富士ゼロックスシンセンの工場(写真提供:富士ゼロックス)


 日本能率協会(JMA)は2011年に、日本国内ならびに中国、アジア諸国の生産拠点において、改善・改革に努めながら成果を積み重ねている優良企業を表彰する「GOOD FACTORY賞」を創設した。「アジア・共進化」を念頭に置いて選定を行い、これまでの7年間で44工場を表彰させていただいた。筆者はこの表彰制度の創設から関わっている。

 2017年11月、GOOD FACTORY賞を受賞した28社の事例から、その成功の秘訣を解説した『最強の工場をつくる48の工夫』(日経BP社)という書籍を出版した。その書籍の中から、アジア地域で現地人従業員の自立化を促して大きな成果を上げている3社の日系現地工場を取り上げ、そのマネジメントについて紹介している。

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若い従業員に「社会人教育」

『』(一般社団法人 日本能率協会 GOOD FACTORY研究会著、日経BP社)


 前々回は日立金属タイ工場、前回は東芝情報機器フィリピンにおけるマネジメントの取り組みを取り上げた。

(バックナンバー)
「日立金属タイ工場はなぜ離職者がほぼゼロなのか」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51848
「東芝情報機器フィリピンに学ぶ現地に溶け込む方法」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51990

 3社目は、富士ゼロックスシンセンだ(2011年、GOOD FACTORY賞受賞)。同社は1995年に中国・深センに設立された富士ゼロックスの現地法人で、8600名ほどが働く、複合機などを製造する大きな工場である。

 従業員の多くが地方出身の女性で、その平均年齢も24歳と若いため、同社では「地方出身の若年層」への支援に力点を置いた活動「EAP」(従業員支援プログラム)を展開している。

 その1つが、「従業員に対する社会人教育」である。

 従業員が生活と仕事を両立できるように、工員から管理層までの様々な教育コースを設置している。具体的には、工員向けに42講座、組長・班長向けに11講座、管理職向けに18講座がある。

 工員向けのテーマとしては、「人間関係とコミュニケーション」「常にポジティブであるために」「生活における財務基礎教育」などがある。「恋愛心理指導」といったユニークな講座もある。若い女性を意識したプログラムが多いことが分かる。

教育コースに参加している社員の様子(写真提供:富士施楽高科技)


 班長・組長向けには「正しい理論観」「職場におけるコミュニケーションについて」「企業人として」などを教える。さらに管理職向けには、「ストレスの管理」「幼児の心理」「子供との付き合い方」などの講座がある。

 富士ゼロックスシンセンの従業員向けの教育は、年齢も加味しながら「社会人として必要なこと」を学べるようになっているのが大きな特徴である。講座の運営は外部のNPOの協力を得ながら、すべて就業時間外に無償で提供されている(下の表)。同社は、現在取り組んでいるEAP活動を「企業全体のレベルアップ」のためのベースラインと考えていて、今後取り組むべき課題は「従業員一人ひとりの自己実現」である、と捉えている。

富士施楽高科技が用意している様々なEPA教育コース(富士施楽高科技の資料より、以下同)


 2つ目は、「従業員が意見を述べる仕組み」である。

 その仕組みの1つが、イントラネットの「交流天地」である。従業員は交流天地を通じて会社運営、福利厚生、労務管理、法律問題に関して様々な意見を述べることができる。また、会社側は従業員から寄せられた疑問や問題の解決に向けたフォローもしてくれる。交流天地には、毎年1500件以上の意見が寄せられているという。さらに、手書きで自由に意見や要望を投稿できる「CSR意見箱」も設置されている。

 また、工場幹部と従業員との定期的な懇談会も実施されている。経営者に意見を言う機会を常に提供しているとともに、経営者の姿勢も常に開示して、より良いコミュニケーションを構築しようとしているのだ。

 3つ目が、「心理・精神的な安定を支える仕組み」である。これには「心理カウンセリング電話ホットライン」「心理健康関連講座」「対面カウンセリング」という4つの仕組みがある。

社員に対するEAP活動の実施項目


奨学金を提供し、小学校も設立

 同社はCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)活動にきわめて熱心だ。CSRの取り組みで忘れてはならないのが学校支援だ。

 まず同社は、小学校から大学までの奨学金制度を提供している。同社の制度の特徴は、工場のある深セン地域だけでなく幅広い地域を対象にしていて、内陸の大学や東北地区の大学にも奨学金制度を設けていることだ。

 もう1つは、「富士ゼロックス小学校」の設立である。特に農村部や山岳地域の就学環境支援を目的として、1997年から小学校の設立を行っている。既に、富士ゼロックス希望小学校(甘粛省)、陽光小学校(重慶市)、環境保全小学校(河北省、雲南省)など中国全土で5つの小学校が誕生している。設立後も同社の従業員らが継続的に訪問したり、生徒たちを工場に招いたりして交流を深めると共に、寄付などの支援をすることで、中国社会の未就学児童の低減に積極的に貢献している。

離職率は深センの平均の3分の1

 受賞当時、同社董事長・総経理だった岡地俊彦氏は、同社がEAP活動、CSR活動を実施する理由をこうまとめている。

「第1は、富士ゼロックスとして掲げる『よい会社構想』を実現し、中国で『強い』『やさしい』『おもしろい』企業になるため。

 第2は、従業員の定着率を高め、会社への帰属意識を向上させたい。

 第3は、製造業にとって従業員のストレスに対処することは非常に重要。

 なぜなら、従業員が商品を作るから。安定してハッピーな従業員が造る商品は、そうでない従業員が作る商品より、QCD全ての面において より良い商品となる」

 こうした岡地氏はじめ全社的な努力の甲斐あって、同社では従業員の離職率が約3%と深セン市の平均と比べて3分の1レベルとなっている。

 富士ゼロックスシンセンの地道な取り組みは、親元を離れて集団生活を行う若年女子工員にとって精神的な安心感と安全を与えてくれているに違いない。同時に、忠誠心の高い熟練社員を蓄積していくことで、工場全体の品質と生産性も高める結果につながっている。

 今後のさらなる進化が楽しみだ。

(文中の会社概要、数字はすべてGOOD FACTORY賞受賞当時のものです。)

筆者:廣瀬 純男