マスコミはASEANの不安定を強調しすぎ

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東南アジアの経済成長が力強さを増している。特にASEANの主要国のうち、これまで政治リスクを指摘されてきたインドネシアとフィリピンの回復が著しい。一部ではドゥテルテ大統領の過激な発言が不安視されているが、実はフィリピン国内での評価は高い。「アジアの病人」は、もう過去の姿だ――。

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▼2018年を読む3つのポイント
・ASEANはインドネシアとフィリピンに牽引されて、成長率持ち直し
・各国政府は大幅に不足しているインフラ投資に財政資金を投入
・所得増、低インフレ、中間層台頭により、消費市場も本格的に立ち上がり

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■インドネシアとフィリピンがASEAN全体を牽引

ASEANは東南アジアの10ヵ国からなる地域協力機構だ。経済成長を背景に、世界のGDPに占める割合は2000年の1.9%から2016年には3.4%に上昇し、世界経済での存在感を高めつつある。なかでも、ASEAN5と呼ばれるインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムが、その人口規模と将来の成長期待などから、多くの外国企業の注目を集めてきた。

このASEAN5の景気は、当面回復が続きそうだ。ASEAN5の実質GDP成長率は、2016年の4.9%から17年5.3%、18年5.3%に、2019年が5.4%に持ち直していくと予想される(図表1)。国別にみると、インドネシアとフィリピンが地域全体を牽引する(図表2)。

これまでASEAN5経済は、マレーシアとタイが牽引してきた。インドネシアとフィリピンは、どちらかというと経済発展に取り残されたグループに入っていた。それが、ここに来てなぜ成長に弾みがつくようになったのか。以下では、インドネシア、フィリピンを中心に成長の背景、すなわち、(1)インフラ投資の本格化、(2)消費市場の拡大、(3)安定した政権運営、の3点について検討し、2018年以降のASEAN経済を展望する。

■インフラ投資の拡大は続く

アジア新興国では、近年、インフラ需要が旺盛である。特に電力や、道路・鉄道・港湾などの交通・運輸インフラに対するニーズが強い。これは、国民の所得水準が上昇したことで、大量かつ高品質の商品やサービスが求められるようになったことや、将来の安定成長や産業構造の高度化に必要な外国企業誘致などを考える上で、インフラ整備の必要性が高まっているからだ。

インフラ需要の高まりはASEAN地域においても例外ではない。近年、ASEAN各国はインフラ整備向けの財政支出を増やし続けてきた。この動きが特に顕著なのが、インドネシアとフィリピンである。インドネシアのインフラ向け財政支出額は、2011年の110兆ルピア(1ルピア約0.0078円)から2016年には320兆ルピアに増加した(図表3)。一方、フィリピンも2011〜2016年の6年間でインフラ整備向けの財政支出が2.8倍に拡大した。

インフラ整備向けの支出拡充の動きは、2018年も続くことになる。フィリピンのドゥテルテ政権は、2018年予算でインフラ整備向け予算を前年比+27.9%増に大幅に増やした。インドネシアの2018年のインフラ整備向け予算は前年比+2.4%と小幅の伸びにとどまるが、今後の補正予算を勘案すれば、最終的な伸び率はさらに高まる公算が大きい。加えて、インフラ建設プロジェクトは、完成までに長い期間を要するものが多い。このため、すでに工事が始まったプロジェクトも含め、工事が進展していくにつれて追加の建築機材需要といった経済効果が順次、顕在化してくるだろう。

インフラ投資の拡大は、2018年だけに限らず、中期的に取り組むべき課題になっている。2017年2月にアジア開発銀行が発表したレポートによると、2016〜2030年にASEAN全体で毎年1570億ドルのインフラ投資が必要とされている。しかし、2015年時点で実施されたインフラ投資は、年550億ドルにすぎない。これは、インフラ整備のための投資に一段の拡大余地があることを示している。こうしたASEAN5でのインフラ投資を満たすためにも、わが国が資金・技術面を通じて支援すべき役割は大きい。

■消費市場立ち上がり経済は「自律拡大」局面に突入

次に、消費市場も本格的に立ち上がってくるだろう。まず、雇用・所得環境の改善が消費拡大に貢献する。インドネシア、フィリピン経済は、ここ2、3年、内外需の拡大に支えられて持ち直し基調にある。

そうしたなかで、企業業績の回復が賃金増や雇用増をもたらし、それがさらに消費増を生み、消費財関連企業の業績拡大が設備投資につながるという「自律拡大」の動きが出始めている。さらに、政府による支出拡大や減税政策なども、雇用・所得環境を改善させる要因となる。インドネシアでは、政府が地方での公共工事による雇用創出策の実施を検討しているほか、フィリピンでは個人所得税の減税が実施される予定である。

