50〜60代から人気に火がついた口紅の秘密とは?(撮影:尾形文繁)

こんな口紅欲しかったの――どうやら、このキャッチコピーどおりの商品らしい。化粧品メーカー・伊勢半の「キスミー フェルム 紅筆リキッドルージュ」に、「使いやすい」「値段以上」といった絶賛の声が集まっている。 

昨年3月の発売直後から、@コスメのクチコミランキングで1位(リップライナー部門 2017年2〜4月)を獲得するなど、人気が急上昇。一時は出荷が追い付かない色もあり、累計販売数は目標の166.5%(2017年3〜10月)で進捗しているという。

興味深いことに、昨今化粧品会社が当たり前のように活用する「インフルエンサー」にはいっさい頼らなかったというのだが、どんな経緯で売れていったのだろうか。

知る人ぞ知る、口紅が強いブランド


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同社は20ものブランドを抱えるが、稼ぎ頭といえば、マスカラが人気の「ヒロインメイク」。「いかなる時も完璧に美しく」というコピーとお姫様のアニメキャラがインパクト抜群なので、ご存じの方も多いのではないだろうか。

これに次ぐ同社の柱が、50〜60歳代向けのメークアップブランド「キスミー フェルム」(以下、フェルム)だ。30年以上とキャリアは長く、主にドラッグストアで売られている。コーセー「エルシア」やカネボウ「メディア」など大手競合も少なくないが、長年売り上げを支えているのが「口紅」だ。落ちにくさや、他社にない色もそろう色展開が好評だという。

そんな口紅を得意とするフェルムが今回打ち出したのが、口紅の鮮やかな発色と、リップグロスのツヤ感を一本で享受できる「リキッドルージュ」。昨今人気がある質感だが、中でもフェルムが選ばれるのは、ニーズを徹底追求した品質にある。

まず、商品開発にあたり、約1万人の女性に調査をしたという。すると、驚きの事実が発覚。普段口紅を塗るときに「紅筆」を使う人が50〜59歳で75%、60〜69歳が81%もいたのだ。


開発を担当した、伊勢半・開発本部の池戸和子さん(撮影:尾形文繁)

さらに、「若々しいツヤ感とうるおいはほしいがテカテカはイヤ」「くすみをカバーしたい」といったニーズや、加齢により深い縦ジワが増え「輪郭部がぼける」という悩みが浮上。市場に出回っているリキッドルージュに対する「落ちやすい」「輪郭が描きにくい」などの不満もわかった。

そこで、競合が出しているチップ式ではなく、「形状を紅筆にして口紅と合体させてしまおう!」というアイデアに至ったという。要望を落とし込むため、特に発色にはこだわり、「生き生き感」や、「ツヤ」とのバランスをとことん追求。ニーズどおりのテクスチャーの実現にもかなり苦労したそうで、「垂れないけど硬すぎない『粘度』や、口紅らしい厚みを出す『皮膜感』の調整を試行錯誤した」と、開発を担当した池戸和子さんは語る。デザインも、ターゲット層が華やかなものを好むことから、「持った時の高揚感」を意識し、ゴールドでキラキラ感を強調した。

購買層のメインは狙いどおり50〜60歳代の女性だ。True Dataの調べによると、2017年6月度のドラッグストアにおけるリップカラーカテゴリーでの販売個数は1位で、特に50代と60代で上位を独占した。

価格も1100円(税抜)と手ごろなため、ネットの口コミなどで「この値段のクオリティとは思えない」との声を多数見掛ける。「今の50〜60歳代は、『コスメのことをわかっている』という自負があり、デパートコスメとプチプラコスメを使い分ける。そんな彼女たちにあえて選ばれている」と、池戸さんは話す。

メーク&撮影の体験イベントが奏功

カチカチと端を回すと紅筆に紅がジュワッと出てくるこの仕組みを画期的と感じる人も結構いるようだ。コンシーラーなどではよく見掛けるが、リップアイテムとしては存在はするもののメジャーな形状ではないので新鮮なのかもしれない。

この使い方をうまく伝えることができたのも、ヒット要因として大きい。昨年6月から放送したCMでは、「カチカチ、スーッで輪郭くっきり。鮮やかに発色」と、特性をわかりやすく訴求。しかも、イメージキャラクターは、ターゲット層の青春時代にJJモデルとして人気を博した賀来千香子さんだ。その変わらぬ美しさに胸が熱くなり、ドラッグストアに駆け込んでしまった女性も多いに違いない。


