一流の仕事につき、高い年収を稼ぐ東京の男たち。

世の中の大半の女性が結婚を夢見る、いわゆる“アッパー層”と呼ばれる人種である。

しかしその中でも、ハイスペであるが故に決定的に“残念な欠点”を持つ男、というのが存在するのだ。

元彼を35歳の美女・恭子にとられて傷心中の瑠璃子は、彼を忘れるためにハイスペ男との出会いを積極的に繰り返すが、なぜか残念男たちを次々引き寄せてしまう。

瑠璃子が出会う、“残念極まる男”たち。あなたも、出会ったことはないだろうか?

これまでは、自撮り大好き・ナルシスト男や女より優位に立ちたがる商社マンに出会ってしまった瑠璃子。さて、今週は…?




-瑠璃子ちゃん、先日はありがとうございました。良かったら今度あらためて食事に行きませんか!?

起き抜けにベッドの中で、ケンジからのLINEのメッセージを見た途端、瑠璃子は驚いて飛び起きた。

ケンジとは、2週間前に『トラットリア イルフィーゴ インゴルド』で開かれた食事会で出会った。それは、瑠璃子の大学時代の同級生・マイに誘われて顔を出した食事会だった。

ケンジは、群馬・高崎に本社を構える自動車部品の専門商社の3代目だ。現在は父親が代表取締役となっているが、ゆくゆくはケンジが継ぐことになっている。

「高崎に住んでいるんだけど、今日はたまたま都内に出張があったから。俺ってツイてるよね」

爽やかな笑顔で話すケンジをはじめに見たとき、30代前半くらいだと思ったが、実際彼は37歳だと言う。優しそうで明るい上に、育ちの良さがオーラとなって溢れているケンジに、瑠璃子は好印象を抱いた。

しかし食事会の最中、ケンジは幹事のマイとばかり話していたので、こうして自分にデートの誘いを送ってきたことを、瑠璃子は喜ばずにいられない。

-ケンジさん、先日はこちらこそありがとうございました!是非お食事に行きましょう。

そう送ったところで、ふと気がついた。

そういえば彼は高崎住まいのはずだ。そうなると、平日に東京へ来るのは遠いだろうし、来たとしても終電の時間が気にかかる。食事は休日の昼間に限定されるのだろうか?

しかしケンジは、仕事でちょくちょく都内に泊まりがけで来ているから、平日の夜で問題ないと言う。こうして瑠璃子はケンジと数日後ディナーに行くことになったのだった。


明るくて爽やかな、経営者の跡取り・ケンジとのデートはどうなる?


結婚に前向きな男とのデート


ケンジと約束した店は、品川のメキシカン『エルカリエンテ モダンメキシカーノ』だ。

活気溢れる店内の雰囲気に、瑠璃子の大好きなメキシカン。自然と胸が弾む。

「品川ってあんまりお店知らなくってめったに来ないんですけど、ここ素敵ですね!また来たいなあ」

瑠璃子が笑顔で言うと、ケンジは嬉しそうに笑った。

「俺、出張のたびに品川のホテル利用するんだ。ここは出張のときの行きつけなんだよね。実は品川も悪くないでしょ?ここはテラスが最高だから、春になったらまた来ようよ」




「はい、是非!テラス、いいですね!」

二人でコロナを飲んだりモヒートを頼んだりして、少しお酒がまわり始めたケンジは次第に饒舌になっていった。

「瑠璃子ちゃんは、結婚願望ある?」

突然ストレートに尋ねられて面食らったが、慌てて笑顔で答える。

「え?…ええ、そりゃ結婚したいですよー、私だって」

「そっか、そうなんだ」

ケンジは満足気に頷いている。

「じゃあさ、子供は何人欲しい?男の子と女の子、どっちが欲しいの?」

「うーん…そこまでは具体的にはまだ…」

瑠璃子が答えると、ケンジは嬉しそうに話し始めた。

「俺はさ、男の子と女の子、一人ずつ欲しいんだよね。俺が一人っ子で兄弟にずっと憧れてたから、自分の子供には寂しい思いをさせたくないんだよ」

それからもケンジは、年に1度は家族で海外旅行をするのが理想だとか、息子にはサッカーをさせたい、娘だったらフィギュアスケートを習わせるのも悪くない、と将来の家族への夢を熱く語ってくれた。

