三越伊勢丹ホールディングスが業績低迷に苦しんでいる。

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百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングスが業績低迷に苦しんでいる。実店舗とネット通販の融合に活路を求めるが見通しは厳しい。「脱百貨店」を打ち出すライバル企業は市場からの評価も高く、時価総額ではJ.フロントに抜かれたままだ。名門百貨店はこれからどうなるのか――。

■「ネット通販強化」で名門復活できるか

三越伊勢丹ホールディングス(HD)が苦しんでいる。当面の再建策としては、不採算店補の閉鎖、希望退職者の募集をはじめた。さらに成長戦略としてネット通販と実店舗との融合を打ち出した。しかし、 現在の百貨店事業は“絶滅危惧種”ともいえる状況にあり、あくまで小売りにこだわる姿には名門復活への険しい道のりだけが映る。

「最大の資産は400万人の顧客基盤。ITを活用し顧客との接点を強化する」――。大西洋前社長の突然の辞任を受け、昨年4月に就任した杉江俊彦社長は、新体制下で初めて策定した中期経営計画を発表した11月7日の記者会見で、本業の再生を強調した。中期計画の主軸に据えたのは約4000社の取引先に参加を促し、今年4月をめどに新たに立ち上げる「三越伊勢丹」ブランドのネット通販と実店舗との融合だ。三越伊勢丹の「のれん」という強みをデジタル化し、百貨店の“王道”で復活をかけるシナリオだ。

しかし、再起をかけた道のりは険しい。中期計画で掲げた2020年度の営業利益目標350億円は、大西前社長が掲げた500億円の目標を大きく下回る。しかも、17年度見通しの180億円からの積み増し分は不採算事業の整理・人員削減をはじめとする合理化効果に頼り、ネット通販による「稼ぐ力」は織り込んでいない。まずは「構造改革に専念する」(杉江社長)と、控え目な目標とせざるを得ない事情も垣間みえる。

実際、12月21日に明らかになった17年度の希望退職制度の応募者は173人となり、前年度の60人弱から3倍近くに跳ね上がった。中期計画で中核事業会社の三越伊勢丹で部長級の希望退職者の対象を50歳から48歳に引き下げ、退職金も最大5000万円に加算した制度改定の効果が表れた格好だ。それでも、想定している水準は3年間で800〜1200人で、達成にはほど遠い。今年3月に伊勢丹松戸店(千葉県松戸市)を閉店し、傘下の高級食品スーパー「クイーンズ伊勢丹」の運営会社株式の大半の売却を決めるなど矢継ぎ早に打ち出した再建策も道半ばの印象はぬぐえない。

■ライバルは「脱百貨店」路線 を加速する

同業のライバルは事業構造変革で三越伊勢丹の一歩も二歩も先を走る。J.フロントリテイリングは、11月4日、松坂屋上野店(東京都台東区)の南館跡地に地上23階建ての商業施設「上野フロンティアタワー」をオープンした。ここには地上1〜6階に傘下のパルコが運営する「PARCO_ya(パルコヤ)」のほか、映画館も入居しており、百貨店にこだわらないことで、客層の若返りを図っている。

J.フロントは昨年4月、松坂屋銀座店跡地に大型複合商業施設「GINZA6」を開業したばかりで、不動産事業へのシフトを強める。山下良一社長は「百貨店にこだわらず新たな息吹を吹き込む」と、「脱百貨店」の路線を一段と加速する。

三越伊勢丹HDは売上高では現在も業界最大手だが、昨年5月、株式時価総額でJ.フロントに抜かれ、百貨店業界トップの座を初めて明け渡した。現在も時価総額はJ.フロントに抜かれたままで、構造改革の遅れが響いている。

高島屋は「まちづくり」の開発事業への傾斜を強める。今年9月には日本橋高島屋(東京都中央区)を核とした新・都市型ショッピングセンター「日本橋高島屋S.C」をオープンする。重要文化財に指定されている高島屋日本橋店に隣接する専門店エリアを新設し、百貨店を中核とした売り場面積6万6000平方メートルの商業施設が都心に誕生する。三井不動産などと進める「日本橋二丁目地区第一種市街地再開発事業」の一角で、日本橋を魅力と活気にあふれた街にするという。

高島屋はグループで「まちづくり戦略」を推進しており、それを象徴する存在に位置付ける。昨年12月1日には武田薬品工業から日本橋にある東京本社ビルなど2物件の土地・建物を総額495億円で取得することも発表しており、高島屋の本社機能やグループ会社を集約するほか、将来的には日本橋再開発と連動した活用も検討する。

三越伊勢丹も不動産事業には取り組んでいる。今年4月には、JR国分寺駅(東京都国分寺市)北口に専門店約50店舗を誘致した新しい商業施設「ミーツ国分寺」をオープンする。しかし、急速な構造改革を断行しようとした大西前社長が残した社内の不協和音の解消と不採算事業からの撤退などリストラの同時進行という“負の遺産”の解消は茨の道に違いない。

■「名門復活」へ手探りの経営が続く

昨年暮れにJ.フロント、高島屋が発表した17年3〜11月期連結決算はインバウンド(訪日外国人観光客)需要の戻りなどが寄与し、それぞれ好業績だった。最終利益でJ.フロントが前年同期比24%増の237億円、高島屋は同9%増の144億円と利益を伸ばした。両社ともにインバウンド需要が堅調に推移したほか、株高による資産効果から富裕層による高額消費の拡大も追い風となった。J.フロントはGINZA6の開業も寄与し、脱百貨店経営が実った格好だ。三越伊勢丹が希望退職募集により17年10〜12月期に約43億円の特別損失を計上したのと対照的だ。

ただ、旺盛なインバウンド需要を取り込めるのは大都市部の旗艦店でしかなく、地方の店舗は苦戦続きだ。実際、16年の全国百貨店売上高は36年ぶりに年間6兆円を割り込み、百貨店はもはや大都市圏でしか生き残れない“絶滅危惧種”にも映る。それは「のれん」に頼るビジネスモデルが崩壊しつつあることを意味し、あくまで小売りにこだわる三越伊勢丹の中期計画に、株式市場関係者や業界関係者が冷ややかな目を向けるのもうなずける。実際、三越伊勢丹のほかセブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武も地方・郊外を中心に店舗閉鎖に動く。

百貨店によるネット通販も成功するかどうかは未知数だ。先行する米国ではアマゾン・ドット・コムの攻勢を前に、百貨店は活路を見出せていない。日本市場においてもアマゾン、楽天市場に加え、衣料品専門のネット通販の存在感は圧倒的であり、三越伊勢丹が新たなネット通販で確かな成長戦略を描けるかは不透明だ。名門復活に向けて手探りの経営を続けざるを得ない。

(経済ジャーナリスト 水月 仁史 撮影=宇佐見利明)