越谷レイクタウンで行われた「きれい応援プロジェクト」の様子。この日は100名を超える女性がプロによるメークアップを体験(写真:伊勢半提供)

さらに、同社はフェルムの化粧品を体験できるイベント「きれい応援プロジェクト」も大々的に仕掛けた。ブランド名の認知度アップを目的に2015年から西日本を中心に始めたプロジェクトだが、プロのメークさんとカメラマンに無料でメークと撮影をしてもらえるので、毎回応募者が殺到。好評につき、2017年はこの新商品の使い方を伝える目的も兼ね、昨年6月から全国区で展開していったのだ。

「友だち同士のリアルな口コミが有効な世代」と、池戸さん。ほかのブランドではインフルエンサーを起用した販促を積極的に行うが、フェルムはターゲット層があまりネットを活用しない世代なので起用せず、このイベントに注力しているという。新商品が出足から好調だったのも、以前からイベントを通じファンが増えていたという点も大きい。来場者数は累計で4万人を突破し、CMとの相乗効果で売り上げは好調に伸びていった。

さらに、販促を仕掛けた昨年6月以降、「想定外の展開」(池戸さん)が起きる。20〜40歳代にもネット上の口コミを中心に売れ始めたのだ。「親子でイベントに来る方々も。母娘間の口コミで広がったケースも多いと思う」と、池戸さんは分析する。


伊勢半のヒット商品の数々(撮影:尾形文繁)

「おばちゃんコスメに若い世代がなぜ?」と思うかもしれないが、おそらく、最近は韓国発の「オルチャンメイク」の流行などもあり赤リップを始め鮮やかな口元演出が人気なので、下の世代にもこの発色のよさは抵抗感がなく、むしろ魅力的に映ったのではないだろうか。8色の展開も長年の売れ筋色データを活用しているというだけあり、選びやすい。

ちなみに、ダントツ人気はCM使用色のレッド系02。次いでベージュ系03が好評で、20〜30歳代にはピンク系01の支持率が高いらしい。

また、筆者のように唇が薄く紅筆やリップライナーが必須だという女性には救いの商品として映る。口紅→紅筆で輪郭取り→グロスの工程は正直面倒で、この商品のように1本で事足りるのは時短になりありがたいのだ。ポーチの中がかさばらないのもうれしく、この点は特に毎日化粧直しが必要なOLさんなどから高く評価されているのではないだろうか。ネット上ではこうした利点を含め、発色・ツヤ・塗りやすさなど商品の完成度を評価する声が多い。要は、ターゲット以外の層にも商品力が支持されたということだ。

江戸時代から続く品質へのこだわり


紅作りも江戸時代から変わらぬ製法で作り続けている

この商品力の強さは、やはり190年以上にわたる歴史にあるだろう。同社は1825年に日本橋で創業し、明治期には皇室御用達にもなった紅屋がルーツ。戦後は現在に続く近代化粧品の開発に舵を切ったが、原点となる紅作りは今もなお続けている。江戸当時と変わらぬ製法で紅を製造できるのは日本ではもう同社しかないそうだ。

こうした品質を大切にする職人魂が、同社には受け継がれているという。「社員は皆熱く、品質への意地みたいなものはかなり強い。代理店と協業するときも丸投げはしないし、こだわりが強くてやりにくいと思われていることがあるかも」と、池戸さんは笑う。

こだわりをスピーディに実現する体制も強みだ。開発企画から販促、広報宣伝、商品戦略、海外開発と、5部署は皆同じフロアにおり、ブランドごとにチームとなって動くので、販売までに要する時間が大手と比べても短いそう。営業との連携も強いため、客やバイヤーの声も即座に反映できるという。

独創的な企画力も同社の特徴だ。たとえば、今でこそ化粧品を自由に選べるドラッグストアの販売法は当たり前だが、1966年に個包装した商品をフックにかけて陳列する方式を業界で初めて導入したのは同社だった。二重まぶたを演出する「アイリッド」や、ツヤ出し専用リップ「キスミー シャインリップ」など業界初のヒット商品をはじめ、前述の「ヒロインメイク」やニッチな男性メークアップブランド「ルオモ」など、ベンチャー精神あふれる個性的な企画が多い。

歴史ある企業なだけに面白いエピソードはまだまだあるが、こうした風土や挑戦の積み重ねがあるからこそ、ユーザーのニーズをとことん詰め込んだ「紅筆リキッドルージュ」は生まれたのだろう。改めて、老舗のモノ作りは強い、と感じるヒット事例だった。