-ずいぶん具体的な夢がある人なのね。年齢のせいかな…?結婚願望がすごく強いのかしら。

男の結婚願望といえば、瑠璃子には胸を痛めた過去がある。それは、元彼・周平のことだ。

大好きな周平と付き合うことができたのに、瑠璃子が結婚願望をあまりに前面に押し出しすぎてしまったがために、ふたりの関係はうまくいかなくなってしまった。

もう二度と同じ過ちを繰り返したくなくて、男性に結婚願望を正直にアピールするのはいまだに気がひける。しかし、目の前にいるケンジは周平とは真逆だ。

-彼には、ちゃんと結婚願望がある。すごく大事なことだわ。

別れ際に、ケンジは瑠璃子に尋ねた。

「そういえば、2月14日って空いてる?」

2月14日といえばバレンタインだ。まだ少し先の予定だが、空いていると答えると、ケンジは満面の笑みを浮かべる。

「ああ、良かった!じゃあ、絶対その日はあけておいてね!また食事しようよ」

-バレンタインデートだなんて…それだけ私のこと本気で考えてくれてるってことかな…?うふふ…!

ケンジに見送られながら山手線に乗り込んだ瑠璃子は、こみ上げてくる笑いを必死でこらえるのだった。


瑠璃子との関係に真剣に見える、ケンジの正体


結婚願望の強い男


週末、先日の食事会の幹事・マイと『マーサーブランチ』でランチの約束をしていた。ケンジと進展しつつある話を聞いてもらおうと、瑠璃子は楽しみにしていた。

ところがマイは、あっけに取られた顔で言った。

「うそでしょ…!ケンジさん、食事会のあと私にも連絡してきたわよ!」

「…え?ええっ!?」

マイ曰く、どうやらケンジは瑠璃子と同時期にマイにも連絡をし、かなり積極的にデートに誘っていたらしい。しかも、マイにもバレンタインの予定を探ってきたという。

「実はね、食事会のときの男性側幹事から、ある話を聞いたの」

男性側幹事は、ケンジの大学時代の後輩で、マイとはもともと知り合いだった。

「ケンジさん、37になっても独身だから相当焦ってるみたい。群馬にある専門商社の、3代目でしょう?親から早く孫の顔を見せろってプレッシャーが、すごいらしいのよ。それで、手当たり次第、みたいになってるらしいのよ」

仕事のために東京出張といっているがそれは表向きで、実際は食事会のためにわざわざ東京にかけつけ、ホテルをとって泊まっているというのだ。

マイの話を聞いて、呆然とした。結婚願望があるのは素晴らしいが、「誰でもいいから結婚したい」と思っているのは話が別だ。

それに何より、瑠璃子とマイ、同時にアプローチしていたのはさすがにルール違反だと思う。

こうして瑠璃子は、ケンジからはフェイドアウトすることを心に決めた。しかし、バレンタインは必ず空けておいて、と念を押されたことが気がかりだった。

そこで、意を決してケンジにLINEを送る。

-本当にすみません。2月14日は仕事が入ってしまいました。また、是非!

もちろん“また、是非!”は社交辞令で、もう二度とケンジと2人で会うつもりはなかった。

-残念だけど、リスケしようか!いつにする?
-突然だけど今夜はどう?
-来週東京出張が急に決まりました!来週は?

あの手この手で誘おうとしてくるが、やんわり断り続けていると、さすがの彼も脈がないことを悟ったようだ。

-では、お食事会にしない?友達を2名連れて行くので、瑠璃子ちゃんもお願いします!

LINEの画面を見て瑠璃子は呆れ返った。

「お食事会…。新しい出会いの可能性のほうへシフトチェンジしてきたか…」

しかし、それにも食いつかない瑠璃子にしびれをきらしたケンジは、しまいにこんなLINEを送ってきた。

-男性陣の空いている日程を入れておいたので、瑠璃子ちゃんも入力お願いします。

なんとそれは、日程調整ツール「調整さん」のURLだった。

やたらと候補日の多い「調整さん」の入力画面を見つめながら、瑠璃子は思った。

-婚活に必死すぎる、残念極まる男か…。

男性は、女性と違って結婚に焦ることはないのかとこれまで思っていたが、そうとも言えないようだ。そして男でも女でも、見境なく結婚にがめついタイプは、こうして敬遠されていくのだということを悟るのだった。

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留学しただけでネイティブ気取り!?残念極まる男。