アップルのティム・クックCEO(2017年9月のスペシャルイベントにて筆者撮影)

アップルの大株主、ジャナ・パートナーズとカリフォルニア州教職員退職年金基金は1月6日、「Think Differently About Kids」というアップルがかつて同社のブランディングに使っていたキャッチコピー「Think Different」をもじった公開書簡をネット上に掲載した。内容は、子どもたちがスマートフォン中毒に陥っているとの調査結果とともに、アップルはそうした現状を改善することができるという主張だ。

アップルが大株主から提起された懸念は、子どもを持つ親にとって非常に身近なテーマといえる。

アップルはその売上高の6割以上をiPhoneから得ている。さらにアプリ販売手数料などのiPhoneが使われれば使われるほど成長するサービス部門は売上高全体の16%へと成長。このサービス部門だけでも、すでに米企業の売上高ランキング「Fortune 100」の100位に匹敵する規模だ。

「子どもに配慮すれば販売は伸びる」と提言

しかし公開書簡では、こうしたアップルのiPhoneとその周辺のビジネスモデルは、「過度な利用を想定していない」として、子どもたちの使いすぎを防ぐ取り組みはアップルの売り上げに大きな影響を与えるものではないと主張する。さらに、子どもへの配慮をiPhoneに加えることで、その販売台数を伸ばすことができると指摘した。

iPhoneの長時間利用が間違っている点については、アップルの幹部も認めている。2017年10月に、『The New Yorker』主催のTechFestに登壇したアップルのデザイン最高責任者ジョナサン・アイブ氏は、iPhoneが作り出したスマートフォン時代について、次のように語った。

「あらゆる道具と同様に、すばらしい活用もあれば、間違った使い方もある。(その間違った使い方とは)つねに使い続けることだ」

ティム・クックCEO(最高経営責任者)は1月19日、アップルが取り組むプログラミング教育カリキュラム「Everyone Can Code」の視察を行うため英国ハーロウ大学を訪れ、テクノロジーの過剰な使用があるとは考えていないとしたうえで、「自分には子どもがいないが、甥がおり、なんらかの境界線を引いている。いくつかのことを禁止しており、ソーシャルネットワークには参加させたくない」と明かした。

クック氏は「私は人々がつねにテクノロジーを使うことを成功として目指しているわけではない」とも語っている。

アップルが取り組んできた「子ども向け機能制限」

アップルはiPhoneと組み合わせて利用するソフトウエアやiOSにおいて、機能やコンテンツに制限を加える仕組みを整備してきた。

「設定」アプリの「機能制限」の設定メニューから、その端末でできること、アクセス可能なコンテンツについて、細かく設定し、端末のパスコードとは異なる「機能制限パスコード」で設定を保護することができる。

機能制限は大きく分けて「機能」「コンテンツ」「プライバシー」の3つの項目に分かれる。

「機能」は、Safari、カメラ、FaceTimeなどの標準アプリに加え、Siriと音声入力、ほかのデバイスとの間でファイルの送受信が可能なAirDrop、そして手元のコンテンツを自動車の車載機で利用できるCarPlayが先頭に表示されている。

また、Apple Musicに用意されたプロフィール機能やPodcast、ニュース、iTunes/iBook Storeといった外部の情報を取り入れる機能、アプリダウンロードを行うApp Storeについても、利用を制限することが可能だ。またコンテンツについては、すべてのダウンロードを制限できるほか、年齢制限や過激な表現を排除する設定を行うことができる。

プライバシー機能は、位置情報やカレンダー、写真など、個人情報のアプリからの利用を制限するものだ。これらについては、新しいアプリが情報を利用する際に、一般のユーザーに対しても許可を求めている内容だ。
これらの機能は、iPhoneやiPadを利用する子どもたちが、自分たちの情報を外部に送ったり、触れてほしくない情報を制限するものであり、いわゆる「ペアレンタルコントロール」と言われているものだ。

