羽越本線を走る701系電車(筆者撮影)

全国各地を鉄道旅行していると、がっかりするような車両に出くわすことがある。都会の純然たる通勤通学路線ならいざ知らず、風光明媚な路線で無粋なオールロングシートの車両に乗らなければならないとなると鉄道会社を恨みたくもなる。地域によっては、都市圏であっても普通列車に転換クロスシートの新型車両を走らせているところもあるので、その差は何だろうかと考えてしまう。

今回は、あくまで「乗り鉄」、旅行者の立場から、そうした乗りたくない残念な車両をピックアップしてみた。

速さは取り柄だがそれ以外は…

【電車編】

01)JR東日本701系電車


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東北地方の電化区間(奥羽本線、羽越本線の酒田以北、東北本線のかなりの区間、常磐線の仙台直通列車、田沢湖線など)で遭遇する確率が高い車両である。短編成でオールロングシート、乗り心地も良くなく、見るからに安普請なつくりは、鉄道ファンのみならず、利用者によっても評判が必ずしも良くない。取り柄はスピードで、かつて走っていた客車列車に比べると、相当な時間短縮にはなっている。

奥羽本線(新庄―大曲)用、標準軌の田沢湖線には申し訳のようにボックス席が千鳥格子状にロングシートとともに配置されているが、そこに座れても通路の反対側のロングシートに座っている乗客の視線を感じると落ち着かず中途半端な感じである。

酒田以北の特急「いなほ」、秋田―青森間の特急「つがる」は、ともに1日3往復しかない。青春18きっぷ愛用者でなくても、時間帯によっては、長距離移動でこの701系に乗らざるをえないのが悲しいところだ。

ところで、東北最大の都市である仙台近郊区間は、ラッシュ時の混雑が激しいと思われるが、意外にもセミクロスシートのE721系が増えてきている。あまりにひどい車両を投入すると、利用者がこぞってバスやマイカーに逃げてしまうと反省したのだろうか? ともあれ、一刻も早く引退してほしい車両である。

02)静岡付近の東海道本線ローカル電車


JR東海の313系電車。静岡付近の車両はほとんどがロングシートで、しかも混む(筆者撮影)

首都圏から東海道本線で熱海に到着すると、それまでのグリーン車付き長編成の列車と比べるとあまりにも短い編成の電車に、これが同名の東海道本線だろうかと驚く。それにもかかわらず、乗客が激減することはなく、季節や曜日、時間帯によっては席にありつけないこともある。

編成は3両から6両まで幅があるが、3両編成のときが閑散時とは限らない。ほとんどの車両がロングシートであり、満員になると車窓などまったく見えないので単なる移動で終わってしまう。トイレのない編成もあり、長距離移動には向かない。

富士―静岡間で身延線直通の特急「ワイドビューふじかわ」が乗り入れるのと、ラッシュ時にホームライナーが走る以外は、各駅停車のみである。急ぎたいなら新幹線を利用せよと言いたいのだろうが、清水、島田、菊川など新幹線停車駅ではない都市へ行きたいときに、この手の車両にかなりの時間乗るのは苦痛である。ホームライナー並みの停車駅の速達列車を有料でかまわないから終日運転できないものだろうか?

同じJR東海でも、豊橋―名古屋―大垣間は、新快速など速達列車も走り、大都市圏にもかかわらず転換クロスシートが主体である。静岡地区の冷遇ぶりは残念この上ない。

信州の山並みに背を向けて…

03)信州地区の211系電車


松本駅を発車する211系電車。ロングシート車が多く、車窓に背を向けて座ることになる(筆者撮影)

中央本線、篠ノ井線、大糸線などで幅を利かせるようになった電車。老朽化した115系の代わりとして、関東地区で働いていた車両が、E231系、E233系の増備で玉突きのように追い出されて信州へやってきたものである。セミクロスシート車もあるけれど、オールロングシート車も多く、運が悪いとロングシートで延々と旅を続けることになる。山の車窓が魅力的なエリアだけに何とかならないのかと思う。

特急列車が多く、小まめに停まる列車もあるので、工夫すればロングシートに乗る区間を最低限に抑えられるとはいえ、マイナーな駅を利用するときは苦行を強いられそうだ。

04) JR日光線の205系電車


JR日光線の205系電車。もと京葉線の車両だ(筆者撮影)

国際的な観光地日光へは、東武鉄道の特急利用が一般的になってしまった。JRの新宿駅や池袋駅からも東武日光へ直通する特急が走っている状況で、JR日光線は東武との競争をほぼあきらめ、ローカル輸送に徹しているかのようだ。それゆえ、首都圏で不要になった通勤電車205系を投入しているのも、ある程度は理解できる。

しかし、ジャパン・レール・パスを愛用する海外からの旅行者は、料金別払いとなる東武を利用しないで、宇都宮まで東北新幹線を使い、JR日光線を利用する人が意外に多い。したがって、車内は地元の人と外国人旅行者という不思議な組み合わせになる。そんな旅行者にとって、205系に乗車するのはちょっと気の毒だ。車窓がよいだけに、もう少しましな車両を投入できないものかと思う。下手をすると、日本の鉄道旅行の印象が悪くなるおそれさえある。

そう思っていたら、JR東日本は、日光線に205系を改造した観光電車「いろは」を2018年春から定期列車として走らせると発表した。その気になれば何でもできるのだから、経営合理性ばかりではなく、もう少し旅行者のことも考慮したほうがよいと思う。ともあれ、これは朗報である。

奥多摩の絶景区間は中央線と同型

05)JR青梅線青梅以遠のE233系電車


絶景区間を走る青梅線の青梅―奥多摩間は、中央線と同じE233系電車が走る

東京都の絶景区間として知られる青梅線の青梅―奥多摩間は、週末にもなると行楽客で混雑する。同じ青梅線でも立川―青梅間は、沿線人口も多く、中央線に直通する青梅特快や快速電車が10両編成で運転されていて、性格を異にする。

かつては、青梅―奥多摩間専用の展望電車「四季彩」が特別料金不要の定期列車として走っていた。201系を改造した車両で、多摩川を向いた展望席など好評だったのに、車両の老朽化ということで廃止にしてしまった。この区間に純然たる通勤型車両のE233系はまったく似合わない。

日光線では205系を改造する観光電車を走らせるようなので、青梅線でも「四季彩」タイプの電車の復活を望みたい。せっかくの観光地なので、もう少し色気をだしてもいいのではないだろうか?

