暗号化メッセージアプリのテレグラムがICOで史上最大の20億ドルの調達を計画している(写真:ロイター/アフロ)

活況を呈する米国の株式市場で、意外な銘柄が年初来の値上がり率でトップとなっている。1月9日に仮想通貨の新規公開による資金調達「ICO」(イニシャル・コイン・オファリング)を発表した米コダック社である。

コダックといえば、かつて連邦破産法11条の適用も受けたオールドエコノミーの象徴的な会社だ。ここ数年はさしたる成長ストーリーもなく、株価も低迷していたが、ICO発表後1週間で株価は約3倍になった。

他にも、ICO発表後に株価が上昇するケースが目立つ。仮想通貨自体の価格は暴落しているにもかかわらず、ICO発行企業は評価されている。これはなぜなのか。

ICOで増え続ける仮想通貨


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この局面でも、実は、仮想通貨の種類は増え続けている。1月22日の時点で1465種類のコインが発行されており、筆者が前回このコラムで「ビットコインしのぐオルトコインの百鬼夜行」を執筆していた12月25日時点の1380から85種類も増えている。ICOで新しい通貨が日々発行されているためだ。

ICOの歴史は仮想通貨以上に浅い。ビットコインが市場に登場してから4年後の2013年にスタートし、昨年仮想通貨の価格上昇とともに大ブレイクした。2017年1年間で、世界で480件、4000億円以上のICOが行われた。


最近では、別の意味の「ICO」も発表が相次いでいる。「イニシャル・カントリー・オファリング」と呼ばれる、国による仮想通貨の発行である。電子政府推進国で安倍晋三首相も先ごろ訪問したエストニアのほか、財政難の南米ベネズエラ、旧ソ連のアブハジア共和国などが政府主導のICOを計画している。

ビットコインをはじめとする仮想通貨が最高値から2〜6割下落していることから一時期ほどの勢いはないものの、ICO市場はまだそれほど勢いを失っていない。現在計画されているICOは世界で200件以上と、昨年のペースをはるかに上回る。1月15日に日本で行われたセントラリティのICOは、サーバーがダウンするほど申し込みが殺到し、開始からわずか6分で完売した。

さらに、暗号化メッセージアプリのテレグラムが、来月、これまでで最大規模となるICOを計画している。しかも、相場が暴落する最中の18日に、目標規模を当初の12億ドルから20億ドル(約2220億円)に引き上げたと伝えられている。

ICOの魅力は何なのか。現在、広い投資家層から企業が資金を調達する手段には、主に株式発行と債券発行の2つがある。しかし、ICOはこのどちらとも違う、いわば「第3の資金調達手段」である。

仮想通貨は株式とは異なるので、株主が企業に対して経営に関与できるような議決権も分配金を受け取る権利もない。このため、株式の追加発行、すなわち増資で資金を調達するのと違って、ICOは既存の株式の価値を希薄化しない。よって、株価にも悪影響を与えない。

また、一部の返済条件付きのものを除き、発行企業は集めた資金を返済する義務はない。よって、債券でもない。このため、発行体の債務比率を上昇させてバランスシートを悪化させることもない。

要は、企業はICOを行っても、既存の株主や債券保有者の権利を侵害することがない。むしろ、安価な資金調達で業容を拡大できるので、先の米コダック社の例のように、株価の見直しの要因となる。

しかも、手続きはシンプルだ。ホワイトペーパーという説明書をウェブにアップするなどの手続きは必要だが、株式のIPOのように会計士や証券会社との煩雑なやりとりに加え、取引所の申請待ちで3〜4年かかる、などという長いプロセスは必要ない。

ハードルは法律・会計の不透明さ

これらのメリットの割に、ICOがほとんど普及していないのはなぜか。日本では、新興企業の上場が世界一容易だとされ、ICOという新奇な手法に飛びつく動機が薄いことも要因の1つだろう。しかし、それ以上に、法的な位置づけや会計上の取り扱いが固まっていないことが大きなボトルネックになっている。

たとえば、1月15日、IT企業のメタップスは、異例の深夜の決算発表を行った。昨年行ったICOに関して、監査法人との話し合いが長引いたと報じられている。

現時点では、ICOは新たなコインの「販売」に当たるとして発行体の「売り上げ」に計上することになりそうだ。税務的には、経費差引後の利益に対して3割程度の法人税が課せられることになる。だが、メタップスの例にもみられるとおり、細部については監査法人と個別に議論することになりそうだ。

また、ICOの法的な位置づけもまだ曖昧だ。基本的には仮想通貨の発行なのだが、投信のような「集団投資スキーム」だとする見方や、売り上げの前払いだとする見方もある。これらの点がもう少し明確にならないと多くの企業はICOを計画しにくいだろう。

それでも、非上場企業であっても、比較的簡易な手続きで、広い投資家層から資金を調達できるというICOのメリットは企業にとって魅力的だろう。このため、投資家が存在する限りICOは続くとみられる。

では、投資家にとってはICOで発行されるコインは「買い」なのか。コインの価値を評価する上で最も重要なポイントは、ICOの目的である。なんのために資金調達をするのかが明確で、かつ資金使途が説得力のある具体的なものでない限り投資すべきではない。

ICOの目的が納得できる場合、次に問題になるのは、コインの「本源的な価値」に比べて発行価格が安いかどうか、である。新株発行の投資方法と同じだ。では、コインの「本源的な価値」とはなにか。

それは、一義的にはコインの利用価値だろう。たとえば、将来提供されるサービスの対価として使えるコインなら、そのサービスの価値が即ちコインの本源的価値である。

また、システム開発などの設備投資のために発行されるのであれば、新設備の生む収益がコインの価値の源泉になる。たとえば、年10億円の価値を生むネットワーク構築のためのICOであれば、発行されるコインの価値の総額は、市場要求利回り10%という前提では、100億円規模になる。

ただし、前提条件次第でこうした算定価値は大いにブレるので、コインの精緻な価値を計測するのは容易ではない。

機関投資家も募るテレグラムのICOが試金石に

このように、ICOは発行企業にとってプラス効果が大きい。ゆえに、ICO関連の投資戦略の王道は、発行体の株式に投資をすることだろう。

一方、コインの価値については、依然不透明感が大きい。ICOを一時的なブームで終わらせないためには、企業がしっかりと投資の目的を投資家に明示し、投資家も本源的価値に基づいた投資ができるようになることが必要だ。

ICOはこのような道筋をたどれるのだろうか。試金石は、来月のテレグラムのICOだ。同社は、機関投資家も募るとしている。もし機関投資家が、今回、しっかりと本源的価値を分析した上でICOに参加するならば、今後、まっとうな分析を行う投資家が増えるかもしれない。そのようなことが現実になれば、ICOは、株式、債券に次ぐ、第3の資金調達手段として確立される可能性を十分に秘めていると考えられる。