントも存在しますし、いかにもその芸能人が言いそうなセリフを書くようにしているので、台本通りのセリフになることはよくあります。ただ、芸人さんはどんな状況でも、たいていは台本以上に面白いことやエッジの効いた言葉を言おうと、常に機会をうかがっています。書く放送作家もわかっているので、そのまま言われようが言われまいが、自分で思い浮かぶ最高のセリフや掛け合いを台本に用意します。芸人さんはこれを超えようとしてくれるので、結果的に笑いを誘発する可能性が増すというわけです。

台本のセリフが番組の最低限の面白さであり、その初期設定を高くすればするほど、出演者の能力を引き出せることになり、結果的に想定以上のシーンを作り出せるということになります。なので、何度も頭の中でシミュレーションしながら、少しでも気の利いた言葉や展開が生まれるように吟味しています。

「これを言ってくれただけでもかなりいい感じのはず」「これを超えたらさらに面白くなるはず」。そんな想いで台本をつづっています。ある意味、出演者との真剣勝負です。

9割くらいは芸人さんのアドリブが台本を超えてきますが、ごくたまに自分の書いたセリフをしっかりと自分の言葉として発言してくれる時もあります。その時はまさにガッツポーズです。若手時代、とんねるずさんやビートたけしさんの番組をやっていた時に、ちょっとでも自分の書いた言葉がセリフに残っていると、それだけで一日中、幸せな気持ちになりました。

『ねるとん紅鯨団』(フジテレビ系/1987〜94年)を担当していた20代の時、100回突破記念なのにもかかわらず、深夜番組ゆえセットが何も変わっていなかったので、それを逆手に「100回記念でセットもすっかり新しくなった!」という設定で、古いセットを褒めまくるというオープニングトークを先輩と一緒に考えて台本にしたことがあります。いつもならば、フリートークでオープニングが始まるのですが、それをとんねるずの2人がほぼそのままの内容でやってくださった時は本当に感無量でした。

ちなみに最近は、出演者の意向を事前にくみ取るために、台本の初稿ができたところで打ち合わせをして事前にどんなことを言うかを確認するケースも出てきました。よりスムーズにロケや収録が進むメリットはありますが、進行を担当する司会者以外はノー打ち合わせで、緊張感のある現場のままにしておいたほうがはじける可能性があるのに……と個人的には思ってはいます。ですが、昨今のコンプライアンス事情を考えると仕方のない部分ではあります。

■スポーツ番組にも台本がある理由

台本はバラエティ番組においては出演者たちへの指針という意味合いだとお伝えしましたが、これが情報番組やスポーツ中継になると、放送作家のスタンスも台本の役割も大きく変わってきます。

情報番組の場合、間違った情報を流せないだけに、ひとつひとつのセリフに対して確認しながら書き進めなければいけません。話す順番をちょっと変えるだけで、事実と異なる展開になってしまう可能性があるからです。膨大な資料を読みあさったり、専門家に会ったり……と非常に手間暇をかけて書いていきます。

バラエティ番組と並んで私がよく担当するスポーツ番組の台本事情も、情報系と似た傾向にあります。『ジャンクSPORTS』(フジテレビ系)や『炎の体育会TV』(TBS)はほぼ通常のバラエティ番組と一緒なのでさほど疑問には思われませんが、担当番組の話になった時に「オリンピック中継や世界卓球中継、あと格闘技中継の放送作家などもやっています」というと、かなりの確率でけげんな顔をされます。中には「『金メダルを取る!』『チャンピオンが王座を防衛する!』みたいなことを台本にしているの?」と聞かれることも。

もちろん、結果を書くようなことは絶対にありません。スポーツ中継の場合、試合前のスタジオ部分などの台本を事前に書き、そのあとはテレビ局のスタッフルームやスタジオの隅に待機して、結果に即してリアルタイムで書き足していきます。ここでは気の利いたコメントなど二の次、試合の経過に合わせた正確なデータと今後への的確なフリが主に求められます。

■スポーツ中継の裏側は修羅場

「世界卓球」ならば、「日本人選手のメダル獲得は何年ぶりなのか?」「次の対戦相手は誰になりそうか?」といった結果によって変わっていく、伝えるべき情報をその都度選んでいきます。ある程度のパターンの準備稿は用意していますが、経過次第で時間を割きたいトピックスが変わりますし、試合時間の長短で与えられる放送時間の尺も変わるので常にギリギリの作業になります。

なお、日本人選手が負ける想定の台本はゲン担ぎの意味も含めて用意しないように決めているので、万一、想定外の負けを喫してしまうと修羅場と化します。私が担当しているスポーツ中継で、有力な日本人選手が負けるシーンを観たら「いまごろ大変なんだろうなぁ」と同情してやってください。

こういう時は得てして、いろいろなハプニングが連発します。2分くらいあったトーク部分が本番ギリギリに30秒に短縮になるなんてことも。その状況の中でどこを短くして、どこを強調すべきか。省略したことでつじつまが合わないことが生じないか。迫りくる時間の中で判断していきます。

尺が正しくないと、しゃべっている途中で終わってしまう見栄えの悪いエンディングになりかねません。そうならぬように、締め切り直前まで出演者になりきって読み合わせをしています。ストップウォッチをにらみながら、同じようなセリフを何度となくつぶやきます。正直、その瞬間の私はかなり鬼気迫っている状態だそうです。特に「世界卓球」中継の場合、女子アナウンサーがまとめのトークをすることが多く、なりきって読むと“おネエ口調”が加わるので、はた目にはかなりキツイ感じに映っているかもしれません。間に合わすためにはこの方法しかないので、なんと思われようが続けていきますが。

これまでに原稿が間に合わなかったことはほぼありません。長年、この仕事をやっていてもさして誇るべきスキルはないのですが、ことスポーツ中継でとっさに原稿をまとめる能力だけは自信があります。ほかにはあまり転用のきかないテクニックですが。

■状況次第で資料を作り直すスキル

とはいえ、事前に準備していたものを、状況に合わせてまとめる能力は実社会においても使えます。「企画書やプレゼンで長々と説明してしまう」という悩みをよく聞きます。効率化を考えると、最初から短くまとめるようにアドバイスされると思いますが、それができるならば苦労はしません。時間はかかるでしょうが、まずは自分が書きたいことを長々と書いて、そこから省いていくことで短い文章やプレゼンにしていくことをお勧めします。つじつま合わせの苦労はありますが、重要なものとそうでもないものを見つめなおすことにもなります。

最初のうちは、どこを縮めるか悩むことも多いでしょうが、場数を踏めば瞬時にカットすべきところが見えてくるようになります。文章作成ソフトを使えば、簡単にコピー&ペーストができます。この機能を活かさない手はありません。丁寧に順序だてられたプレゼン原稿を思い切って、いきなり本題からコピペしてみる。強調したいがゆえに繰り返している部分をカットして、その分で説明に厚みを加える。

まずは過去に作った、手元にある長めの文書をちょっといじってみてくだい。今までの自分の書いたものとはちょっと違う端的な作品になるはずです。この作業を繰り返していれば、最初から短く的確な資料を作れるようになってくると思います。

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村上卓史(むらかみ・たかふみ)
作家・放送作家
1966年生まれ。大学時代にテリー伊藤に師事し、放送作家としてデビュー。スポーツ番組やバラエティ番組を得意とし、TBS『炎の体育会TV』『学校へ行こう!』、フジテレビ『みんなのKEIBA』『ジャンクSPORTS』などを担当。日本放送作家協会理事。東京馬主協会会員。

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(作家・放送作家 村上 卓史)