タンザニアの家族。この家族は5人の子どものうち2人がアルビノであり、「アルビノ狩り」の恐怖に直面している(写真:TiggyMorse/iStock)

フジテレビ勤務の敏腕テレビマンが、3作目のサスペンス小説を書き上げた。処女作『血讐』、2作目『シスト』に続く今回の作品は『呪術』。アフリカにいまだに残っている「アルビノ狩り」をテーマに選んだ。それは、なぜなのか。そしてこの作品に描かれていることとは?

「アルビノ狩り」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

この世には本当に信じられないことが実際に起きている。それは処女作『血讐』が発売され、次作のテーマを考えていた2013年の秋だった。世界各地で起きる事件を扱う某民放バラエティ番組を観ていた私はその日のテーマに引きつけられていた。そのテーマとは、アフリカで問題になっているおぞましい出来事、「アルビノ狩り」だった。

生きたアルビノの人達が襲われている

呪術師の作る民間薬がいまだに広く使われているアフリカ東部では、権力や幸せ、健康をもたらすポーションと呼ばれる薬を作るために、なんとアルビノの身体の一部が使われることがあるというのだ。にわかに信じがたい話だ。

アルビノの肉体を入手するために墓場も荒らされることがあるというが、最も残酷なのは生きたアルビノの人達が襲われ、身体の一部を奪われ、時には殺されることもあるという恐ろしい実態だ。

2017年9月にはアフリカ南東部モザンビークで、アルビノの17歳の少年が殺害され、脳などが奪われた状態で発見された。AFPが伝えた地元当局者の話では、「犯人らは被害者の腕や脚から抜き取った骨や、髪の毛を奪ったうえ、頭を割って脳を取り出していた」という。

遺伝的な原因で生れつきメラニン色素を生成する機能が欠けていることによって、肌や毛髪の色が白くなる症状が出るのがアルビノだ。アルビノ狩りについては、遠いアフリカで起きているということで、たまにバラエティ番組やニュースの特集になる以外、日本ではあまり話題になることがない。

筆者はテレビ局で報道の記者や情報番組のプロデューサーなどをしていた20年のうち、3分の1を海外にかかわる部署で過ごしたが、恥ずかしながらアフリカでアルビノが置かれている現状について知らなかった。

だからこそ、このアルビノ狩りをテーマにサスペンスやミステリーを書いてやろうと思ったのがこの小説『呪術』の原点だ。

親類に襲われるケースも

読者にあまりなじみがないアフリカという土地、そして主要な登場人物に呪術師を選んだ時点で小説の骨格は決まった。そして、テレビで見たアルビノ狩りに遭い、片手を失った女性の姿が頭に強く印象に残っていた筆者はアルビノの少女を登場人物の柱に据えようと決めた。

『呪術』の序盤では日本人とタンザニア人の両親を持つ、12歳のケイコがアルビノ狩りに遭う。

叔父以外の三人はみな手にライフル銃か鉈を持っている。銃を持つ男が一人、残りの二人は鉈を片手につかんでいた。刃がギラリと光った。
(『呪術』第一章より)

彼女を襲ったのは見ず知らずの人間ではなく、父方の叔父だった。実際、アフリカでは親類に襲われるケースもあるという。ケイコは主人公であるツアーコンダクターの女性、麻衣と共に日本に逃げるのだが、なぜか日本でもその身体を狙われてしまうことになる――それが『呪術』のストーリーだ。

『呪術』では世界的に有名なモデルの中国人女性が登場するが、その外見のユニークさを生かしてモデルとして活躍する例は実は欧米などでは珍しくないが、日本ではあまりそうした例は知られていない。


アルビノのエンターテイナー、粕谷幸司さん(撮影:Harumasa Togashi)

だが、小説の執筆を進めるうち、日本でもアーティストやモデル活動をしている人たちがいることを知った。エンターテイナーとして歌手をしている粕谷幸司氏や、モデルのCHIHIROさん達がその例だ。

2人と話して共通していたのは、アルビノだから何かができないと感じたことはないとはっきり言い切る点だ。

アルビノは視覚障害を伴うことが多く、紫外線にも弱いというハンディがある。だが、粕谷さんは「建物の影がどこにでもありますし、特に不便はないです」ときっぱりと言う。


アルビノのモデル、CHIHIRO(instagram.com/chihiroalbino

アルビノであることを気にせず生きてきた

CHIHIROさんも「私は学生時代からアルビノであることを気にせず、生徒会長をしてみたり、陸上部として外を走り回ったりしていました」と笑う。自分の髪の毛を「子どもの頃からただ純粋にきれいだと感じていた、それだけです」と語るCHIHIROさんは今後、海外でのモデルの仕事を考えているという。


日本にいるアルビノの人すべてが2人のような考えを持っているわけではないし、粕谷さんとCHIHIROさん、お2人にしても考え方はそれぞれ違う。それでも積極的に人前に出ようという2人の姿勢は正直、筆者には新鮮だった。

だから、自分の中にあった「アルビノに関する常識」を修正し、日常生活を送るうえでは大丈夫だという2人から聞いた情報を盛り込むことにした。

さらにキャラクター設定でもケイコのキャラクターを親しい人を失った「可哀想な存在」から「自分の運命を切り開こうとするたくましい存在」に変えた。この辺りはぜひ小説を読んでいただければと思う。