キャッシュレス社会への期待は男女で差がある?


 私の在籍している博報堂生活総合研究所は、1981年の設立から現在に至るまで、「生活者発想」に基づいて生活者の行動や意識、価値観とその変化を見つめ、さまざまな研究活動を行っています。

 前回に引き続き、世の中で生じている事象に対して、研究所に蓄積された研究成果やそれらに基づく独自の視点により考察を加えてまいります。読者の皆様にとって、発想や視野を広げるひとつのきっかけ・刺激となれば幸いです。

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キャッシュレス社会への賛否は拮抗

 1月も半ばを過ぎればもうすっかり平常運転モードですが、この年初を思い返すと、年初には、地元やお住まい近くの寺社仏閣に初詣に行かれた方も多いのではないでしょうか。お賽銭箱に向けてお金を投げ入れつつ、今年一年の無病息災や大願を祈念する・・・というのが一般的な初詣のスタイル? かと思います。

 そんな中、東京都内にある愛宕神社では、数年前から“キャッシュレス”でお賽銭できる端末を設置しているそうです(日にちを限定しての実施)。金額を適宜入力して電子マネーをかざせば「シャリーン」という音とともに決済が完了し、お賽銭ができるとのこと。

 クレジットカードやデビットカード、電子マネーなどいわゆるキャッシュレスでの決済手段。飲食店舗など、さまざまな所で利用できるようになってきましたが、神社のお賽銭もキャッシュレス対応というのは意外性があり興味深いものがあります。

 さて、そんな「キャッシュレス」。生活者の考え方はいったいどうなっているのでしょうか。

 博報堂生活総合研究所では現在、「お金の未来」をテーマとした研究を進めています。生活者のお金と幸せのありかたやその未来像などを展望するべく、昨年からさまざまな調査を行なってきました。

 調査のひとつに、上述のキャッシュレスに対する生活者の意識を聞いたものがあります。紙幣や硬貨などの現金を使う必要のない、いわゆる「キャッシュレス社会」について、将来的に「なったほうがよい」のか「ならないほうがよい」のか考えを聞いたところ、

●キャッシュレス社会への賛否(全体)
 「なったほうがよい」48.6%
 「ならないほうがよい」51.4%
 

と、ほぼ半々で拮抗する結果となりました。

出典:博報堂生活総合研究所「」 (2017年11月、全国20〜69歳男女3600人、インターネット調査)※以下データも同様


 キャッシュレス化が徐々に進んでいても、完全なキャッシュレス社会への賛否は半々。むしろ、若干反対が賛成を上回り過半数を占めている結果とも言えます。反対の声を、多いとみるべきでしょうか、少ないとみるべきでしょうか。

キャッシュレス社会、男性は賛成、女性は反対

 この結果の内訳を、もう少し細かくみていきます。性・年代の区分でみると、実はキャッシュレス社会に賛成の層と反対の層は分かれていることが分かります。

 最も特徴的だったのが、男女差です。

●キャッシュレス社会への賛否(男女別)
 男性では、賛成58.7% 反対41.3%
 女性では、賛成38.5% 反対61.5%
 

 男性は賛成が6割弱、一方の女性では反対が6割強と、男女で賛否が真逆という結果になりました。全体でみれば賛否半々ですが、男女でみれば意識がだいぶ異なっています。

 さらに、「男女×年代別」でもみていきます。

単位:%


 若い世代のほうがキャッシュレスなど新しい物事には受容性があるかと思いきや・・・意外にも賛成の割合は、男性も女性も、若干ですが上の世代の方が高い傾向にある。そんな結果となりました。

 ただし、この結果に関してはインターネットによる調査のため、高齢の方でも電子的なリテラシー、受容性が高い可能性があることを念頭に置く必要があろうかと思います。

賛成理由、男性は利便性・女性はお得感

 キャッシュレス社会に賛成・反対というからには、その背景には何かしらそう考える理由があるはず。賛否それぞれにどんな理由があるのでしょうか。自由記述で回答してもらった声を集計してみました。

 まずは「キャッシュレス社会に賛成」の理由から。

●キャッシュレス社会に「賛成」の理由
 1位:現金を持たなくてよいから 14.7%
 2位:利便性が高いから 10.7%
 3位:お得だから 6.9%
 4位:やりとりがスムーズだから 6.3%
 5位:管理しやすいから 5.5%
 

 1位は「現金を持たなくてよいから」。

「現金の出し入れで次の方を待たせる場合も多いので、持ち歩かないほうが便利」(60代女性)
「現金を持ちたくない。不潔だし、財布も重くなる」(50代女性)
 

 現金の出し入れが手間、かさばる小銭が重くて面倒、という意見は多かったのですが、それに混じって目立ったのが上に挙げたような「現金は不潔だから」という声。おつりでボロボロの紙幣を受け取ったり、財布を使っているうちに小銭を入れる部分がちょっとずつ汚れていったりと、色々なところで「お金って汚いのかも・・・?」と感じさせるシーンはあります。日々の生活で扱うものの中で、お金ほど見知らぬ人の間を転々とさせているものもないでしょう。「誰が使ったかわからないものを持ちたくない」と考えている人たちにしてみれば、皆が「自分のお金」を扱えるキャッシュレス社会は歓迎すべきものなのでしょう。