しかし今回の公開書簡で取り扱っている問題は別のところにある。

10代の若者の成長過程において、iPhoneやiPhoneを通じたSNSを活発に使うことは、悪影響を及ぼすとの研究結果が、アップルへの公開書簡に多数示されていた。

カナダのアルバータ大学の調査によると、67%の教師がデジタルテクノロジーの進出による生徒の注意力散漫を認めており、75%の教師が学習活動に対する集中力を欠いていると答えている。またスマートフォンにのめり込んでいる生徒たちは、感情的になったり、抑うつや睡眠障害となる確率が高まるという。

加えて、米国心理学協会の調査によると、親3500人の58%がSNSに対して子どもの肉体的・精神的な成長への影響を懸念しており、48%が子どもとの間で「スクリーンタイム」(デジタルデバイスを使う時間)のルールについて日常的にケンカをしていた。また58%が、自分たちの子どもがスマホやタブレットの付属品のようだ、とも答えている。

またスマホ中毒に対して、子どもたち自身も自覚症状があるようだ。アメリカの平均的な10代の子どもたちがスマートフォンを手にするのは10歳で、メッセージや通話を除いて平均4.5時間を費やしている。78%が少なくとも1時間に1度はスマホを確認しているが、50%の子どもたちは「スマホ中毒」であると感じているという。

親は孤独な戦いを強いられている

こうした状況の中で、前述の米国心理学協会の調査によると、94%の親が子どものテクノロジー利用を管理しようとしたという。しかし公開書簡では、その対策は非現実的であり、長年にわたって業界の取り組みが弱いことで、親は孤独な戦いを強いられており、アップルが親とパートナーシップを組み、次世代の顧客の健康や正しいあり方を守る方法に取り組むことべきだというのが主張だ。

公開書簡の背後には、20億ドル規模のアップル株主がおり、アップルとしては真摯に受け止めるべき理由がある。一方で、これらの主張をすべてアップルが解決できるか、と言われると疑問も浮かび上がる。

スマートフォンを製造しているのは確かにアップルであり、その上で動作するアプリ開発環境を与えていることにも間違いはない。しかしコミュニケーションの文化をアップルが築いたわけではなく、また中毒に陥るようなメッセージアプリやSNS、ゲームなどを作っているのもアップルではない。

その一方で、最新のアプリを快適に動作させたり、SNSにすばらしい写真を共有できる点をアップルは新型iPhoneの訴求に活用しているし、前述のとおりアプリの売り上げの15〜30%を手数料として受け取っていることから、スマホ中毒がアップルのビジネスにプラスに働いているとの見方は否定できない。

この公開書簡の主張どおり、アップルがなんらかのアクションを起こせば、特に先進国市場でスマホ中毒に陥る半数ほどの子どもたちに対策を施すことになるだけでなく、テクノロジー業界での子どものスマホ中毒対策への取り組みに競争が生まれる可能性すらある。

アップルがスマホ中毒の全責任を取る必要はないが、変化を作り出す可能性が最も高い企業であることは間違いないのだ。

幼児の親と話すと、iPhoneやiPadに助けられた経験を持つ人は非常に多い。たとえば家事でちょっと手が離せないときに子どもが好きな歌のビデオを見せておいたり、クルマで移動するときに気を紛らわす役割を果たしたり……。たとえよくないと思っていても、子育ての強い味方になってくれるデバイスについ頼ってしまうのも現実だ。

幼児は簡単にスマホ中毒に陥ってしまう

1歳の子どもであっても、親が操作している様子を横で見るだけですぐに操作方法を覚え、自分で好きなサムネイルをタップしてビデオを選ぶことができるようになってしまう。これはアップルが作り出したiPhoneやiPadのインターフェイスが非常に優れていることの表れだろう。