06)JR西日本105系電車


福塩線を走るJR西日本の105系電車(筆者撮影)

地方のローカルな電化路線用に造られた105系電車は、可部線、福塩線、宇部線あたりで走っている分には違和感がなかったが、何を血迷ったか紀勢本線の紀伊田辺―新宮間でも走らせている。これでは何も知らずに乗るはめになった旅行客が気の毒である。

もともと105系が走っていた可部線は、平日の昼間はほぼ新型車両227系レッドウィングに統一されグレードアップされ、しかも転換クロスシート! 呉線も広島寄りの区間は、転換クロスシートのレッドウィングが幅を利かせている。同じ呉線でも、瀬戸内海の車窓がすばらしい広―三原は105系というアンバランスだ。

JR西日本の電化区間は、転換クロスシートの車両が多く、旅人にはおおむね好評なのに、車両運用の都合か、時として悲惨な車両の走る区間が残っているのが残念だ。「乗り鉄」は車両についての運用状況をしっかり調べてから利用するのが望ましい。

長旅の疲れを増幅する「ライナー」

07)JR北海道733系電車


新幹線接続の「はこだてライナー」は3両編成だと混雑することが多い(筆者撮影)

新型車両でオールロングシート。ただし、新千歳空港駅へ乗り入れる快速エアポート用のuシート(指定席)のみクロスシートである。

問題は、北海道新幹線アクセス列車「はこだてライナー」だ。10両編成の「はやぶさ」が新函館北斗駅に到着して、待ちうけているのが3両編成だったときのショックは大きい。「はやぶさ」の乗客すべてが「はこだてライナー」に乗るとは限らないからといって、あまりの小さなキャパシティには愕然としてしまう。何とか乗れればいいという問題ではない。

ゆったり新幹線に乗ってきて旅の疲れが出てきた乗客を、最後に満員電車に乗せるとは、どういう神経なのだろうか? 20分くらい立ったままでも我慢しろというのだろうか? 利用者は若者ばかりではないのだ。いや、若者は飛行機利用が主流であり、新幹線利用で函館へ行こうとするのは少しの時間でも座りたい母子や高齢者が多いと思われる。「はこだてライナー」は、すべて6両編成にしてもらいたい。

【ディーゼルカー編】

08)JR西日本 キハ120形ディーゼルカー


芸備線と木次線が接続する備後落合駅に停車するキハ120形ディーゼルカー(筆者撮影)

中国地方の非電化ローカル線を中心に関西本線の亀山―加茂、越美北線、大糸線(糸魚川―南小谷)で使われる小ぶりのディーゼルカー。単行(1両のみ)で使われることが多い。車内はオールロングシートあるいはロングシート主体でボックス席が4つのみという2種類がある。

閑散とした線区ではガラガラのこともあるが、列車本数が極端に少ない区間では、それなりの利用者もあるため途中駅からボックス席に座れる確率は高いとは言えない。2018年3月末限りで廃止となる三江線もこの車両が使われていて、日によっては大変な混雑のようである。できれば乗りたくない車両だが、選択肢がないので我慢するほかない。

長距離だけどトイレがない!

09)JR四国 キハ32形ディーゼルカー


予土線を走るキハ32形ディーゼルカーはロングシートでトイレもない(筆者撮影)

JR西日本のキハ120形と似たような感じの車両で、こちらはオールロングシート(0系新幹線を模した「鉄道ホビートレイン」だけはわずかにクロスシートがある)。この車両の最大の欠陥はトイレがないことだろう。予土線の列車は窪川―宇和島間を通しで乗ると2時間以上かかる。列車本数も少ないので、尿意を催したときの急な途中下車は無理である。体調を整えて乗るしかない。幸いホビートレインの場合は、江川崎駅と吉野生駅でトイレ休憩ともなる長時間停車があるのが救いである。とはいえ、トイレくらいは改造して設置してほしいものだ。

10)JR東海 キハ25形ディーゼルカー2次車以降


JR東海のキハ25形ディーゼルカーは、313系電車(2ページ目参照)にそっくりの外観だ(筆者撮影)

静岡あたりでよく見かける313系電車にそっくりのディーゼルカー。車内は電車同様オールロングシートが幅を利かせている。セミクロスシート車もあるけれど、どちらに当たるかは運次第。高山本線や紀勢本線の山間部を走行する長距離普通列車でオールロングシート車に遭遇するのは不運以外の何物でもない。どちらも特急列車が走っているので、長距離移動は特急利用が無難である。

以上、都市部以外での普通列車で、できれば乗りたくない車両を列挙してみた。東北地方では非電化区間のディーゼルカーはセミクロスシート車が多く、電化区間はロングシート主体なのに、中国地方では電化区間は一部を除いてクロスシートであり、ディーゼルカーはロングシート主体と逆なのが興味深い。車内のグレードは線区により相当のばらつきがあるので、普通列車を使った鉄道旅行でがっかりしないためには、事前の調査が欠かせない。