マクラクラン勉(ベン)が、勝利の咆哮(ほうこう)をした時、グランドスラムで日本男子ダブルス選手の新たな歴史がつくられた――。

 全豪オープンの男子ダブルス準々決勝で、マクラクラン勉/ヤン レナード・ストルフ組が、第1シードのルーカシュ・クボト/マルセロ・メロ組を6-4、(4)6-7、7-6(5)で破り、全豪初のベスト4進出を果たした。


日本男子として初の全豪ベスト4入りを果たしたマクラクラン勉

 25歳のマクラクランは、今回の全豪がグランドスラムデビューだったにもかかわらず、快進撃を続けて、1968年のオープン化(プロ解禁)以降では、日本男子として全豪だけでなくグランドスラムで初のベスト4入りを見事やってのけた。

「すごく嬉しい。ずっとファイトして、最後に取れた」と語ったマクラクランは、準々決勝では、自分のリターンに苦しんだものの、パートナーであるストルフのリターンの強打が冴えを見せた。さらに長身195cmのストルフから繰り出される強力なサーブを軸にして、マクラクランがネットプレーで躍動し、ポーチを決めてポイントにつなげた。

 ファイナルセットに入る時、「僕たちの方がいいテニスをしている。絶対勝つ」とストルフがマクラクランを激励したという。決着はタイブレークというきわどい展開になった。マクラクランがポーチを2本決めたり、ストルフがリターンエースを決めたりしてリードを奪い、マクラクラン組の3回目のマッチポイントで、ストルフがスマッシュを決めて、2時間52分の激闘の末、2017年ウインブルドン優勝ペアでもあるクボト/メロ組を打ち破った。


 今回のダブルスは、マクラクランがATPのサイトに全豪でのパートナーを探していると書き込んだところ、ストルフがメッセージを送ってきてくれたことによって実現し、メルボルンで初対面して新造チームが誕生した。

 準決勝でも見られたように、ストルフの時速200kmを超えるサーブや強力なリターンによって、相手に甘い返球をさせ、ネットプレーが得意なマクラクランがボレーで仕留める戦術が見事にかみ合い、快進撃の原動力になっている。

 また、たとえミスをしても、感情を表に出さず次のポイントに向けて全力を注ぐストルフの安定したメンタルが、マクラクランとのコンビネーションをさらに良くさせた。

 1回戦では、初めてグランドスラムでプレーできる嬉しさと初勝利が欲しいという緊張があったマクラクランだが、2回戦では、2016年のローランギャロス(全仏オープン)ダブルス優勝ペアで、第9シードのフェリシアーノ・ロペス/マルク・ロペス組からフルセットの逆転勝ち。まさに一戦一戦強くなりながら、準々決勝での第1シード撃破につなげていった。


 マクラクランは、父親がニュージランド人、母親が日本人のハーフで、2017年6月から日本人としてプロ登録を変更した異色の経歴の持ち主だ。その変更をサポートしたのが、トーマス嶋田コーチだった。

 嶋田コーチは現役時代にATPツアーで3回優勝し、グランドスラムにも出場。男子国別対抗戦デビスカップ日本代表としてもプレーし、これまで日本男子で唯一ダブルススペシャリストとして成功したといっていいプロテニス選手だった。

 現在、日本代表のコーチを務める嶋田コーチは、マクラクランのプレーをいつもコートサイドから見守り、今回の快挙を我がことのように喜んだ。

「本当にすごかったですね。ふたりとも1回戦からすごく調子がいい。ベンは(準々決勝までに)3回勝って、すごく自信がついている。(コーチとして)本当に嬉しい」

 マクラクランも、嶋田コーチに全幅の信頼を寄せている。

「すごくいい人で、いいコーチです。すごく経験があるから、ダブルスのスキル、スケジュール、パートナーとか、いつもいっぱい相談しています」

「日本を選んでよかった」としみじみ語るマクラクランは、日本人プロ選手として初めてプレーしたイタリア・トディでのATPチャレンジャー大会(ツアーの下部大会、2017年6月19〜25日)のダブルスでいきなり初優勝し、彼の中の運命の歯車が噛み合い、いろいろなことが起こり始める。


 2017年9月には初選出されたデビスカップ・ワールドグループプレーオフでのブラジル戦で代表デビュー飾り、同年10月のジャパンオープンでは、内山靖崇と組んで初出場でATPツアー初優勝を果たした。この2つの大会で、世界トップレベルのダブルスチームと対戦した試合経験がマクラクランの自信になり、今回の全豪でもシードペアを相手にしてもまったく気後れすることはなく、勝利への大きな推進力となった。

 全豪男子ダブルス準決勝で、マクラクラン/ストルフ組は、ダニエル/イングロト組とマラッチ/パビッチ組との勝者と、1月25日に対戦する予定だ。

「まだ終わりたくない。全部すごく楽しいから。同じ調子を出せれば、勝てる自信がある。同じように準備して頑張りたい」

 グランドスラムの準決勝という、マクラクランがこれまでのキャリアで経験したことのない舞台でのプレーになるが、シュトルフとのコンビネーションが最大限に機能し、第1シードを倒した勢いを持続できれば、初の決勝進出は決して夢ではない。

全豪オープンテニス
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