愛用の一筆箋と万年筆。万年筆は夫人からプレゼントされたお気に入りの品。筆記具などは基本的に伊東屋で買う。

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■メール、手紙……相手に合わせて使い分ける

「書く」ことの前提は「読まれる」こと。手紙もメールもコミュニケーションの手段であり、主役は相手なので、自分の感覚よりも読んでくれる相手の感覚に合わせるのが当然だと思います。

どんな書き方を好むかは人によって違い、時候の挨拶から始まる改まった文章のやりとりを好む人もいれば、用件だけの短い効率的なコミュニケーションが好きな人もいます。メールや手紙など、どの手段で伝えるのがいいかも人によって異なります。まずはその見極めが大切です。

私の場合、よく使うのはメールですが、相手の属性や場面によっては、LINEやフェイスブック・メッセンジャー、携帯電話のショートメッセージ機能(SMS)も併用します。一筆箋に手書きした文面を封筒に入れて渡すこともありますし、手紙を郵送することも少なくありません。

お礼を申し上げるときなど、メールより手紙のほうがよさそうだと判断したら自筆の手紙を書くようにしています。自分の好みとは関係なく、相手に合わせて使い分けているのです。

▼手間がかかるぶん気持ちが伝わりやすい

ただし、ワープロ打ちした手紙に署名(サイン)のみ手書きで記載をして送ることは基本的にありません。

メールやLINEは即時性・速達性があるうえ記録が残り、返事ももらいやすいため合理的です。一方、手書きは手間がかかるぶん気持ちが伝わりやすいというメリットがあります。

手紙には伝統的な書き方があります。「拝啓」で始まり、挨拶の文を入れ、「敬具」で終えて、日付と相手の名前を入れる。こうした手紙の決まりごとを私は辞書の巻末に載っていた付録から学び、一応は身に付けたつもりです。相手や状況に合わせて、自筆の手紙を書くときには、こうした昔ながらのプロトコル(儀礼)をきちんと考慮する必要があると思います。

しかし形式や用語選びは、究極には副次的なものだと私は考えています。文章を書くときに大事なのはやはり内容です。

これは手紙であろうとメールであろうと同じですし、日本語でも英語でも通用する真理です。文章の基本は「こちらの言いたいことをわかってもらうこと」に尽きるのです。

■自分の意思が伝わらない文は相手に非礼

手紙文が典型ですが、文章には本来の用件のほかに時候の挨拶など、別の要素が入ります。また、礼儀を踏まえて婉曲な言い回しをすることも少なくありません。しかし、文章を書く以上、そこにはお礼を述べるとか、質問に対して自分の意見を伝える、依頼に対してお断りを入れるといった目的があるはずです。

たとえばお断りの手紙なら、「断る」というこちらの意思をはっきりと相手に伝えること。遠慮して長い文章を書き連ね、一読しただけでは引き受けるのか断るのか判別できないようでは、何のための手紙なのかわかりません。

受け取ったときに困るのは、長文でしかも言いたいことがわかりにくいメールです。一見して「時間がないから読んでいられないかも」と判断したら、意識から追い出してしまうことになりかねません。

▼不要と感じたものは「ゴミ箱」に

厳しいことを言えば、そんな文章を読ませるのは、相手の時間を無駄にしてしまうことだと思うのです。社会でそれなりの仕事をしている人は例外なく多忙です。彼らの時間を無駄に使わせるのは1番の非礼ではないかと私は思います。メールを出すときは、少なくとも相手が短い時間で用件をきちんと理解できるように工夫をするべきですよね。

いま私は、毎日膨大な数のメールを受け取っています。ただ、忙しい方なら誰しも同じだと思いますが、メール処理に何時間もかけることはできません。そこで一瞥して不要と感じたものは「ゴミ箱」に放り込むことにしています。

そのためにうっかり重要なメッセージを消してしまったこともあるはずです。しかし多くの人は、そのリスクをあらかじめ承知したうえでメールを利用しているのではないかと私は感じています。いまの時代、「メールは読まれないこともある」と割り切ることが大事です。

出したメールに返事がなければ、うっかり消されたのかもしれませんし、書き方が悪くて伝わらなかったのかもしれません。こちらから送った大事なメールに返事がなかったら、私はメッセンジャーなりSMSで一言、念押しするようにしています。

■一筆箋に万年筆で数行のメッセージを残す

さて、合理的なメールに対して、気持ちを伝えやすいのが手書きの一筆です。私はいつも一筆箋を鞄に入れて持ち歩き、お世話になった方へ感謝の気持ちを伝えるようなときに使っています。会いたい人が不在だったとしても、一筆箋に名刺を添えてメッセージを残しておけば相手の心に残ります。

最近はそこへ妻からもらった万年筆で数行の文章を書いています。もともと字が上手なほうではありませんが、丁寧に書けば温かみが出ていいものです。また、封筒に入れて言付ければ、ハガキとは違って文面がむき出しにならず上品だと思うのです。

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松本社長の流儀
1 仕事の際、よく「メモ」を取るか
基本取らない
2 「手帳」はアナログ派orデジタル派?
アナログ派
3 手帳やメモを、見返すことがあるか
たまにあります
4 メールを記すとき、注意することは?
意味がしっかり通じるよう、曖昧な表現や構成を避けるようにしている
5 年賀状以外に、手書きの「手紙」や「礼状」を書くか
書く
6 社会人になってから「日記」を書いたことがあるか
「つぶやき」なる、一種の日記のようなものを18年間、毎営業日書き続けている
7 自分だけの「虎の巻」をつくったことがあるか
特にない

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松本 大(まつもと・おおき)
1963年、埼玉県生まれ。開成高校、東京大学法学部卒。ゴールドマン・サックス証券ゼネラルパートナーを経て99年にマネックス証券を設立。
 

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(マネックス証券社長 松本 大 構成=久保田正志 撮影=永井 浩)