これに対し、多くの企業から相談を受け、解決策を提案してきた精神科専門医で認定産業医の渡辺洋一郎氏は、「適性に合った異動先で活躍する事例を目の当たりすると、周囲はかなり好意的に受け取る」と話す。能力を発揮してもらうと生産性の向上につながるうえ、職場のストレスが軽減するからだ。

 しかし、職場のこうした問題にアドバイスができる精神科領域の産業医が少ない現状がある。専門の産業医へのアクセスが難しい場合は、各都道府県の産業保健総合支援センターが実施しているメンタルヘルス相談日などを利用するといいかもしれない。

 渡辺医師は、発達障害傾向にある部下について相談を受けた場合、まず相互理解を得られるよう上司と従業員を含めて面談をする。「従業員が発達障害かどうかを診断することは、職場の問題の解決にはならない」と話す。

 そして、知能や数理能力、手先の器用さなどを測る「一般職業適性検査」を実施し、従業員の適性を精査する。その結果をもって、適性のある仕事ができる部署への異動を、人事担当者や管理者に検討してもらうなどの提案をする。

 採用時には簡単な検査や数回の面接で適性を判断するため、配属した部署で本人の適性と合っていないことが分かってくることがある。「ジョブマッチングのために面談や配置換えといった対応を柔軟にとることは、職場のストレス軽減や全体の生産性向上にプラスに作用する」(渡辺医師)。

 病気で長期休養を取っている人の8割がメンタルヘルスに問題を抱えていると言われている。発達障害の人たちも例外ではなく、企業による足並みをそろえる人材育成から脱落し、精神を病むケースがある。「働き方改革」が進むが、残業時間の削減や有給休暇取得などの数値目標をやみくもに達成しようとしてもメンタルヘルスの問題は解決せず、人材の有効活用にはつながらない。
(文=安川結野)