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●単なるB2Bではなく、顧客視点で作り上げるモノを

日本マイクロソフトで会長を務めた樋口 泰行氏が、パナソニックの社内カンパニーであるコネクティッドソリューションズ社・社長(兼 パナソニック 代表取締役 専務執行役員)に就任してから、8カ月が経過した。樋口氏がパナソニック改革のために何を行っているのか、単独インタビューを行った。

前編では、樋口氏がかかわる「B2B(法人)事業」の方向性と、その行方について聞いた。パナソニックはこの数年「B2B事業シフト」を敷いているが、一方で樋口氏が参画した2017年度は、過去のやり方とは異なる事業展開を模索しているようにも映る。新しいパナソニックの「B2B戦略」の本質とは何か、樋口氏に尋ねた。

○スペックアップから「顧客視点」へ脱皮せよ

「単なるB2Bなら簡単なんです」

樋口氏は冒頭、そう切り出した。もちろんこれは、「法人市場は与し易い」と言っているわけではない。パナソニックが向かうべき市場は取り組み方が違う……というのが真意とみるべきだろう。

B2Bというが、その中身を精査すると業態は大きく3つに分けられる。一つは企業から企業へと売る「B2B」。次に、最終的には消費者に売るものを、特定の企業へと売る形態である「B2B2C(最後のCはコンシューマのC)」。さらに、最終的な売り先が別の企業になる「B2B2B」が考えられる。

「B2B2BとB2B2Cは、単品やパーツの状態で納めて、納めた先の企業がインテグレーションし、その先のエンドユーザーにソリューションとして納めます。そこに類するB2Bでは、ハードウエアやパーツの供給にとどまります。しかしB2Bは、『B』でとどまる。すなわち、この『B』がエンドユーザーとしてのお客様になるわけです。この場合には、我々がソリューションを作り、お客様とすり合わせをして販売します。難しいのはこちらです」(樋口氏)

樋口氏が話す「難しい」とは、単品やパーツを納入するだけではなく、それ以上のビジネスにレイヤーアップしていくことの難しさを指している。パナソニックは長年、モノづくり企業として「良い製品」「良いパーツ」を作ることに力を注いできた。それは今も変わらず重要なことであり、パナソニックの差別化ポイントも依然として「良いものを作る能力がある」ことにある。しかし、それだけではもうやっていけない。

「従前からのB2Bのサプライチェーンは、良いものを作ってそれを大量に納入するという点においてB2Cと変わりがなく、これまでは『事業部制』による自己完結でやっていてもよかった。しかし、これからは作ったものを組み合わせて売らなければいけない。時には他社から調達することも必要になります。そういう感覚を持てるかどうか。ずっと製品単品の『スペックアップ』だけをやってきた人間には、それ自体が難しいんです。お客様の声に耳を傾けて、そこから課題を見つけ出し、ソリューションとして提供することで価値を最大化することが、感覚的にも難しい。事業部をまたいでの調整も必要になります。他社の製品の組み合わせも考えなければならない。これはパナソニックが今までやってきたこととは大きく違います」(樋口氏)

樋口氏は大学卒業後、松下電器産業(当時)に入社し、その後外資へと転身した。外資で営業の一線に立ち、「かなり営業の脚力がついた」(樋口氏)という。マイクロソフト時代は顧客と直接対応し、課題解決のためのソリューションを売る、というトップセールスを多数展開してきた。その目から見ると、パナソニックのB2B戦略はまだまだ改善の余地があった。

「スペックアップを目的に製品を作っている時には、製品だけに視点を向けた状態で開発しても良かったんです。しかし、ソリューションを提供するためには、単なるスペックアップの視点ではなく、『お客様にとって何が嬉しいのか』といった、もっと高い視点、「顧客視点」で見る必要があります。その実現には、組織間でのコーディネーション、すなわちプロジェクトマネジメント能力が求められます。さらにデジタリゼーションの中では、コントロールのレイヤーはソフトウエアです。したがってソフトの知見もなくてはいけません。IoTも同様です。このように難しさのレイヤーがどんどん上がっていきます。それがゆえに、ソリューションビジネスをやったことのある経験者がますます重要になります」(樋口氏)

そうした部分がパナソニックにはまだまだ不足しており、そこを満たしうる組織への変革こそが、今、樋口氏が手掛けようとしていることだ。

●目指すは「モノが動く現場のインテグレータ」

樋口氏の指摘は、聞きようによっては、非常に辛辣な批判にも聞こえる。だがその背景にあるのは、「パナソニックならできる」「パナソニックの持つ技術はソリューションに生きてくる」という判断と、強い信念があってのものでもある。

「パナソニックには『AVソリューションが強い』『モノづくりに長けている』『ファクトリーオートメーションが強い』といった評価があります。少なくとも、そうした部分で元請けとしてトータルで仕事を任せられる、とお客様に期待していただけると思っています。パナソニックは製造業として、工場での生産性向上や省力化の知見を貯めています。そういった知見は工場の中にとどまらず、流通や倉庫、小売りの現場において生産性をどう向上させるかというポイントにも応用できるでしょう。もちろん、生産性向上の分野では『デジタルのインテグレータ』が多数います。しかし、特に『モノが動く』ことを前提とする事業領域において、当社へのインテグレータとしての期待値は非常に高く、これこそがコネクティッドソリューションズ社に求められる領域なのだな……と感じます。その強みを一言でいえば『現場』。例えば、当社は店頭で活躍している決済端末や物流分野のドライバー向け端末など、現場で使用されるエッジデバイスで高いシェアを持っています。そこにRFIDなど組み合わせて流通のトレーサビリティを実現する……といったことをトータルでお客様にご提供できる企業は多くありません」(樋口氏)

すなわち、製造業として培ったノウハウを「お客様の課題解決」に置きかえ、「モノが動く」現場のインテグレータになることが、パナソニックの強みを生かしたソリューションビジネスになる、ということなのだ。

さらにこのポジションにいることの強みは、もう一つある。

「一般論になりますが、これまでは意外と、子供でもできるようなことがあまり自動化できなかったんですね。置いてあるペンを持ちあげるようなことでも、どこに重心をとればいいのか。そんなことが問題になって自動化できなかったんです。だから依然として人による作業が多く残っている。子供ができるようになるのは、目で見て失敗から学習するからです。現在、ディープラーニングとセンサーの技術の進化がちょうど融合して、そういう部分の自動化ができるようになってきた。これは、変化ポイントとして大きい。しかしAIも画像認識も、今後はコモデティ化します。だからこそAIに「どうやって学ばせるか」の知見を持っている企業は強い。たとえば熟練工にしかできないような作業は、知見をもっていないとAIに学ばせることはできません。そこで当社の従来からの強みである画像処理技術などが力を発揮してくると思います。もちろん、足りない部分はたくさんありますよ。今後は、足りない部分をさらに補っていくのが正しいやり方であると考えています」(樋口氏)

パナソニックがさまざまな「現場」で蓄えてきた知見を「ソリューション」という高い視点で整えて、これまでとは別の形で、より広いビジネスパートナーに提供していくことが、パナソニックの目指す「真のB2B」の正体なのだろう。

では、そのためにはどのような組織改革が必要なのか? その点は、後編をご覧いただきたい。