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●門真から東京へ移転したワケ

パナソニック コネクテッドソリューションズ社の社長である樋口泰行氏へのインタビュー、後編のテーマは「100年後のパナソニック」だ。

パナソニックは2018年3月に創業100周年を迎える。日本ヒューレット・パッカードとダイエー、そして日本マイクロソフトと、トップを歴任した樋口氏がパナソニックに「戻ってきた」のも、創業100周年を迎えたパナソニックの今後と無関係ではない。樋口氏の考える「これからのパナソニック像」とは、どんなものなのだろうか。

○次の100年のために改革を断行

「2018年、パナソニックは創業100周年です。しかしこのままでは、次の100年は厳しい」

樋口氏の言葉は厳しい。

前編で触れたように、パナソニックは「真のB2Bシフト」を目指した構造改革中だ。その構造改革を断行しないと、パナソニックは次の100年を越える企業になれないと樋口氏は考える。

パナソニックがこれからビジネスの主軸に据えようとしているのはB2Bビジネス、それも、顧客に対して課題解決の手段を提供する「ソリューションビジネス」である。これまでのパナソニックは、企業や個人に対して「より良い製品・技術を提供する」ことで差別化してきた。

だが、ソリューションビジネスになると、提供すべきは単なる技術や部品ではなく、それらを使ってどう課題を解決するのか、という部分になる。思考方法もビジネス手法も、当然変わらざるを得ない。

「ソリューションビジネスでは、難しさがグンと上がります。やはり、ソリューションビジネスをやった経験がないと難しい部分があります。既存の『製品主体の事業部』が強い体制では新しいトライアルがやりづらく、難しい。ソリューションビジネスへの転換は、過去にIBMも直面しました。彼らですら、ハードからソフトへの転換は難しいことでした。IBMは『同じ人員では改革できない』として人を多く入れ替え、企業体質を変えました。しかし、日本は同じ手法が取れない環境にある。そこでどうやってビジネス転換を実現するかをしっかり考えないといけません」(樋口氏)

そのような環境で断行できる改革とは何か。樋口氏は、担当するコネクティッドソリューションズ社を本社のある大阪・門真市から東京へと移転し、個人の席を自由に決められる「フリーアドレス/フレックスシーティング」を導入した。

「まずは顧客接点を増やさなくてはならない。そのためには、顧客から遠い門真に居ても何もできません。顧客の近くにいて、温度を感じないとできないことが多いのです。ですから、なるべく顧客の近くに行こう……というのが、拠点を東京へと移した理由です。これが第一歩ですね。これは一般論ですが、東京から離れるとさまざまなベンチマーキングが難しくなります。コンプライアンスにしてもダイバーシティにしても。企業を近代化していく点で遅れる。そういうところがあります」(樋口氏)

●10年・15年後の「改革完成」の礎を作ることが樋口氏の仕事

樋口氏は大学卒業と同時に松下電器産業(当時)へ入社し、1992年に同社を離れた。25年ぶりのパナソニックとなるが、いわゆる"浦島太郎感"は「まったくなかった」という。初日から「馴染んでしまった」と樋口氏は話すが、その真意は「良いことばかりではない」という裏返しだ。

「持続可能な企業になっていくためには、体質の改善が必要です。社員一人ひとりが自ら動けるようにならないとダメです。パナソニックには27万人も社員がいるのに、新しい戦略を考える時には外部のコンサルタントに依頼する。そしてその戦略をなかなか実行できないケースが多い。まずは外の世界の景色を見て、何をアップデートしないといけないのか、自らが感度よく動かないといけません。純粋培養で、上司の言うことに従って仕事をする、という形だけでは、自律的な思考がなくなっていきます。もっと多様性を理解し、"やわらか頭"で考える必要がある。時間で働くのではなく、上司の考えで働くのでもない。そのためにまずは『働き方改革』をドライブしていかないといけないんです。それを前提として初めて『では、どんな立ち位置が望ましいのか』といった戦略を考えて、手を打てるようになるはずです」(樋口氏)

樋口氏の下では、ソリューションビジネスの経験がある「パナソニック システムソリューションズ ジャパン(PSSJ)」のメンバーを中心に、B2Bビジネス体制、そして意識の改革も進められている。「この8カ月で何年か分の変化は訪れたのではないか」(樋口氏)とはいうものの、業績的にソリューションビジネスが占めるパイはまだ大きくはない。

これをいかに育て、大きくしていくかが、これからの100年に繋がる大きなテーマだ。ソリューションビジネスの比率が高まってこそ、樋口氏が請われた最大の理由「真のB2B改革」の成果といえる。では、その実現にどれほどの時間がかかるのか?

樋口氏も、決して楽観はしていない。

「10年〜15年はかかると思います。ヨーロッパ系・アメリカ系の企業を見ても、体制のトランスフォーメーションにはそのくらいかかっています。ここで大事なことは『私自身がこの先の10年間、そこに関わり続けることはできないだろう』ということです。やる人が変わっても、次の人が『この改革は正しい』と、信念をもって続けることが大切なんです。場合によってはトランスフォーメーションは財務的な数字だけを見ていても効果がわからない場合があります。しかし、ビジネスの勘が働く人であれば『実行して良かった』と理解してくれるはずです。短期的な利益だけを追求してしまうと、次の世代に会社を良い体質の状態で渡すことができなくなります。今は高度成長期とは違います。右肩上がりではないし、メガトン級プレイヤーもいない。そんな中でどう立ち位置を確保するのか、かなり戦略的に考えないといけません」

IT企業が世の中の主導権を握りつつある中、いくらパナソニックとて舵取りが難しい時代と言える。

「昔は比較的シンプルな戦略でよかったわけですが、今はそうではありません。私はパナソニックの外で25年の経験を積み、曲がりなりにも『戦略的に考えること』を学んできました。当社に『戦略的に考える』礎を作れたらな、と思います。これはパナソニックだけの話ではなく、日本全体で見てもそうです。政府主導でさまざまな業界の再編が行われ、いよいよダメになってから清算する、ということの連続でしたから。電機業界においても、他の家電メーカーでも、パナソニックでも同じことが起きました。パナソニックが生き残れたのは比較的に財務的に強かったというだけ。これに甘んじていてはいけませんし、さらに体質を改善していく必要があるということを、自分たちで考えていかなくてはなりません」(樋口氏)