左からペプチドリームの窪田規一会長、サンバイオの森敬太社長、シンバイオ製薬の吉田文紀社長(記者撮影)

健康医療分野が国家成長戦略の柱の1つに位置づけられ、産官学の連携が推進されている。だが、実はいま医薬品開発は曲がり角に来ている。過去30年の間に医薬品開発が大きく進み、患者、医療者の治療満足度は大幅に向上、がんでさえ早期発見できれば不治の病ではない。

一方で難治性の病気や患者数の少ない病気が取り残され、1つの開発成功で大きな市場・収益が確保できる時代は終わりつつある。化合物医薬品開発の成功確率はいまや3万分の1にまで低下するが開発費用は数百億円。片や医療費削減のために薬価切り下げが続き、新薬開発のうまみは低下の一途。大手製薬会社でさえ研究開発部門の縮小や創薬ターゲットの絞り込みを余儀なくされている。

そんな中、大学病院など臨床現場からの需要を受けて、アカデミア発を中心とした創薬系バイオベンチャーの存在感が高まっている。上場36社の開発ターゲットは、化合物医薬品から再生医療まで、がん治療薬からアルツハイマー病治療薬まで幅広い。創薬には15年以上の時間がかかるといわれるが、2003〜2004年のバイオベンチャー創設ブームからもうじき15年。黒字化が射程圏に入ってきたベンチャーも現れ始めた。

創薬基盤技術を生かしたペプチドリーム

ペプチドリームはバイオベンチャーの中でも特に注目を集める存在だ。東京大学の菅裕明教授が開発した独自技術を使って、低分子より大きくタンパク医薬より小さいサイズの特殊環状ペプチドを創出し、その中から医薬品候補物質を選び出す。

この技術自体もユニークだが、同様に重要なのはビジネスモデルだ。共同研究というお試しを経て最終的には技術ライセンス契約を結び、契約時と目標達成ごとにフィーが入る仕組み。共同研究はアストラゼネカなどグローバル大手製薬や田辺三菱製薬、第一三共など日本大手製薬計18社と実施。そこからBMS、ノバルティス、イーライリリー、ジェネンテック、塩野義製薬の5社が技術ライセンス契約に移行している。まだ薬の完成には至っていないものの、このビジネスモデルですでに年間50億円規模の営業利益を上げている。

創製した特殊環状ペプチドのうち医薬品にはならないものを使って、試薬や臨床検査薬、DDS(薬物送達システム)の研究や自社創薬の準備も進めている。


ペプチスター社設立の記者発表(記者撮影)

現在、提携先で治験を開始した案件は1、準備中が3と少しずつ増えており、原薬の製造体制整備への要望が高まっている。

そこで2017年9月には、同社と塩野義製薬、積水化学工業を中心とした総勢12社で特殊ペプチド原薬製造会社・ペプチスターを設立、社長にはペプチドリームの窪田規一会長が就いた。塩野義の摂津工場敷地内に製造拠点を設立し、量産体制整備に向けて準備を開始、「2019年の稼働入りを目指している」(窪田会長)。

体性幹細胞で神経損傷を治療するサンバイオ

2014年11月、再生医療等新法施行によって、日本は海外の再生医療開発企業からも注目を集めた。だが、新法施行から丸3年、再生医療等製品の臨床試験は複数進んでいるものの、承認はいまだ3件にとどまっている。

再生医療の目玉とされる、山中伸弥京都大学教授が開発したiPS細胞はまだ歴史が浅く、安全性などの点で解決すべき問題が多いと言われる。そのiPS細胞研究に資金が集中するあまり、現在世界の再生医療の中心であるES細胞や体性幹細胞による再生医療開発で日本は後れを取っている、と懸念する声もある。そんな中で体性幹細胞を使った再生医療で着実に治験の歩を進めているのがサンバイオだ。

再生医療で世界のトップランナーの1人、慶応義塾大学の岡野栄之教授のアイデアをもとにスタートした同社が進めるのは、健康な人の骨髄から取った間葉系幹細胞を培養して使う慢性期脳梗塞治療薬。2001年、キリン出身の森敬太社長とボストン・コンサルティング出身の川西徹会長が米国で設立したが、再生医療等新法施行を受けて2014年末に日本に本社を移した。米国では大日本住友製薬と2016年から臨床2相を行っており、2020年には臨床3相入りを目指す(日本は帝人にライセンス供与)。


他人の幹細胞を使うので量産化できる(資料提供:サンバイオ)

臨床1相の段階で、2年以上腕を動かせなかった患者が動かせるようになり、歩くこともできなかった患者がぎこちないながらも歩行できるようになるという成果を出し、カリフォルニア州再生医療機構から総額2000万ドル(約22億円)の開発支援金も獲得している。

国内では外傷性脳梗塞治療への適応が先行する。2016年秋から日米で自社での臨床2相を開始。国内では2019年ごろの早期承認を目指す。「課題は量産体制の整備」と森社長は言うが、すでに米国の製造受託会社CMOと体制整備を始めている。加齢黄斑変性、パーキンソン病などへの適応拡大も控えている。

開発拠点を持たず、目利きが命のシンバイオ

開発品の販売収益による営業黒字化に最も近いのがシンバイオ製薬だ。

血液がんの1つ、再発・難治性低悪性度非ホジキンリンパ腫治療薬「トレアキシン」の承認取得が2010年(販売はエーザイ)。2016年には初回治療、慢性リンパ性白血病への適応拡大、用量追加などの承認を得ている。

今のところ患者数は一万数千人と多くないが、臨床3相中の再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫などへの適応拡大となれば患者数は倍以上になる。しかも患者会からの早期の承認を求める要望が厚生労働省に出されるほど期待されている。このままなら2019年ごろには営業黒字化も十分に可能なはずだった。

ところが、同社は2017年9月にトレアキシンの新剤形RTDとRI2種(液剤)の導入を決めた。RTDは病院で溶剤に溶かす作業が不要となり既存剤より扱いやすい。また、RIは投与時間を60分から10分に大幅短縮でき、さらに有望だ。単なる剤形追加なら置き換えにすぎないが、2020年で終了するはずだった実質的な市場独占権を2031年まで延長できる。これはトレアキシンのブランド価値を守る重要なカギになる。

時間の余裕が出来たので、2018年1月から懸案の経口剤治験も開始した。これで固形がんへの適応を目指す。また、RIやもう1つのパイプライン、骨髄異形成症候群治療薬「リゴセルチブ」の国際共同治験3相の症例数拡大費用なども合わせ、営業黒字化はもう少し先になりそうだ。

とはいえ、創業13年目で一時金収入なしの販売ロイヤルティベースで30億円規模(2017年度予想)にまで伸ばした秘訣はどこにあるのか。シンバイオには研究開発拠点がない。海外ですでに承認されているか、POC(安全性と有効性の確認)を獲得している医薬品を国内に導入し治験を行う。治験は病院が主体となるため、シンバイオで行うのはデータ収集と解析だ。

「世界中が研究拠点」と吉田文紀社長は笑う。アカデミア発ベンチャーとは異なり特定開発品へのこだわりはないが、収益化には目利き力がものをいう。だがそこは、世界最大のバイオベンチャー、アムジェン副社長、日本法人社長も務めた吉田社長をはじめとする選定チーム。常時世界中の開発案件に目を光らせ、がん、血液、疼痛管理の3つを柱に、新たな開発品の探索に力を注いでいる。

技術力はもちろんのこと、それを事業化へと導く独自のビジネスモデルを持つかどうかがバイオベンチャー成功の1つの分かれ目といえそうだ。今後も3社の動向から目が離せない。