 2位の「利便性が高いから」は男性で多く見られた意見。

「口座から現金をおろしたり送金に手間がかかるより、利便性が上がりそう」(50代男性)
 

 給料の支払いが集中するいわゆる「五十日(ごとおび)」など、街中でATM前の行列を見かけることがありますが、忙しい人にとってはその待ち時間さえ惜しいもの。お金の引き出しが不要になり、振込や送金も自分のパソコンやスマホなどの端末でできるキャッシュレスの利便性は魅力的に映っているようです。

 女性の声で多かった理由は3位の「お得だから」。

「クレジットカードは使うだけでポイントが貯まるし、現金のように手数料を取られずお得」(30代女性)
 

 クレジットカードや電子マネーの決済サービスを提供している事業者の多くが、利用に伴ってポイントを付与しています。最近は、さまざまなポイントを積極的に貯めようという「ポイント生活」に精を出す生活者も目立ちます。

 熱心に取り組んでいる方に話を聞くと、「いろいろな機会を活用すれば年間数万〜10万円分くらいは貯まる」とのこと。「どうせ使うならちょっとでもお得に」というやりくり意識を持った人には、現金よりもキャッシュレスが魅力的に映るのでしょうか。

 以上を概観すると「賛成」理由は男性が「利便性」、女性は「お得感」がポイントと言えそうです。

反対理由、男性は安全性・女性は浪費危惧

 一方の「キャッシュレス社会に反対」の理由は、どのようなものがあるのでしょうか。

●キャッシュレス社会に「反対」の理由
 1位:浪費しそうだから 10.9%
 2位:お金の感覚が麻痺しそうだから 10.1%
 3位:お金のありがたみがなくなりそうだから 7.9%
 4位:現金は必要だから 6.0%
 5位:犯罪が多発しそうだから 5.7%
 

 1位の「浪費しそうだから」、2位の「お金の感覚が麻痺しそうだから」、3位の「お金のありがたみがなくなりそうだから」は、いずれも現金のお金から感覚が変わってしまうのを懸念する声。これらは特に女性から多く上がりました。

「使った感覚がない売買は湯水のごとくお金を使いそうで怖い」(30代女性)
「考えなしに買ってしまいそう。現金は減るのを実感でき、考えて買い物ができる」(60代女性)
「お金を稼ぐありがたみが分からなくなりそう」(30代女性)
 

 どの声も、お金には目に見え、手に触れる「実体」があることが大事だと考えているようです。その手で支払い、使えば減っていくことが確認できるからこそ、稼ぐありがたさが実感でき、使いすぎに歯止めがかかるという考え方。たとえば、家計のやりくりを一手に担っている主婦の方など、ひと月分の生活費に当てるお金をまとめて引き出して、減り具合とにらめっこしながらやりくりをつけている人も多いでしょう。

 この方法で家計の管理を続けてきた人からすれば、キャッシュレス化で手元から現金が消えてしまったのでは、どんなふうに管理をしたものか、不安な気持ちになるのかもしれません。

 ちなみにキャッシュレス「賛成」5位には、上の意見と対照的な「管理しやすいから」という声が上がっています。

「いつ何にお金を使ったかが、インターネットやアプリで管理できれば楽」(30代男性)
「使用履歴が電子化され、閲覧や見直しができる」(50代女性)
 

と、お金をどんなふうに管理しているのか・したいのかは、キャッシュレスへの賛否に大きく関係していそうです。

「反対」4位の「現金は必要だから」、5位「犯罪が多発しそうだから」は男性から多く声が上がりました。

「暗証番号や個人情報が流出して、犯罪が起きる可能性がある」(20代男性)
「電脳世界の通貨は何らかの障害や天災が発生した際は使い物にならない」(40代男性)
 

 犯罪や有事を考えると、電子化されたお金よりも現金はリスクが低いのではという考え方です。個人情報のデータ流出やサイバーテロ発生をニュースなどで目にすることが増えた昨今。キャッシュレスへの拭い去りがたい不安がうかがえます。

 以上、「反対」の理由では男性が「安全性への不安」、女性は「浪費への不安」に特徴が表れました。「賛成」に比べて男女で理由がくっきり分かれたのも興味深い部分です。

 経済産業省のレポートによると、日本国内のキャッシュレス決済比率は2016年で約20%。目標として約10年後の2027年に40%にすることをうたっています。国の政策的にもキャッシュレス社会を目指す動きはどんどん進んでいくのでしょう。そこには確かに大きな利便性が認められ、経済を活性化させるポテンシャルも秘められています。

 ただ、今回の調査でも分かる通り、いまだにその賛否は半々。若い層でも決して賛成が多くなかった状況を考えると、社会を変えていこうとする動きに性急さを感じたならば、思わぬ反発も生まれるかもしれません。現に日本より遥かにキャッシュレス化が進んでいるスウェーデンでも近年、一度撤去したATMを再び戻すという反動が発生しています。

「便利なのは頭では分かる。でもどこか嫌な気がする」という複雑さを持ち合わせているのが生活者の心理。大切なお金となれば、なおさらでしょう。賛成反対それぞれの声に耳を傾けつつ、社会全体でよりよいお金への向き合い方を模索していくことが肝要と言えそうです。

筆者:三矢 正浩