しかしそうした幼児も、簡単にスマホ中毒に陥り、ビデオの途中で親がデバイスを取り上げようものなら泣きわめいて抵抗し始める。スマホの操作が簡単なように、スマホ中毒へ陥ることも、それだけ簡単なのだ。

公開書簡で話題になっていたスクリーンタイムの制限について、現在のiOSの「機能制限」機能ではコントロールすることができない。そのため、親がiOSの設定で、子どものスマホ利用時間を強制的に区切ることは不可能なのだ。

子どものスマホ中毒をいかに防ぐか。前述の調査のように、多くの親がスマホの使いすぎに対して子どもとケンカになるほど難しい問題だ。一方で、明確なルールの設定と、そのルールに沿った運用ができるデバイスを導入することを試してみるとよいかもしれない。

筆者は自宅にGoogleブランドのWi-Fiルーター「OnHub」を利用している。このルーターにはWi-Fiを利用するデバイスごとに、アクセス可能な時間帯を制限する機能が用意されている。

OnHubには設定アプリ「Google Wi-Fi」が用意されており、自宅や外出先からルーターの状況を確認することができる。

このアプリで、デバイスごとにネットワークアクセス可能な時間を設定したり、家中のデバイスをいっせいにオフラインにする機能が用意されている。またデバイスのグルーピングも可能だ。

たとえば、2人の子どもがいる家庭でGoogle Wi-Fiを導入し、それぞれのデバイスに名前をつけておけば、Google Wi-Fiアプリの上で、そのデバイスを簡単に特定できる。


Google Wi-Fiの設定画面。たとえば、子どものデバイスをグループ化した「child」を作り、 就寝時間前後のネットアクセスを制限する設定を行うことができる(筆者撮影)

子どものデバイスをすべて1つのグループにまとめ、夜9時以降はネットへのアクセスを禁止する、というスケジュールを設定しておくことができる。もちろん子どもにそのことを伝えておき、ルールの中で利用することを学んでもらうことも重要だが、夜中までビデオを見たり、友達とチャットをすることを防げる可能性が高まる。

また、食事中は大人も含めて、あらゆるデバイスのアクセスを禁止するという家庭ルールを決めた場合でも、Google Wi-Fiアプリからボタン1つで実現することができる。しかも、1時間後に自動的に復帰させることができるため、オンラインにし忘れた、ということもない。

アップルが販売するWi-Fiルーター「AirMac」の設定アプリにも同様のアクセス制御の機能は用意されているが、スマホアプリから手軽にスケジュールを組み、またいっせいに切断・1時間後の復帰、といった操作に対応するGoogleの製品のほうが、家庭のルールを細かく設定でき、こうした用途に向いている。

「家族単位」は2018年のテーマか

今回の公開書簡以前から、アップルは家族単位でアップル製品を活用してもらう取り組みを始めていた。

iCloudでは家族メンバーを設定することで、共有カレンダーや写真アルバムを自動的に作ることができ、App StoreやiTunesで購入したアプリや音楽、映画なども、家族が再購入することなく利用できる。また2017年に配信されたiOS 11からは、iCloud追加ストレージも分け合えるようになった。

購読型音楽サービスApple Musicでは、サービス当初から、月額980円の個人プランに加えて月額1480円のファミリープランを用意し、家族6人まで登録して利用することができる。

このことから、アップルが家族でのiPhone利用を促進し、強固なユーザー基盤の1つとして活用していることが透けて見える。であればこそ、家族の中で生じるiPhoneやiPadを使ううえでの問題点、すなわちスマホ中毒やスクリーンタイム削減への対策は、今年すぐにでも取り組むべき課題だ。

幸いなことに、iCloudの設定には、「家族」という単位がすでに存在している。この機能を拡張しながら、コンテンツのアクセスやデバイス利用時間の管理などの機能を追加することで、ジョナサン・アイブ氏がいう「使いすぎ」という間違った使い方を避けるデザインを実現していくことができるだろう。