また、低インフレが続くことも消費の拡大を後押ししそうだ。2000年代のASEAN各国は、原油価格の高騰を背景とした高インフレで、消費者の購買力が大きくそがれた。例えば、インドネシアのインフレ率は2006年に13.1%まで急上昇したほか、フィリピンのインフレ率も2008年に8.2%をつけた(図表4)。

ところが、2015年以降、原油価格が下落に転じると、インフレ率もこれを受け低下した。2016年のインドネシアとフィリピンのインフレ率はそれぞれ3.5%と1.8%と、先進国並みの低水準になった。資源価格は足元でやや上昇しているものの、それでも2000年代半ばと比べると大幅に低い水準にとどまっている。資源価格の安定を受けて、2018年以降も、ASEAN5のインフレ率は低水準で推移すると予想される。低インフレが続けば、消費者の購買力が高まり、消費の押し上げにつながる。

中間層の台頭といった構造変化もASEAN5の消費を下支えする。ASEAN5では経済発展によって着実に中間層が増加してきた。この結果、各国で耐久消費財の普及率が上昇している。これまで所得水準の低いなかでも携帯電話は広く浸透してきたが、今後は自動車など高額耐久財需要も盛り上がってくるだろう。ちなみに、フィリピン貿易産業省は、フィリピンの自動車販売が、2016年の年36万台から2025年には100万台に増加すると予測している。

■安定した政権運営が景気回復を促進

安定的な政権運営が続くことも、景気回復の重要な要因となる。ASEAN5では、1997年のアジア通貨危機後、長きにわたって政治的混乱が続いた。そのため、政権が継続的な経済政策やビジネス環境の整備などに乗り出すことが困難であった。この結果、国内の消費・投資活動が停滞しただけでなく、外国企業による直接投資も阻害されることになった。

しかし、2010年以降は、各国で政権運営が際立って安定するようになった。インドネシアでは、2014年に2度目となる直接的かつ民主的な選挙でジョコ大統領を選出し、ユドヨノ前大統領から混乱なく政権移譲を果たした。ジョコ大統領は就任後も、高い支持率を背景に、ビジネス環境整備やインフラプロジェクトの実施を進めている。もともと、世界第4位の人口を抱え経済発展の潜在力は高いだけに、経済政策運営の安定化によって、外国企業の見る目も好転しつつある。

フィリピンでは、まず、2010〜2016年のアキノ前政権が汚職撲滅や財政健全化への取り組みを強化したことで、政治面、経済面に安定感をもたらした。その後、2016年6月にドゥテルテ大統領が就任した。ドゥテルテ大統領に関しては、強硬な麻薬取り締まりや過激な発言など、政治面での不安定化リスクを強調するような報道が多い。

しかし、ドゥテルテ大統領の経済政策に対する国民の評価は高い。例えば、2022年までの6年間で約8兆ペソを投じる大型インフラ整備計画を実行しているほか、外資規制の緩和や税制改革にも取り組み始めた。アキノ前政権からバトンを引き継ぎ、ビジネス環境の改善に着手したドゥテルテ政権の下で、かつて「アジアの病人」と揶揄されたフィリピン経済は回復に向かい始めたといえよう。

■中国に続く新たな成長市場

このように、2018年以降のインドネシア、フィリピンを牽引役とするASEAN5は、中国に続く新たな成長市場として注目される。もちろん、ASEAN5の各国には、財政赤字や経常赤字など経済構造の脆弱さという課題が残されている。各国が積極的に進めるインフラ整備などにより、財政赤字と経常収支の赤字という「双子の赤字」が拡大する可能性もある。各国とも、積極的な成長戦略・構造改革と、財政・国際収支の安定化を両立させることが不可欠である。

これまでのところ、こうした取り組みは順調に滑り出したようにみえる。今後の注目点は、経済構造改革の実行力と持続性だ。これがうまくいくようなら、6億人を抱える巨大な市場が立ち上がり、わが国にとっても大きなビジネスチャンスになろう。

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塚田雄太(つかだ・ゆうた)
日本総合研究所研究員。1986年生まれ。2010年3月名古屋大学院経済学研究科修了、同年4月三井住友銀行入行。12年4月日本総合研究所調査部マクロ経済研究センターに所属、現在に至る。研究・専門分野は内外マクロ経済分析(特にASEAN経済)。注力テーマはインドネシア経済、フィリピン経済、ベトナム経済。

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(日本総合研究所研究員 塚田 雄太)