人事部ではデータを読み解く力が必要となってくる(写真:NicoElNino / iStock)

金融業界やセールス&マーケティングの分野では長年、「データ」はイノベーションを促す原動力となってきました。一方で、人間はイノベーションのスピードについていくのがやっとという状態でした。

デロイトが2016年に発表した「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド」レポートによると、77%の会社が、社員の行動データを収集・分析して人材開発や職場環境の改善につなげる「ピープルアナリティクス(職場の人間科学)」の活用が重要であると確信しているものの、それを実行するだけの体制が不足していると考えています。一方、この分野で自社が「優れている」と回答したのは全体の8%に過ぎませんでした。

従業員の生産性に直結している


この連載の一覧はこちら

今や競争力を維持し市場での優位性を得ようとするすべての企業にとって、データ主導型の人事システムを導入し機能させることは、重要なビジネス課題になっています。

データ主導型の人事システムへの投資を行うということは、データを活用することによって従業員の生産性を上げ、株主価値の向上を図る絶好の機会になります。デロイトの調査によれば、高度なピープルアナリティクスを活用する企業はS&P500平均に比べて株式のリターンが30%高く、データに基づいて意思決定ができる人事部をもつ企業は、そうでない企業に比べて4倍評価されているという結果が示されています。

データを活用した人事システムがビジネスにもたらす利点は数多くありますが、そもそもどうすればうまく企業に導入できるかという点については、多くの課題が残されています。

現実問題として、データ主導型の人事システムを導入するには、人事部で普段使われていない新たなスキルやツールが求められます。マーサーの調査によれば、調査対象の69%が、自社の人事担当者は高度なデータ分析を行えるほどのスキルを持ち合わせていないと考えています。一般的に、人事担当者は報告書をまとめたり、ベンチマーキングを行うことは非常に得意であるものの、高度な分析作業にそれほど優れていないのです。

しかし、人材の定着率、従業員の生産性、人材投資の費用対効果にどういった要素が関与しているかを把握するには、分析スキルが必要になってきます。

人事担当者が理解すべきは?

それでは、人事部はこうした分析スキルの不足をどうやって補えばよいのでしょうか?

データ主導型の人事システムに移行するためには、技能と科学の両方が必要ですが、人事担当者がピボットテーブルやカイ二乗検定に習熟している必要はありません。

人事担当者が理解するべきは、ピープルアナリティクスがビジネスにどれだけのインパクトを与えうるか、ということです。データを読み解く力を身に付けるために人事担当者がまずしなければならないのは、ビジネス感覚を持ち、核心を突いた適切な質問が行えるようになることです。

つまり、どうした要素が会社の業績を左右するのかを理解し、財務知識を身に付け、マーケティング的思考と戦略的観点からビジネスの優先事項と人材戦略における優先事項をどのようにマッチさせることができるか、理解する必要があります。

人事担当者はデータを用いて生産的なコミュニケーションを図れなければなりません。会社の優先事項に疑問を投げかけるのであれば、人事担当者は大量のデータの中から重要なものを抽出し、自らの仮説の根拠を示す必要があります。データに基づき人事部としてのシナリオを組み立て、自分たちの人材戦略を説明し、経営幹部に理解、尊重してもらえるようにしなければならないのです。

人事担当者は社内のあらゆる部門、分野といつでも連携がとれるようでなければなりません。人材戦略を社内に発信していくためには、統計分析に長けた人と連携しサポートしてもらう必要もあります。たとえば、従来の人事部は採用の際、転職回数の多い、いわゆる「ジョブホッパー」をふるいにかけるのが通例でした。

しかし、“転職回数の多さ”と“新しい就職先に留まる期間”との間には、何の関連性もないことが統計分析によって明らかになっています。つまりデータ主導型人事システムが成功するかどうかのカギは、適切な仕組みを構築し、社内で人材を適切に育成できるかどうかにかかっているということです。

次は人事部の番だ

私が人事部門の責任者と話をする際によく用いるのが、下の図です。ここには会社が必要とする人材(左側)と必要とする多彩で幅広いスキル(右側)の両方が示されています。自分たちがどのような人材でチームを構成し、どのように人材を育成しコミュニケーションを図っていこうとしているのかを、データを活用しながら具体的に描いてみるために非常に役立ちます。


この方法のよい点は、必ずしもチーム全体を再編成する必要はないという点です。今日のように非正規雇用が多い労働市場あっては、人事部は必要な人材を有期雇用することもできるし、また、必要なテクノロジーをすぐに導入することもできます。

データ主導型の人事システムは、人事担当者にとって自分の仕事が会社におよぼすインパクトを真の意味で理解するための唯一の方法ともいえます。社内のほかの部門は早くからデータ活用能力を身に付けており、社内でますます重要な役割を担うようになっています。CMO(最高マーケティング責任者)職を置く企業が増えているのはその好例といえるでしょう。次は人事部門がそうなる番です。必要な人材もツールもすでにそろっています。